第70話 そうだ! 自分を複製すればいいんだ!
1週間が経ち、国王様と辺境伯様が再びドラゴンキングの城を訪れた。
この1週間、俺はできるだけのことはやってきたつもりだ。ドラゴンキングとはあまり話せなかったが、そのほかのドラゴンたちには感謝されるようなこともあった。
リカちゃんやタカシ君、それからリクセンとは期間中はなぜか会わなかったけど、それでもドラゴン兵士の皆さんや老ドラゴンさん、それから職人ドラゴンたちともかなり打ち解けたと思うし、これで駄目ならどんなことをしても駄目だろう。
結局はドラゴンキング次第でどうにでもなる話だ。あの方が嫌だと言えば俺たちはただ出ていくしかない。
そもそも、厄介ごとを持ち込んだ俺たちが願いを言っている時点でおかしな話だしな。
「来たか。待っていたぞ」
「お待たせして申し訳ありません。ドラゴンキング。早速ですが、カイララはいかがでしたでしょうか?」
「そのことだがな……まあ、使える人間であることは分かった。ソフトタッチの魔法は力の強いドラゴンが細かい装飾をする際に非常に役に立つし、効果はまだ見ていないが風邪薬を作ってくれたのも感謝している。だが、俺たちがお前たちを受け入れるにはこれだけではまだ足りん」
やっぱりか。まあそうだよな。
この1週間でドラゴンたちに色々質問してみたのだが、どうやらドラゴンは魔族と多少なりとも関係があるらしい。
というのもドラゴンという生き物は食事はするものの食事からよりも大気中の魔力を吸収することによってエネルギーを得ているらしく、魔族という種族が使う魔法は大気への魔力変換率が高いので、彼らが存在することはドラゴンにとっては都合が良いのだとか。
そういうわけで、ドラゴンは魔族と敵対する理由がない。
まあ、魔族がいなければならないというわけではないそうなので、場合によっては敵対することも厭わないらしいけど。
ただ現状ドラゴンと魔族のあいだには何の因果もないわけで、俺たちとかかわることで敵対したとみなされるのは不本意なのだろう。
俺の有用性は示せた。それに加えて娘とその友達が世話になった件まであわせて天秤にかけても、今のドラゴンキングの秤はこっち側には傾かなかったということか。
あの口ぶりから希望はありそうだけど。
「《《まだ》》、ですか。ということは、さらに何かを提供すれば浮遊島の件を許可していただけると?」
「そういうことだ。ただし、ここからはそちらの提供ではなく、こちらの要望として話させてもらおう」
「承知しました。むしろそうしていただけたほうがこちらとしても都合が良い。要望を聞かせていただきます」
「ふん……では率直に話させてもらう。このカイララを私の部下にしたい。譲れ」
な、なんだって!?
そんな素振り今まで1度も無かったのに、急に何を言い出しているんだこのドラゴンは。
正直、1週間じゃ何も見せていないに等しいほどのことしかできなかった。それなのに俺を要求してくるってことは、さてはドラゴンキング、俺のことをずっとどこかから監視してたのか?
「どうやらカイララは相当あなたに気に入られることをしてしまったようですね」
「ああ、正確には俺じゃなく俺の部下たちが気に入ったんだがな。まあ、部下が気に入ったなら手に入れてやるのが王たる俺の役目だ」
「1週間前にカイララ君は我々にとって大事な人材だと言ったはずですが」
「そんなこと言っていたか? 知らんな。それにその理屈ならこのカイララという小僧は我々にとっても重要な人材だ」
「……我々と敵対すると?」
「お前たちに何ができる?」
ヤバいなこれは。一触即発って感じだ。
こうなったらここは俺が直接両者に対してズバッと言ってやらないと。しかし、どう言えばいい。俺の立場からしたら国王様につくべきなんだけど、そうしたとしてあの感じじゃドラゴンキングが諦めるとも思えないし……
とりあえず、今の俺の状況を整理しよう。
俺の今後の予定としては、浮遊島の改造と武器・兵器の増産、それに伴った新型魔道兵器……もとい、魔道作業員の製造がある。
とくに浮遊島は、現在の状態では5年かそこらで地中の魔石の魔力を使い切ってしまって、落下すると予測されている。魔石に頼らず浮遊する方法があれば、そちらにシフトしていけるようにしていきたい。
さて、今の話に戻るが、ドラゴンたちに気に入られたおかげで俺はもう彼らにかかわらないということは不可能だろう。つまり、これを解決するには俺と同じことができる人間がもう1人はいないと無理だ。
うん? 俺がもう1人……?
「そうか! そうすればよかったのか!」
俺はすぐにディスプレイ型設計図を起動すると、検索フォームに『ある文字』を打ち込む。
その文字とは『分身』。
自分の分身体が作れないなんて誰が言ったという話だ。最初からできないと決めつけていたから探しもしていなかったけど、この『設計図』なら文字通りなんでも作る方法を出してくれるはず。
「あった。本当にあった……すげぇ……」
ディスプレイ型設計図の画面に映っていたのは、いくつかの項目。自分を複製する方法というのはどうやらいくつかあるらしく、魔法的なものから錬金術、かと思えば科学的なものまで載っていた。
この中で俺が一番実現できそうなのは、この『メカ分身』というやつだろうか。
錬金術はまったく知らないから論外として、魔法は俺にそこまでの技術がない。というかこれ、オババでも厳しいんじゃないか?
とにかく、このメカ分身なら頑張れば1か月あればなんとかなりそうだ。
カタログ上ではオリジナルのスキルを間接的に使用できると書かれているし、これで提案してみよう。
そう思って顔を上げると、そこには怪訝そうな表情で俺を見る国王様とドラゴンキングの顔があった。
正確には国王様は俺がまた何かやらかすことが分かって、「こいつ大丈夫か?」という顔。ドラゴンキングは単純に急に目の前で大声を出して話し合いを中断した挙句、話しかけても聞きもせずに笑顔で空中に手をさまよわせ始めたイカレタ奴に対しての、「こいつ大丈夫か?」という顔だった。
「御2人とも、落ち着いてください」
「キミが言うなよ」「お前が言うな」
「わお、ピッタリ。仲いいですね!」
はぁ~、というため息が2人から漏れる。
その後最初に口を開いたのはドラゴンキングだった。
「まさか、こんなやつだったとはな。見誤ったか」
「ではカイララ君を返していただけますか?」
「それは出来ん。こんなものでも役には立つからな」
「こんなものでも駄目ですか」
こんなものって、2人とも酷い。
でも、こんなものって言われるような奇行をさらしても、これを聞けば見直してくれるはずだ!
「それで、カイララ君。何を思いついたんだい?」
「ふふふ、それはこの争いを終わらせるとっておきの方法です」
「ほう、そんなものがあるなら俺もぜひ聞いてみたいもんだな」
「まあ、慌てないでください。すぐに発表しますよ」
俺はそのままその場にいた全員の顔を見ていく。話す前に少し間を作っておくことで驚きは何倍にもなる。ククク……楽しみだぜ。
「その方法とは、俺自身を複製するということ! 俺が2人いればどちらの問題も解決する! つまり、これが最適解なのです!」
そう言うと、予想通りその場にいた全員が驚いた顔をした。
そして、ドラゴンキングは国王様の方を向き、こう言った。
「壊れてるぞ! 早く治療しろ!」




