第68話 ドラゴンの国
王都が陥落し、魔族によって支配された後、浮遊島はすぐに大陸を離れ海の方へと動き出した。
地上からの攻撃を避けるための措置だった。
海にもモンスターはいるが、飛んでいるものは少ない。つまり、大陸上空にいるより海の上を飛んでいたほうが安全なのだ。
道中、浮遊島の魔法障壁生成時に地上に落ちたペットや家畜をできる限り回収し、ドラゴンたちとも合流した俺たちは、ただあてもなく海の上をさまよう。
浮遊島は面積が広いし、質量も相当あるが、海上の気候の変化はすさまじい。
数か月ものあいだ激しい気候変化にさらされながらも、着々と戦争に向けての準備を進めていく俺たち。
しかし、すぐに限界が来てしまった。
障壁は敵を防いでも雨風を防いではくれない。長時間それらにさらされた結果、草木はもろに影響を受けてしまい、枯れ始めてしまったのだ。それに伴って家畜たちのエサも不足し、それどころか人間の食べるものまで心配しなくてはならない始末。
一刻も早く海上ではない気候の安定した土地に移動する必要があった。
そこでドラゴンたちが提案してくれたのが、ドラゴンたちの国、ゴランダルへの一時滞在だった。
ドラゴンのリカちゃんによると、ゴランダルには使っていない平地が多く、そこにはドラゴンが必要とするものが何もないので、しばらくの間であれば使えるはずだという話だった。
しかも、なんとリカちゃんはドラゴンキングの娘だというではないか。それならばと、俺たちは希望をもってドラゴンの国、ゴランダルへと進路をとった。
「なあ、本当に大丈夫なのか? いくら娘だって言っても、さすがにこんなでかくて邪魔なものが自分たちの土地に居座るなんて許可してくれないんじゃないかと思うんだけど」
「いや、大丈夫だろう。我もキングとは数回会っているが、あれは相当の親ばかだぞ。あの様子なら娘の言うことなら聞くだろう。何せ、娘が外に遊びに行きたいというのを本当は許したくない気持ちがあるくせに、頼まれたから仕方ないと送り出すような親だからな。時々、国から様子を見に来る者もおったし」
「マジかよ。ドラゴンにもそんな感じの親いるんだな。どっちかというと、生まれたら谷底に落として強く成長させるようなタイプばっかりだと思ってたわ」
「カイララは今までの我らの様子を見ていたくせにそんな風に考えていたのか? そのような厳しい親ばかりなら我やタカシのような性格にはなりはしないぞ」
「確かに」
それにしても、ドラゴンのリクセンと最初に出会ったときはあんなに威厳ある風だったのに、今じゃすっかりおバカキャラになってしまったな。
まあ、最初に会った時に口臭問題とかいう馬鹿みたいな理由で争いをやめたっていう経緯があるし、こうなるのも仕方ないか。
リカちゃんとマリーちゃんが仲良く話しているのを聞きながら、俺はリクセンとタカシ君と一緒に島の淵からドラゴンの土地が近づいてくるのを見ていた。
岩山ばかりで、しかもどの山も標高が高い。ところどころにドラゴンをかたどった石像があったりして、ドラゴンが決してほかのモンスターとは違う、理性と文化のある生物だということを改めて教えてくれる。
浮遊島で近寄れるのは海岸沿いまで。そこからは国王様と辺境伯様となぜか俺も一緒にリクセンの背中に乗ってドラゴンキングの城を目指す。
慣れているのか悠々と簡単に山の谷間を飛んでいくリクセン。後ろにはリカちゃんとタカシ君もついてきている。
道中の景色はそれはもうスリリングかつ壮大だった。上下左右に激しく揺れる様はまるでジェットコースターに乗っているかのような気分になったし、谷を抜けるたびに様々な種類のドラゴンたちが視界に入ってくるのは楽しい気分になる。
