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第67話 国王の決断

 国王様のスキル『神の預言者』のおかげで、間一髪のところで最悪の事態を回避した王都。


 そんな王都の王城には、約10万人の人々が避難していた。


 避難させられた王都民たちは着のまま逃げざるを得ず、王城にも十分な食料の備蓄があるわけではなかったため、俺たちが到着するまでかなりギリギリの状態で持ち堪えていたらしい。


 王都の真上に到着した浮遊島は、王城の先端に接続するように高度を下げて、そこから王都民たちをエレベーターで引き上げていく。


 エレベーターの到着場所は降りる時とは違って別の場所にも出せるようだったので、ひとまず上がってきたエレベーターは城の前の広場に並べていくように設定する。エレベーターの拡張用通路があって良かった。


 このエレベーターは床はあるがその他の壁や天井は魔法障壁になっているため、そのまま広場に出してしまっても構わない。放送で呼びかけて広場を開けてもらい、兵士たちに上がってきた避難民の誘導をお願いすれば、あとはただエレベーターを動かし続ければいいだけだ。


 次々と上がって来る王都民たち、1000人ずつとはいえ下で生成したエレベーターに乗せて2分間隔で上げ続けることができるので、このままいけば乗り降りの時間を考えても5時間ほどで全員を上にあげられるだろう。


 その間、国王様は兵士たちとともに民の誘導をしてくれていた。


「民たちはこの王城にいるだけで全部ですか?」


「ああ、避難させるべき人々はここにいる分で全部だよ」


「分かりました。では粛々と進めましょう。ところでこちらにチリソー伯爵様と伯爵領の兵士たちは来ませんでしたか? 彼らから王都の応援に行くと連絡は入ったのですが、それっきりなにも音沙汰がなく心配していたのです」


「チリソー伯爵とその部下たちなら、申し訳ないが地下の牢に閉じ込めている。一番近くにいた王都軍と身内である公爵に裏切られていたんだ、この状況で預言に登場していない者たちを信用する余裕はなかった。鍵はここにある。すまないがルンバー辺境伯と近衛兵の諸君は、ともに地下牢に来てもらえないだろうか」


「もちろんです。ではすぐにでも参りましょう。命がけで駆け付けた彼らをこれ以上牢に閉じ込めておくわけにはいきません」


「耳が痛いな。彼らを牢から出して安全なところに移動したら、しっかり謝らせてもらうことにするよ」


「是非そうしてください」


 そう国王様に対して強く出ている辺境伯様の姿を、エレベーターに取り付けられているカメラ映像で見ながら、今後のことを考える。


 王都民たちはやがて全員、浮遊島へ引き上げられるだろう。いったん浮遊島に王都民全員が避難する形になるわけだ。


 ただ、この避難状態がいつまで続くのかというのが問題である。


 王都は敵の手に落ちた。それを取り戻そうとするのは国王はもちろん、王都民たちからしても当然思うことだろう。


 それが数か月後になるのか。それとも1年以上後になるのか。どちらにしろその時には俺たちも戦いに参加することになる。


「でも、戦うにしてもどうやってあの数の魔道人形を相手にするんだ? 魔族もまだ裏にいるだろうし、それに加えて公爵派の連中も敵だ。地上に降りた瞬間、全方位のあらゆる敵から集中攻撃を受けるのが関の山じゃないか」


 当初、俺が想定していたのは魔族との戦いだった。だけど、今はそれに加えて公爵派と帝国の影も見え隠れしている。敵が多すぎて、戦うといってもどこを向けばいいのか分からなくなっている。


