第73話 そして5年の月日が流れた
俺たちの国、アストラル王国が魔族に侵略されてから5年の月日が流れた。
この5年、俺たちはあの日見たモンスターの軍勢に対抗するための戦力を整え、長期戦も見据えた準備を進めてきた。
その過程で俺のスキル『設計図2』も順調にレベルアップを重ね、レベル20で『製造スキップ(中規模)年1回使用可能』の能力を得て、レベル40で指示出しできる人数は1万人にまで増加した。
製造スキップは中規模限定とはいえ今は使わずに温存。これは当初の予定通り、いざという時のための備えとしておいた。
なのでこの5年の開発は主に人々の手を借りて順当に開発を行ってきたのだが、指示出しできる人数が1万人に増えたことで、浮遊島の開発は劇的に進んだ。
まず新しく加わった王都と伯爵領の人たちを中心に農業従事者を募集。1000人規模で農地開拓と農具作成を行ってもらい、食糧問題を解決した。
次に技術系スキルを持っている人を集めて建築と兵器開発に2000人ずつ従事してもらった。兵器部門では銃と車両、戦車に戦闘機、爆撃機に爆弾と幅広く製造をおこなってもらい、建築部門では増えた人口を住まわせるために大規模な領都の開発を進めてもらった。
おかげで兵器に関しては浮遊島に住んでいる全員が銃を3丁ずつ持てる程度には作れている。
領都内は集合住宅のビルが立ち並び、様相は一変した。5年前と比べると、異世界の街というより、もはや現代日本の街と言われた方がしっくりくる景観だ。
また、浮遊島内の交通手段も充実させた。
高速道路や魔道列車の線路を張り巡らせたのはもちろんのこと、今では飛行機やヘリコプターも移動手段の1つになっている。
このように浮遊島の開発はかなり進んでいるし、戦争の準備も順調だ。だけど、うまくいくこともあれば、そうでないこともある。
以前話した浮遊島を浮かせている浮遊島内部の魔石のエネルギーがついに底をつきかけているのだ。
魔石に代わる新しいエネルギーは5年前から探していたのだが、結局今日まで見つけられなかった。
この浮遊島はもうじき、ただの島になる。
そうなれば戦いに向かうこともできない。
「国王様は最初から分かっていたんですか? だから期限を5年に?」
「いいや、はっきりとは分かっていなかったよ。実は王都が落とされる少し前から私の『神の預言者』のスキルの調子が悪くなってしまっていてね。それでもぼんやりと5年後に再び戦いが起きるということは分かっていたから、あの時ああ言ったんだよ」
「スキルが弱まった? まさか虹の魔石が原因ですか?」
「分からない。だけど、私の息子にも預言の力が発言する予兆が見えないところから考えると、その可能性は高そうだね。つまり、これからの戦争は預言無しだ。大丈夫かい? カイララ君」
「もちろんですよ。そのために武器も開発してきましたし、訓練も受けてきました。それに俺ももう16歳、立派な成人ですからね」
「そうだったね。いやぁ、月日が流れるのは早いな。あんなに小さかったのに今では目線が同じだよ」
俺の身長はこの5年でかなり伸びた。正確には分からないが、180センチあるかないかぐらいだろう。
ちなみにガッケノのやつはもっと成長していて、たぶん2メートルぐらいある。ただ、これに関しては父親の辺境伯様が190センチぐらいあったので、あまり驚きはなかった。
本当に驚いたのはマリーちゃんの方で、何とマリーちゃんは俺より背が高くて185センチぐらいある。それに加えてバネッサさんに憧れたのか軍に入隊、今は小隊長の隊で皆と一緒に訓練に励んでいる。
姿もどこかバネッサさんに似ていて、筋肉もかなりついているし、胸も大きい。
特に筋肉はどんな訓練をしたらそこまでになるのだろうかというぐらいだ。
だって、同じ隊の男たちはもっと細いんだぜ? 変だよ。
