表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/82

第72話 戦争の先に

 魔族の国に発生していた閻魔イナゴは、何者かによって俺たちの国には来ないように操作されていた。


 その可能性に気が付いた俺は、急いで国王様たちに連絡を取り、数時間後には辺境伯城の会議室に集合していた。


 皆それぞれ忙しい中、こうして呼びかければすぐに集まってくれるのは本当に助かる。


 会議室に来ているのは、国王様、辺境伯様、伯爵様、それから辺境伯家の長男のタニーノさん、三男のガッケノ、そして獣人の代表のゴンザブロウさんだ。オババはまだ来ていなかった。


「カイララ君、急に呼び出していったいどうしたんだい? 君が呼び出しをかけるぐらいだから緊急性が高い話なんだろうが、何か問題が起きたとかかな?」


「急に集まってもらってすみません。実は魔族と俺たちの間で起こっている争いの原因について、ドラゴンキングと話していて分かったことがあったので招集をかけさせてもらいました」


 俺がそう言うと、場に緊張が走る。


 この話題は当然今のアストラル王国内で最重要の項目になるし、今まさに戦争のための準備の真っ最中。ここにいる全員がそれぞれに忙しくしていると言ったが、それは戦争のためだ。


 ここで俺の口から出てくる話によっては、今後の計画が大きく方向転換する可能性もある。緊張するのは当然だろう。


「まず確認のためにゴンザブロウさんと国王様にそれぞれ質問させてください。まずゴンザブロウさんに質問です。魔族がアストラル王国に戦争を仕掛けてきた理由は、閻魔イナゴによる食糧危機によって人間から食料を奪わなければ生きていけない状況になってしまったから、ということで良かったですか?」


「ああ、少なくとも俺は上の連中からそう聞いていた。実際に閻魔イナゴが山ほど飛んでいるのも見たぞ」


「ありがとうございます。次に国王様に質問です。ここ2年の間にアストラル王国で閻魔イナゴの被害があった、または目撃されたなどの報告はありましたか?」


「いいや、なかったね。そもそも、閻魔イナゴというモンスターはあまりアストラルでは見られないんだ。私が生まれる前に一度大発生があったという記録は残っていたけどね」


 ゴンザブロウさんと国王様、それぞれの証言で、状況の裏付けが取れた。そして、国王様がおっしゃったご自身が生まれる前に一度大発生があったという話で、アストラル王国の土地が閻魔イナゴの増殖に適さない環境ではないということも分かってしまった。


 ああ、なんてことだ。やっぱりこの戦争は……


「お2人とも回答ありがとうございます。おかげで確信を持てました。恐れていた通り、やはりこの戦争は何者かによって仕組まれています」


「な、何だって!?」


 全員が俺の言葉に驚く、しかしそんな中でも国王様の驚きようは一際だった。


 この様子からして、やっぱり国王様の預言でも仕組んだ何者かの存在については見えていなかったようだな。もし見えていたら、ここまでの状況になる前に魔族側と交渉しようとしただろう。


「な、なぜその考えに至ったのだ、カイララ」


 皆が動揺している中、辺境伯様がいち早く俺にそう問いかけてくる。


「これまで我々は閻魔イナゴについてよく知りもしないまま、魔族の国が閻魔イナゴによって危機に陥ったために、魔族たちが我々の国に攻めてきたのだと思っていました。しかし、ドラゴンキングからの指摘によって、その考えは正しくないのではないかと思ったのです。その指摘とは――閻魔イナゴが山越えをするモンスターだということです」


「た、確かにそれが本当だとすると、魔族の国を食糧危機にする数が発生したのならば我々の国に何の被害も目撃情報もないのはおかしい。我が辺境伯領にもそのようなイナゴが出たという報告はなかった」


