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第69話 ドラゴンとの取引

「無理だな」


 俺たちの話を聞いて、ドラゴンキングが最初に放ったのは強い拒絶の言葉だった。


 面倒だからとそのまま訓練場で始まったドラゴンキングと俺たちとの話し合い、軽い挨拶を終えて国王様が事情を話しつつ、島を使用していない広大な土地の上空に置かせてもらえないかと願い出たのだが、その結果が拒絶だ。


 はっきり言って正直俺もドラゴンキングの立場なら同じように突っぱねるだろう。  

 

 よそ者を自分たちの住処のある場所から近い上空にいさせるなんて、万が一何かが起こった場合のことを考えるとデメリットしかない。


 一国の王ならば、こんな馬鹿げた願いを許可する奴なんていないだろう。


 だけど、俺たちもここで引くわけにはいかない。


 娘さんと親しくさせてもらっていること、そして提供できる限りのものは差し出すという条件を加えて、ようやく話だけは最後まで聞いてもらえる段階までこぎつけた。


「我が愛しの娘と仲良くしてもらったことには礼を言おう。だが、今回のこととそれとはまったく関係のない話だ。俺としてはお前たち人間が魔族に滅ぼされようとかまわんのだからな」


「おっしゃる通りです。これは我々と魔族の問題。この土地に敗走してきてしまったこと、お詫びいたします」


「ふん……それで、俺たちの土地の上空を貸す代わりに、お前たちは何を差し出すというのだ? 言っておくがドラゴンはお前たち人間に何を貰わずとも豊かに過ごしている。多少の食料や技術提供などでは動かんぞ」


 ドラゴンキングはその見上げるほどの巨体をのけぞらせて、さらに巨大に見せながら俺たちを見下してくる。


 ドラゴンとは生物の頂点。俺たち人間ごとき本当は気にも留めない矮小な生き物としか見ていないんだ。だけど理性もあれば娘の知り合いでもあるから、こうして対面で話を聞いてくれている。これだけ見下されたとしても、俺たちには何も言えない。


 しかし、国王様はこんな時でも涼しい顔をして国のトップとしての毅然とした態度を見せていた。ドラゴンの巨体に気圧けおされることもなく、ただ予定調和のように話をつづけた。


「私たちが提供するのは技術です」


「お前、俺の話を聞いていなかったのか? 貴様ら人間に教わる技術など無い。第一、人間の技術が俺たちドラゴンにたいして何の役に立つ。俺たちとお前たちとでは必要な技術が決定的に違うだろうが」


「そうですね。ですが、我々が提供するのは技術です。それも、あなたがたドラゴンのためになる技術になります」


「なんだと? なぜ人間のお前たちに俺たちのための技術が提供できる? 馬鹿なことを言うな。今すぐたたき出してやってもいいんだぞ」


「冗談も何も言っていません。我々にはあなた方に技術を提供するすべがあるのです。そうだよね、カイララ君?」


「え、俺!?」


 自信満々に言ってるから何か考えがあるとは思ってたけど、俺頼みだったのか。


 まあ、俺としても皆の役に立つなら別にドラゴンに技術提供するぐらい構わないけどさ、そういうことはあらかじめ言っておいてほしいもんだ。


 おかげでドラゴンキングにアホヅラをさらしてしまったじゃないか。


 俺はドラゴンって生物が好きだ。だからドラゴンキングに会えたことにちょっと興奮してる。しかもドラゴンキングってば男の子なら誰もが憧れるブラックドラゴンなんだぜ? マジ好きなんですけど。格好良すぎ。


 レッドドラゴンはドラゴン界では中堅。真の強者といえばブラックドラゴンに決まっている。金や銀? あんなのは賑やかしだ。


「国王様、俺がドラゴンキングに技術提供すれば良いんですね?」


「ああ、頼めるかな?」


「もちろんです。任せてください!」


 俺と国王様がそうやって話していると、ドラゴンキングが割り込んでくる。


「おい、さっきから何を言っている。この子供が俺たちドラゴンの技術を提供するなど、本気で言っているのか!」


「本気です。なにせ私たちが何とかここまで逃げてくることができたのも、すべてこのカイララ君のおかげなのですから。彼は特別なスキルを持っています。そのスキルの名は『設計図』そのリストの中には彼本人ですら知りえないものの作り方が数えきれないほど載っています。もちろんその中には、ドラゴンに関するものもあるでしょう。少し探してもらえるかな、カイララ君」