あれじゃ男にはあまりモテないんじゃないか? ほら、男って大体自分より背が低くてか弱くて守ってあげたくなるような子が好きだったりするし。
まあ、俺は結構好きだけど、俺に好かれてもねぇ。
「皆、この5年で強くなりました。兄ちゃんもマリーちゃんも軍に入ったし、俺は入ってませんけど一応魔法戦士と言えるぐらいには鍛えたつもりですから」
「そうだね。オババさんの訓練は私も見ていてひやひやしたよ。まさかドラゴンに依頼を出して君を襲わせるとはね。何だったかな? 最強種族のドラゴンに勝てるようならモンスターなんぞ虫けら同然だったっけ?」
「そうです。あのババア、俺にめちゃくちゃな訓練させるわりに自分はもう年だからとか言ってわきで団子串食ってやがったんですよ。酷くないですか? ダンゴのやつはオババと一緒にやじ飛ばしてくるし。まったく、とんでもねえ奴らだ」
「ははは。だけど、君はあの2人も守る気満々なんだろう? 下手したら彼女たちは君より強いのに」
「まあ……はい」
「そりゃあいい。男の子はそうでなくちゃね」
俺にそう言って笑いかける国王様、でも国王様はそんな俺も含めたアストラル王国民全員のためにこれから戦うのだ。
辺境伯城の庭にあるラジオ局、その中にある浮遊島のコントロールルームで俺と国王様は最後の歓談をしている。
浮遊島は残りのすべてのエネルギーを使ってゆっくりと海の上を飛んでいた。高度は低い、もうそうまでしないともたない。
やがて壁に映し出された地図に陸地が見え始めた。
あれは伯爵領の最西端だろう。その横には台地が切り取られてできた不自然な海岸線が続いている。今や男爵領は海に接する領地になってしまっていた。
そして一緒に映っていた映像が徐々に鮮明になってくるにつれて、そこにいる幾万のモンスターの群れの姿も見えてきた。
「やはり敵はこちらが仕掛けてくることを察知していたようだ」
「これでこちらに内通者がいることは間違いないですね」
「それもかなり限定された。今日のことはそれこそ一部にしか知らせていなかったからね」
「……やっぱりあの方なのでしょうか」
「私も信じたくはないが、おそらくはそうだろう」
付き合いが長いとは言えないが、それでも最初に会った時の印象も良かったし、何より民想いの熱い心を持った人だと思っていた。
もし本当にあの人が内通者だとしたら、なぜこんなことをしたのだろうか。
この戦いが一息ついたら、あの人とゆっくり話したいものだ。
「だけど今はこっちです。情報のおかげで空を飛ぶモンスターを多く配置しているようですが、これからやることについては俺と国王様しか知りませんからね」
「まさかこの戦争の始まりがこんなド派手になるとは思っていなかったけど、これもまた一興だ」
そう言うと、国王様は無線を取ってこの浮遊島にいるすべての兵士、そしてすでに発進して浮遊島の後方からついてきている航空機部隊へと通信をつなげた。
「皆聞いてくれ。いよいよ戦争が開始される。目の前にある我が国の領土にはすでに数万から数十万のモンスターたちが、我々の到着を今か今かと待ち構えているのは、映像を見ている者たちはすでに知っているだろう」
そこで一度、国王様は無線機を口から離して一瞬間を取った。
「そこで、かねてよりこの状況を見越して考えていた作戦を実行に移す。作戦名は『メテオフォール』。この浮遊島は技術者たちの努力によって内部の衝撃の緩和措置が取られているが、この作戦での衝撃は並大抵ではないことが予想される。皆心してこの開戦の合図の衝撃に備えてくれ」
国王様が操縦席に設置された数字パネルにパスコードを入力すると、その下から赤いボタンが現れた。
これを押せば始まる。
「開戦だ」
浮遊島が落ちていく。
そして俺たちは再び、祖国の大地へと帰るのだ。