「迂闊でした。閻魔イナゴの話が出たときに、もっとよく調べておくべきだった」


 調べておけば違和感に気づけたはずだ。


 気づけていればこの戦争を未然に防げたかもしれないのに。


 だが、後悔してももう遅い。始まった戦争は決着をつけるまで終わらないのだから。


 ならば、これからどうやってこの戦争に決着をつけるかを考えるべきだ。


「もし、カイララ君が言う通りだとして、魔族側はなぜ我々に宣戦布告もせず仕掛けてきたのだろうか?」


 辺境伯家長男のタニーノさんがそう言うと、その場の全員が回答を得ようと俺に目を向けてくる。


「それについてはまだ憶測の域にすぎませんが、おそらく閻魔イナゴを利用して戦争を引き起こした者は魔族に接触してこのように言ったのでしょう。『魔族の国ではこれだけの被害が出ているというのに、隣のアストラル王国には何の被害もないのはおかしい。もしやこの事態はアストラル王国による策略なのでは?』と」


 それは50年も昔とはいえ戦争をしていて、その後も何かといがみ合ってきたアストラルという国に疑いの目を向けるには十分な言葉だっただろう。


 そして、スパイを送り、俺たちが今まで通り豊かで何不自由のない生活をしているどころかさらに急激な発展を遂げているのを知ってしまえば、もう詰みだ。


 疑いは確信に変わり、嫌悪は憎しみに変化する。


 そうなれば、宣戦布告などせず、手段も問わずで攻めてきてもなにもおかしくない。


「その者は何の目的でそんなことをしたのだ? 私には意味が分からない」


「たぶん2つの国が争い潰しあうことで得をする人間がいるんだろうな。ガッケノはまじめだからそんなこと考えたこともないだろうけど、世の中結構そういう人間はいるもんだよ」


「そのような人間が本当にいたとして、どこの誰が動いているのか特定するのは現状不可能だ。それに今更戦争をやめるということもできない、何をするにしてもまずはあの大量のモンスターをどうにかしてからでないと、何も始められないよ」 


「それは国王様のおっしゃる通りです。もちろんこれからの5年で俺たちが戦争の準備をするのは変わりません。ですがその前に我々には決めなければならないことができたと俺は思います」


 これまでの俺たちの最終目標は、王都を奪還して辺境伯領をもとの大地に戻し、再びアストラル王国として再興することだった。


 魔族に離反した公爵派の者たちと対処しなければならないことは多かったが、すべてを武力によって取り戻すというのは変わりなかった。


 だが、ここにきて状況は変わった。


「我々の魔族との戦争の落としどころですが、俺としては魔族を一掃するというのは反対です。戦争は彼らを話し合いの場に引き出すまでにとどめて、積極的に彼らを害することはしない方針でいきたいと思っています」


「辺境伯の立場からすれば、侵略してきた魔族を害さないというのは論外だと言いたいが、何者かが絡んでいて我々も魔族も同様に操られているとするならばカイララの方針に賛成だ」


「私たち2人も父上と同じです」


 辺境伯家の方々は俺と付き合いが長いだけあって賛成してくれたか。あとは伯爵様と国王様だけど。


「王都を侵略された身としては許したくはないが、カイララ君の話を聞いたからね。彼らの言い分を聞かないままというわけにもいかない。私もカイララ君の方針に賛成しよう」


 国王様も賛成と。あとは伯爵様か。


 俺は以前伯爵様とトラックで王都に向かったあの時の印象から、伯爵様はきっと賛成してくれるだろうと思っていた。


 しかし、伯爵様の顔を見てその考えは捨てざるを得なかった。


 何故なら伯爵様の顔はひどく歪んでいて、明らかに怒りに震えている様子だったからだ。


「私は反対です! 私の領地は奴らが王都に向かっている間に徹底的に踏み荒らされ、燃やされ、壊れてしまった。死んだ妻との思い出も何もかもすべて! そんな奴らを操っている元凶をみすみす逃がせば、またいつか国のどこかで同じ目に遭う人々が出てくる! 脅威はすべてきれいさっぱり消し去るべきだ!」


 確かに去り際に見た伯爵領の領都はキマイラの群れに囲まれ、その口から吐く炎と頑丈な体での体当たりによって、もはや街と呼べないほどに崩壊していた。


 確かにしつこくて厄介なモンスターだとは思っていたが、まさかあそこまで徹底的に破壊するとは、あの街には何かキマイラの気に障るものでもあったのだろうか。


 しかし、まいったな。いくら国王様が俺の方針に賛成してくれたとしても、現状アストラル王国は無いも同然だ。主要人物たちの意見が揃わないと、今後の動きが鈍ってしまう。


 なんとか伯爵様を説得しないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