俺、地球で生きていた頃はジェットコースターとか怖くて一回も乗ったことなかったんだけど、こんなに楽しいなら乗っておけばよかったな。
ある程度山間部を抜けると、その先に見えたのは森と泉、そしてそこに暮らす大小さまざま、色とりどりのドラゴンたちの姿だった。奥に見える巨大な整った三角の岩山には、岩肌をくりぬいて精巧に装飾を施した城が見える。
これがドラゴン流の城というわけか。
リクセンはそこから少しスピードを落として、リカちゃんを前に出すと、その後はリカちゃんに誘導されるように城の門前に着陸した。
直後、城の門が開かれて中から二足歩行の屈強な筋肉を持ったドラゴンたちが出てきた。これは兵士ということだろうか。
その中から一体、ひときわ巨体のドラゴンが前に出てくる。
「勝手に城門前に着陸するとは何事か! たとえ同族とはいえ容赦はせんぞ!」
「待ちなさい! 私よ。フレデリカ。今人間の国から戻ったわ」
「おお! そのお声はまさしくフレデリカ様! キングもさぞお喜びになることでしょう。しかし、見ない間にずいぶんとぼんやりした姿になられましたなあ」
「それは当たり前でしょ。爺や、また眼鏡忘れてきてるわよ」
「なんと! これはうっかりしておりました! がははははは!」
「はぁ……とにかく私は帰ってきたわ。ただ今日は私たちだけじゃなくて客人もいるの。客人からお父様に挨拶とお願いがあるらしいから、お父様のところまで案内してくれる? どうせ部屋にはいないんでしょう?」
「ほう、お客人ですか。ふむ……爺にはよく見えませんが、分かりました。キングのもとまで案内しましょう。その前に部屋に行って眼鏡をとってきてもよろしいですかな?」
「ええ、構わないわ」
「それでは」
そう言ってその巨大な老ドラゴンは城の中に入っていく。そのあとにリカちゃんが続き、俺たちもその後を追った。後ろからは兵士のドラゴンが2体ついてきている。
ドラゴンのサイズに合わせためちゃくちゃ広い廊下を進み、たどり着いたのは謁見の間などではなく、これまただだっ広い訓練場のような場所だった。
そこにはドラゴン兵士と同じ種族の者たちが何体もいて、たった一体の黒いドラゴンと戦っていた。
「なんだあの黒いドラゴンは、他のドラゴンとは迫力がまるで違う。空気が震えているみたいだ」
「あれが私のお父様で、この国のキングよ。それにしてもまさか訓練場にいるなんてね。ずっと訓練なんてしてなかったのに、どういう風の吹きまわしかしら?」
「リカちゃんとあんまり似てないんだな。あっちは体の色が黒でリカちゃんはピンク色だし」
「私はお母様に似たのよ。顔つきはちょっと似ているでしょ? ほら?」
いや、ほらと言われても、ドラゴンの顔の違いなんて大雑把にしか見分けつかないんですけど……顔が四角いとか、トゲトゲしてるとか。
俺は歩幅が合わないからとそのまま乗っていたリクセンの背中から、近づけられたリカちゃんの顔と向こうにいる黒いドラゴンの顔を相互に見て、あいまいに「似てるね」と返した。
だって、それ以外に返せる言葉がないじゃん。
ドラゴンの兵士たちはまるでガスバーナーのような炎に焼かれ、噛みつかれ、尻尾で殴りつけられている。
1対多数なのに、強すぎて兵士たちのほうが惨たらしくやられていた。あれは大丈夫なのだろうか?
しばらく訓練を見守っていると、向こうがこちらに気が付く。そして凶悪な顔をにんまりと歪ませながら4足でひと飛び、あっという間に俺たちの目の前に着地した。
「フレデリカちゃん! 帰ってきたんだね! パパ寂しかったよ、毎晩君のことを想って枕を濡らしてたんだから!」
「ちょっと今の気持ち悪かったから減点ですわ、お父様」
「そ、そんなぁ」
うーん。濃い。




