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第71話 閻魔イナゴ

 国王様とドラゴンキングによって治療室にぶち込まれようとしたあの日から1か月。俺は再びドラゴンキングの城にやってきている。


 あの日に思い付いた自分の複製を作ってしまおうという考えはあのすぐ後から実行に移し、1か月間ほかのことを何もせずに集中して取り組んだ結果、完成させることができた。


 これは、魔道人形というちょうどいい素体があったからこその開発スピードだ。もし一からの開発だったら細かい部品と複雑な機構で半年かかってもおかしくなかっただろう。


 魔道人形は魂を入れることで動くようになる。今まではその魔道人形を改造して、魔法で単純作業ができるようにしていたんだけど、今回は俺の魂を中に入れて“魔道人形を操れる状態”に調整してから開発を始めた。


 まず魔道人形に魂を移して問題なく操れることを確認。次に魂を移している間の自分の体が問題ないことを確認。すべて問題ないと確信が持てたら、基本的には魔道人形に魂を移した状態で『スキルが問題なく使えるか』『体の動きに問題がないか』等のいくつかの項目を確認しつつ開発を行う。


 この開発は、浮遊島の開拓村にある城の一室で行っていたのだが、魔道人形を操りながらまるで自分の体をいじっているような構図で開発を行っていたせいで、城の人間やガッケノにもかなり心配されてしまった。ごめんよ皆。


 でも心配はされても誰も止めはしてこなかったので、村で開発をしたのはやっぱり正しかったなと改めて思った。鍛冶屋のおじさんとかドワーフのおじさんにも意見を聞けたしね。


 で、完成したメカ分身(複製体)をどうやって動かすのかという話だけど、これについては俺の思考を読み取ったAIを搭載……したかったんだけど、まともなコンピューターもまだ作れていない現状では無理ということで、魂を分割して搭載することで単独で思考し、動けるようにしている。


 本来なら魂を分割するという危険行為は避けるべきなんだけど、メカ分身の説明書を読んでみたところ、そもそもメカ分身は魂を分割した状態で動かすことを想定しているようだったので、思い切ってやってみたら案外うまくいった。


 そんなわけで俺はメカ分身に浮遊島でのタスク処理を任せ、本体はドラゴンの城に来ているわけだ。


 ふつうなら逆だと思うかもしれないが、本体がドラゴンの方に来ているのには、ちゃんと理由がある。


 まず、1か月待ってもらったことに対するお礼のため。そして、進化させた俺のスキル『設計図2』のスキルレベルを上げるためだ。


 『設計図2』のスキルレベルは当然ながら『設計図』のスキルレベルを上げるより難しい。以前の『設計図』の状態であれば、同じものを作り続けてもそれなりの経験値が得られていたのだが、『設計図2』になったとたんに同じものを作ることで得られる経験値の減少幅が大きくなってしまった。


 国王様の『神の預言者』スキルによる預言によって、俺の『設計図』スキルが後ろに数字がついていくタイプの進化をするということが分かったので思い切って進化させたわけだが、進化によって上がったのは基礎能力だけで、スキルスキップをもう一度行うには節目までレベルを上げる必要があった。


 今回のことで分かった通り、スキルスキップはいざという時のために1回は使えるようにしておいた方がいい能力だ。


 おまけに中級スキルの場合は節目が20毎になる場合があるという話だし、悠長にちまちまとレベルを上げている暇はない。


 だから俺は成長しないメカ分身ではなく本体が赴くことで、ドラゴンのためのモノ作りという新しい経験を積みに来たわけだ。


「小僧、俺たちのためのモノ作りは順調か?」


「ドラゴンキング、いい加減その小僧と呼ぶのやめてくださいよ。俺にはカイララって名前があるんですから」


「まあいいだろ。お前ら人間なんて俺らからしたらみんな小僧や小娘なんだからよ」


「だったらなおさら小僧ばっかで分からなくなるじゃないですか。カイララが呼びづらいなら『カイ』とでも呼んでいいんで、とりあえず小僧呼びはやめてください」


「あー、はいはい、分かったよ。それでどうなんだ? 風邪薬の後には何か作ったのか?」


 このドラゴン、俺が今日戻ってきたの忘れてんのかね。今日戻って来たのに何も作れてるわけないでしょ。


 まあでも、こう期待した顔で聞かれてしまうと何も作ってないなんて言いづらいよな。しかたない、いま考えている最中だった物についてでも話しておくか。


「今日戻ってきたばっかりなんでまだ何も作り始めてすらないですけど、これから作ろうとしているものについて話すことはできますよ」


「ほう、では聞かせてもらおうか」


「いいですけど、もし暇つぶしで来てるのなら俺もクイーンに怒られるかもしれないので早めに退散してくださいよ」


「も、もちろんだ!」


 ああ、やっぱりこのドラゴンまた仕事抜け出して来てるな?