「ちょっと待ってください、いま探してますから……ありました! ドラゴンへの技術やものの提供は問題なく出来そうです!」


 そう言って返したら、俺のテンションが高いのが予想外だったのか、辺境伯様がものすごく驚いた顔でこっちを見ていた。


 その点国王様はもう預言で知っているのだろうね。ニコニコ笑っていて、面倒ごとを押し付けている側なのに、なぜか逆に「良いことをしたなぁ」とでも思ってるような爽やかな表情をしている。


 辺境伯様、良いんですよ。俺はむしろドラゴンキングの近くで働けるなら幸せです。


 俺たちのやり取りを見て、ドラゴンキングが静かに口を開く。


「……いいだろう。そこまで言うならこの小僧を少し預からせろ。役に立つとわかったら、改めて頼みを聞くかどうか考えてやる」


「ありがとうございます。ですが、カイララは私たちにとっても貴重な人材です。頼みたい仕事も山ほどあります。ですので、お試し期間は1週間程度でお願いします」


「俺に頼みごとをしている立場で条件を付けるか」


「それだけカイララ君が私たちにとって大事だということです」


「ふん。まあいい、1週間もあれば十分だ。試用期間は今日からだ、お前たちはとっとと帰るがいい。また1週間後に来い。それまでは姿を見せるな。1人たりともな」


「承知しました。カイララ君のこと、くれぐれもよろしくお願いします」


 こうしてドラゴンキングと国王様の最初の会合は終わった。


 そして俺はその日から1週間、ドラゴンキングのそばで人間側の要求を受け入れてもらうために全力を尽くすことになる。


 まずはドラゴンキングに何か困りごとがないかと聞いてみたものの、ドラゴンキングはすべて足りているの一点張りだった。


 そこで城の門で出会った巨大な老ドラゴンに聞いてみたり、ドラゴンたちを観察して、ドラゴンに有用なものを作り出すことにした。


 最初に作ったのは魔法だ。


 『ソフトタッチ』という魔法で、力の強いドラゴンたちが物を壊している場面が多いことを見て作った生活魔法の応用魔法になる。


 こいつは名前の通り特殊な魔力で手元を覆って力加減の調整ができるようになるという魔法だ。


 生活魔法の応用ということで習得難易度もかなり低い。魔法が苦手な子供でも習得可能な程度になっている。


 この魔法を使用するようになったおかげで、老ドラゴンは眼鏡をぶっ壊すことがなくなったし、兵士たちは武具を壊す頻度が減ったとか。(ドラゴンが武具使うの衝撃だった。使うんだね武具)


 何より細かい作業をする技術者や芸術家の人たちは絶賛で、これまでは使いづらかった木製の道具を壊すことなく使えるようになったと喜んでいた。


 次に作ったのは薬。


 ドラゴンはめったに体調を崩すことは無いという話だが、種族によっては人間で言う風邪のような症状になる者もいるとのことだったので、薬に関する知識がほとんどなかったドラゴンたちに、薬師の弟子の経験を活かして新しく薬を作ることにしたのだ。


 設計図で調べたところ、材料は意外と人間に使うものと共通しているものが多かった。その他足りないものは魔法の件でかなり友好的になってくれたドラゴンたちに尋ねてドラゴンの薬草売りにつないでもらい、そこで調達することができた。


 ちなみにドラゴンが薬草を使うのは肉の香り付けや、部屋の消臭の場合がほとんどなんだとか。それって薬草の役割なんだろうか?


 とにかく様々な草の中から必要素材を見つけ出した俺は、さっそく薬づくりを開始、結果的に2日で薬を完成させることができた。


 この薬を使うにもドラゴンキングの許可が必要だし、今は大事に取っておくことにしよう。これだけドラゴンがいればどこかで使う機会はあるだろうしな。


 そうして忙しい毎日は続き、あっという間に1週間が過ぎ去っていった。

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