第74話 魔天使の城
浮遊島が再び元の大地に戻り、大量のモンスターを圧死させた後、着地を合図に動き出した兵士たちは、辺境伯長男のタニーノさんを筆頭に王都へ向かって進軍を開始していた。
伯爵領側のルートは道幅が狭いこととキマイラの存在によって進行不可能となっているため、軍が使うルートは男爵領からの迂回ルートになっている。
まず侵攻部隊が目指すのは男爵領と伯爵領の境に位置している貿易都市ジャガジャリンだ。
第一部隊、第二部隊、第三部隊が陸路を進み、第四部隊がジャガジャリンの近くを流れている川を使って補給を担当。特別航空部隊が戦闘機と爆撃機で進行ルート上のモンスターをできるだけ排除する。
第一、第二、第三部隊の数はそれぞれ1500人ずつの計4500人、戦車は200両、物資運搬の車両については各部隊相応な数を配置している。
第四部隊の物資運搬は船による輸送が中心となるため、必要な兵員は陸路より少なくて済む。そのため第四部隊は護衛も含め約500人の編成となっている。物資運搬が完了したら彼らも王都への侵攻部隊に加わって合計5000人の部隊になる予定だ。
特別航空部隊は迎撃戦闘機を50機、地上支援戦闘機を50機、中型爆撃機を20機、大型爆撃機を10機で陸の部隊をサポートする。
基本的にこの航空部隊はモンスターの相手と偵察が主な任務だ。
戦闘機100機はすべてが陸の部隊のサポートに就くわけではなく、迎撃戦闘機、地上支援戦闘機、それぞれ5機ずつの合計10機については、王都の偵察とその他情報収集にあたってもらう。
なぜ地上支援戦闘機ばかりではなく迎撃戦闘機も同数造ったのかというと、前回のキマイラのことがあったからだ。前回浮遊島で逃げる際、最後まで追ってきたのがキマイラだった。奴らは飛行能力はそれほどでもないため、戦闘機にとってはそこまで脅威ではないが、今回の戦闘ではキマイラ以上の飛行能力を持つモンスターが出てきてもおかしくはない。
ドラゴンは出てこないかもしれないが、ワイバーンならば十分にあり得る。
ワイバーンはドラゴンほど強くはないし、頭も弱いが、それでもドラゴンと張り合うほどの巨体と強靭な顎による噛みつき、そしてキマイラのものより数段火力の高い火炎を吐いてくる、非常に危険なモンスターだ。
なので今回の戦いでは対地性能の高い迎撃戦闘機と対空性能の高い地上支援戦闘機をそれぞれ同じ数だけ造ることにした。
数が少ないのはパイロットの数を確保するのが難しかったためだ。だが、今回の戦争では戦闘機は主に爆撃機の護衛を担当することになるため、これだけの数がいれば十分だろう。
爆撃機は中型のものを使用する予定だ。一応大型は造ったが、大型爆撃機は的になりやすいため、今後の状況によって使用するかどうかを決めることになっている。
中型爆撃機の役割は地上部隊の進行ルートにいるモンスターの一掃。ただ、あまり爆弾を使用しすぎると地面の状況を悪くしてしまって地上部隊の進行の妨げになってしまうため、タイミングと爆弾使用量については臨機応変に対応しなくてはならない。
モンスターは耐火性能の高いものが多いことと、森林火災による環境破壊を懸念して、ナパーム弾頭などは使用しない。
もちろん核兵器も使用しない。というか作ってないから使えない。
どうあってもあんなもの使えるかよ。
「始まりましたね。国王様」
「ここからは時間との勝負だ。敵がモンスターをさらに投入してくる前に、一気に王都へと攻撃を仕掛ける」
「しかし、魔族は本当に王都にいるのでしょうか?」
「偵察によれば王都近郊に大規模な農地が作られていることが分かった。少なくとも王都には知性ある生物が住んでいるのは間違いないよ。私たちが国を取り戻すためにやってくるのが分かっていて、あそこまで巨大な農地を作るのは食糧問題が切迫している魔族ぐらいしかいないだろうから、私としては確定で王都に魔族がいると思っているけどね」