 今後、どういう話になっていくかによって、俺は身の振り方を大きく変えなければならないかもしれない。


 この世界に生まれた当初から、俺はそもそも国のことなど考えたことはなかった。はっきり言って、俺が快適に過ごせる環境さえあればどうでもよかったのだ。


 だから村を良くしようとしたし、そのために必要だから辺境伯領を良くしようとしてきた。


 それが今や戦争のために設計図のスキルを使うことになっている。


 たとえ防衛のためだとしても、武器や兵器を作ったし、お偉いさんの言うことを聞いて物を作ったりもした。


 だけど、これからは攻めるために協力させられることになってくる。それは、火の粉を払うためにやってきたこととは、心情的に大きく違ってきてしまう。


「……」


 いっそのこと、家族と大事な人たちを連れてどこかに逃げてしまうか。


 次の戦いでは父さんも兄ちゃんも兵士として徴兵されるかもしれない。それだけ敵との戦力差は大きい。


 今までは危ない場面はいくつもあったけど、奇跡的に近しい人が誰も死ななかった。だけど今度の戦いは違う。絶対に誰かが死ぬ。もしかしたら戦いに行った人間全員が戻ってこないかもしれない。


 元日本人としては国というものに対する感情はどうしても薄くなってしまう。だからどうしても国のために大事な人たちの命を懸けるのは馬鹿げているとしか思えない。


 特に俺はほとんど何でもできる力があるし、身の回りの人たちぐらいは何とか守っていける自信がある。


 俺はいつの間にか頭の中で、具体的にどうやってこの状況から皆で逃げ出すかを考えていた。


 そして、目を閉じて瞼の裏に浮かんでくるいくつもの顔を見ているうちに、逃げ出すという考えを捨てた。


 家族はいい。なんだかんだで一緒に来てくれるだろう。

 マリーちゃんやマリーちゃんの家族も来てくれると思う。


 だけど、オババはどうだ? 村を好きだと言っていたし、もしかしたら残ると言うかもしれない。


 それにガッケノは絶対に来てくれないだろう。領主の息子で人一倍責任感の高いあいつが首を縦に振るとは思えない。


 小隊長のおっちゃんも、騎士長も、バネッサさんも皆、この国を守るために残るだろう。兵士なのだから当然だ。


 何より最後に浮かんだあの人の顔……辺境伯様は絶対に逃げるということはしないと断言できる。


 俺はもう、この辺境伯領の人たちを好きになりすぎていたんだ。

 

 彼らを置いて逃げることはできないし、彼らが望まなければ連れて逃げることもできない。


「あーあ、馬鹿みたいだなぁ」


 もし国王様が「半年後に奪還に向かう」と言ったら、準備期間を設けるために1年後に延ばすよう進言しよう。せめてそれぐらいなければ、さらなる戦いの準備なんて出来やしない。


 俺はそう考えながら、ただ黙って操縦席に座りモニターに映った城内の映像を見ていた。



 ◇◆◇




 王都から全員が浮遊島に引き上げてからしばらく、俺たちは辺境伯城の謁見の間に集められていた。


 壇上の立派な椅子にはいつも座っている辺境伯様ではなく、国王様が座ってこちらを見ている。


 そんな中、集められた主要なメンバーの中になぜか俺もいた。


 何やら今後の話をするということで、国王様と辺境伯様、それから伯爵様の同意のもと、ただの領民である俺もこの場に同席するようにという沙汰が下ったのだ。


 そうして、辺境伯様とガッケノの間に挟まるように最前列に連れてこられていた俺は、そこで国王様の今後の展開についての話を聞くことになる。


 内容はだいたい考えていた通りのものだった。


 王都が奪われたこと。

 虹の魔石が割れてしまって、その効力が失われてしまったこと。

 そして、いずれは王都を奪還し、国を再建するということ。


 ただ、たった1つだけ違う箇所があった。


「我々は5年後、国を奪還するために動き出す。これは決定事項だ。各々、それまでにしっかりと準備しておいてほしい」


 奪還戦争が始まるまでに5年もの時間的猶予ができたのだ。

 

 これを聞いたとき、俺は国王様に感謝した。


 そして直後、国王様と目が合い、これが国王様が俺に与えた時間だということを理解した。


 「やってやるさ」


 俺は決意を胸に国王様の目をしっかり見返す。


 5年後、俺が必ずこの戦争を勝利に導いてやる。


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