 俺がいた前回の1週間では威厳を保っていたドラゴンキングだったけど、その後の様子を見聞きしたところによると結構なサボり常習犯で、いつもクイーンに見つかっては怒られているらしかった。


 俺は最近初めてクイーンと会ったけど、キングとは違ってあっちは上品さを感じる本物の王族感があって、かなり緊張したのを覚えている。


 そんなクイーンにキングと一緒に怒られるのは御免だ。だって怒ったクイーン絶対怖いもん。この無敵のキングが尻に敷かれてんだからさ。


「いま俺が考えていたのはドラゴン用の特殊装備です」


「特殊装備? というと、鎧やら爪やらそういうのか?」


「そうです。ただ、それとは別にちょっと考えていたことがありまして、それを実現できたらドラゴンの守りはさらに硬くなると思います」


「ほーん、まあ総じて戦うための道具ってわけか。だが、知ってのとおり俺たちドラゴンはそんなものなくても十分強い。それなのに戦いの道具を作ろうってのは、俺たちがお前たちと魔族の戦いに巻き込まれるかもしれねえってことを危惧してのことか?」


「それもあります。ですがそれだけじゃありません。俺はドラゴンという生物が好きなんです。格好いいので。だから、ドラゴンの強さをもっと引き出せる装備が作れたら良いなと考えてました」


 俺がそう言うと、まさかの回答だったのかドラゴンキングは若干引いていた。

 なぜ引くのか。


「お、おう、そうか」


「そうです」


「だが結局は戦いのための道具だ。俺はそんなものよりもっと別の、ドラゴンたちの生活の手助けになるような物の方が嬉しいんだがな」

 

 それは何となくドラゴンたちの様子を見ていてもわかっている。この国に住むドラゴンたちは皆強い。兵士でもないただの一般ドラゴンでさえ俺たちが100人束になっても簡単にあしらえるだけの力がある。だから戦いに負けるなんてことは考えてもいない。そりゃあ戦いの道具なんかより別のものが良いと言うだろう。


 だけど相手はあの闇魔法で土地ごとダンジョンをえぐり取った魔族なんだ。


 いくらドラゴンが強いと言っても、万が一のことはあるかもしれない。


「俺たちは魔族なんぞに負けるほどやわじゃない。それにお前らに対して味方してるわけでもないからな。俺はただ俺たちの土地の空を貸しただけ、お前はたまたま俺たちの役に立つものを作ってるだけだ」


「そんな屁理屈が魔族の連中に通りますかね?」


「さあな」


 少しの間、沈黙が場を支配する。


 ドラゴンキングは何か思案しているようで、俺はそんなドラゴンキングを黙ってみていた。


 そして数分後、ドラゴンキングは再び俺に視線を合わせ問いかけてくる。 


「なあカイ。俺も魔族とお前たちとの争いについては聞いたが、魔族がなぜおまえたちの国を攻めてきたのか、具体的なことは分かっているのか?」

 

「元魔族の仲間だった獣人たちにある程度は聞いています。蝗害が原因で食糧が不足し、俺たちの土地と食料を奪うために侵略してきたそうです」


「それは俺も聞いた。だけどよ。おかしくないか? 閻魔イナゴは山ぐらい簡単に越えて行くモンスターだぞ。お前たちの国は魔族の国と隣り合わせなんだろ? なら、なんでお前らの国では閻魔イナゴの被害がひとつもないんだ?」

 

「は?」


 それを聞いた瞬間、俺の脳裏にはこれまで考えていたシナリオとは全く別の可能性が浮かんでいた。


 もし、本当に閻魔イナゴが山越えをするモンスターだとしたら、魔族の国の作物を食い荒らした次はうちの国に来ても何らおかしくない。むしろ来ていないことの方がおかしいぐらいだ。


 気候的に来れないというほど魔族の国と俺たちの国とが違っているわけではないのは獣人たちの話で分かっている。


 じゃあなぜうちの国には閻魔イナゴが来なかったのか。辺境伯領にも男爵領にも、一匹たりともいなかったのはどうして?


 閻魔イナゴについて改めて詳しいことを調べるまでは確定とは言えないが、いま俺が考えついた可能性はたった1つだけだった。


「閻魔イナゴは俺たちの国には決して渡らないように、何者かによって意図的に操作されていた……?」


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