だとしたら、おそらく王都には魔族の中でも農業を行うような、いわゆる魔族の一般人も住んでいるかもしれない。
となると、こちらとしてはその一般人に少しでも傷をつけるようなことは避けるべきだ。交渉の席に着くためには必須事項だろう。
畑を焼くのは勘弁してほしいところだが。
その時、コントロールルームに偵察戦闘機から連絡が入る。
『こちら偵察機01。王都上空に到着しましたが、ワイバーンの数が多く高度を下げられません。現在高度3000メートル。この位置から王都の映像を送信します』
「こちらコントロールルーム。了解した。無理はせず危険だと判断した場合は即座に撤退してくれ」
『了解』
通信が切れてから数秒後、コントロールルームの壁に現在の王都の姿が映し出された。
「な、何だこれは」
遠目で機体が揺れていることもあって多少見づらいが、そこに映っていたのは以前とは全く異なる王都の姿。
魔族の攻撃によって破壊された街は、おそらく魔族独特の建築様式だと思われる、いくつもの細長い塔が無数に建てられた状態になっていて、ひときわ高い塔である王城は純白から黒と紫に変わっている。王城の先端付近からは、対称に広がるように巨大な残骸が翼のように浮かんでいて、さながら闇の天使が舞い降りたかのようだった。
「あの翼のようなもの、拡大してみたところどうやら何かの残骸が浮遊しているようです」
「……これは、第2層と第3層の残骸か?」
「ああ! 王都の街の上にあった、あの」
「しかし、これはおかしい。残骸とはいえあれを浮かび上がらせるなど、たとえ魔族が魔法に長けていようと無理なはずだ」
「なぜです? 浮遊させておくだけなら魔族なら簡単にやれそうですけど」
「あの残骸には特殊な鉱石が使用してあってね、そのおかげで空中であっても農作物を育てることができたし、地上では難しい様々な実験を行うこともできていたんだ。ただその代わり浮遊させるための必要魔力量が莫大でね、虹の魔石があったからこそあれらは浮かせられていたんだ」
実験というのが多少気になるけど、今は置いておこう。
しかし、確かにそういわれるとどうして今あの残骸が浮いているのか分からなくなってくる。
そもそも浮かせていることに意味はあるんだろうか。以前は円盤状になっていて、さっき国王様が言っていたようにその上で色々なことをしていた。
だけど今はただ残骸が浮いているだけだ。とても何か意味があるようには思えない。思えないんだけど……なんか気になるな。
「とにかく異様な姿になってはいますけど、これで王都に魔族がいるだろうことは分かりました。それにどうやら魔法障壁は無いようですし、これなら地上部隊だけでも突入できそうですね」
「そうだね……」
「やっぱり気になりますか?」
「うん。まさかとは思うけど、もしかしたらあれを浮かせているのは虹の魔石なんじゃないかと思ってね」
「ですが、虹の魔石は脱出前に壊れたのでは?」
「そうなんだけど……」
もしかして、魔族は破壊された魔石を復元する技術を持っていた? なんてことがあったらこの状況も納得なんだけどな。
とはいえ、あの残骸を飛ばす程度しかしてないし、障壁も張ってない時点でもし復元していても前よりは使い勝手が悪くなってそう。
「偵察機01、ここまでで十分だ。帰還して補給を受けてくれ。ありがとう」
『了解です。偵察機01、これより帰投します。 ……うん? なんだ? レーダーに何か……うわあああっ!』
「どうした! 偵察機01、応答しろ! 偵察機01!」
それは突然のことだった。王都上空にいた偵察機01のパイロットが悲鳴を上げたかと思うと、通信がぶつりと途切れてしまったのだ。
いったい何が起こったのか、俺にも国王様にもわからなかった。
国王様はすぐに偵察機02と偵察機03を現地に向かわせたが、偵察機01の姿はどこにも見つからなかった。




