第66話 預言の真価
上空から見た王都は地獄と化していた。
戦闘機を操縦していたパイロットが報告してきた時よりも深刻化しているのは明白であり、魔道人形たちはもはや人のふりをするのをやめて、異常な動きで道路を這い回っている。
最初にパイロットから報告を受けたときは気が付かなかったが、王都の第3層と第2層の存在も確認できず、燃え盛る炎が上昇気流を巻き起こし、炎が各地に飛び火して拡大を続けていた。
「これは……民は、生き残りの民はいないのか!」
辺境伯様をはじめとして、俺たち全員が目を皿にして映像を隅々まで見ていく。しかし、そこには魔道人形がいるばかりで人々の姿は少しもなかった。
もう人々は殺されてしまったのだろうか。
だんだんと近づいていく浮遊島、映像の解像度は次第に上がっていく。
「民の姿は全くありません」
それでも、今兵士の人が言ったように人の姿はたった一人も見つけることができない。
「逃げる人の姿もなければ、死体すら見当たらない。これは流石におかしいのでは?」
「敵に攻め込まれる前に何かがあり、民が避難していた可能性があるな。しかし、この王都から伯爵領や男爵領に行くことは自殺行為に等しい。敵が南から来ることは魔族の国が南にあることから分かりきっているからな」
「では、北の公爵領に行ったのでしょうか?」
「単純に考えればそうだろうな。とはいえ、敵が王都に潜伏していたのなら、そのような隙を与えるだろうか……?」
王都の北には公爵領があったのか。それにしては今まで話題に登場すらしなかったことが不思議に思える。
公爵領なんて王族の血族だろう。なら王都に次ぐ最大の都市はそこにあるのだろうし、当然軍の規模も大きいはずだ。
でも、パッと見てみた感じでは兵士の姿は見えない。
そういえば、伯爵様や伯爵軍の姿も見えないな。
「辺境伯様、伯爵様とその軍は王都の救援に向かったのですよね? それにしては兵士の姿も少な過ぎるように思えるのですが」
「確かにな。いったいどうなっているのだ? 王都で何が起こった?」
何もわからないまま着々と王都の上空へ向けて進んでいく浮遊島。
もう数分もすれば真上に到着というところで、無線に連絡が入る。
それは、まだ誰も使っていないはずの浮遊島の付属無線だった。
無線はラジオ局のものでひとまず足りていたため、この無線はまだ公開していなかった。
浮遊島の付属無線ということで初期設定では操縦席の人間だけが拝聴できるように設定されている。
その無線に対して、周波数を誰にも伝えていないにもかかわらず連絡が来るというのはおかしすぎる話だ。
俺は皆が映像を見ている中、操縦席に座っていたため1人無線の呼び出し音を聞いていた。
どうする、呼び出しに応えるべきか……?
一瞬考えて、結局俺は無線の応答ボタンを押した。
直後に聞こえてきた声は全く知らない若そうな男の声だった。
『やはり来てくれたね。最高のタイミングだよ』
「あなたは誰なのですか? どうしてこの無線の周波数を知っているのです?」
『うん? ……ああそうか。私と君とはまだ会って話したことはなかったのだったね。先が見えるからつい話したことがあるものだと思っていたよ』
先が見える? 何を言っているんだ、この人は。
「何を言っているのかよくわかりませんが、質問に答えてください」
『ああ、すまない。つい余計なことを言ってしまった。私のことだったな。私がこの無線の周波数を知ったのはスキル『神の預言者』によるもので、私はこの国の国王、パラゴ・ンゴ・アストラルだ』
「えっ……? ヤバっ、うちの国の王様の名前変過ぎだろ」
あっ、つい本音が。
◇◆◇
スピーカー設定にしたことで、国王様の無線の声が場に響き、その場の緊張が和らぐのを感じる。
そんな中、俺は一人先ほどの失言のことを思い返していた。
さすがに名前が変過ぎるというのは失言過ぎたな。ただ俺が何と言ってくるか国王様には予想がついていたらしく、めっちゃ爆笑されたんだけど。それでもあれは普通は許されない発言だったと少し怒られてしまった。
「反省しよ」
ただまあ、国王様が無事だったことで、一同少しは顔に希望が出てきてよかった。
それにしても、下の街はあれだけ壊されていても王城はまったくの無傷だったとは驚きだ。王都自体も虹の魔石の力でガチガチに守られていたが、王城となるとやっぱりそれ以上の守りが施されていたんだな。
「国王様、王都の民たちはどうなったのですか?」
『民たちは全員王城に入ってもらっているよ。事前に襲撃が起きることは預言できていたからね』
「そうですか。良かった。しかし、民に紛れて敵の魔道人形がいたのでは?」
『そうだね。だけど、彼らの魔道人形も障壁は突破できても王城の守りは突破できなかったらしい。王城の強化をしておいてよかったよ』
凄いな預言って、前はこっちが操られているようで嫌だったけど、こんな場面に先回りして準備しておけるのだから、今はあってよかったと思えるよ。
しかし、それならどうして外側の魔法障壁を強化しておかなかったのだろうか。そちらを強化しておけばそもそも侵入されずに済んだのに。
『王都外周の魔法障壁はあれ以上強化できなかったんだよ。カイララ君。虹の魔石をもってしても、この広大な範囲を今以上に強化してしまうと魔力がすぐに枯渇してしまうからね。それに虹の魔石にもそろそろ限界が来るようだし、あまり無理はさせられなかったんだ』
その国王様の話に辺境伯様が疑問を返す。
「どういうことです?」
『うん。実は数か月前に突然、虹の魔石に罅が入ってね。おそらく何もしなくても1年以内には割れてしまうだろうという結論が出ていたんだ』
「我々は聞いておりませんでしたが……」
『ああ、言ってないからね。虹の魔石は国家の宝であり要でもある。ほんの少しでも外に情報を漏らすわけにはいかなかったんだ。まあ、無駄だったみたいだけど』
「敵はそれを知っていたと?」
『どうやらそのようだね』
ここまで話を聞いていて気になったことがある。国王様の『神の預言者』スキルがあるなら、虹の魔石が割れることも察知できたのではないのだろうか?
預言があったのならあらかじめ割れたときの対策も立てておけたと思うし、この状況も少しはマシになっただろうに。
『残念ながら私の預言にも限界がある。というか、預言の内容を自分で選んで見ることができないんだ。特に虹の魔石については神に拒まれているかのように何もわからない。それでも君たちのことは見ることができた。そこに希望を見いだせたのは本当によかったよ』
「国王様には我々がこうして浮遊島で救援に来ることが見えていたのですね。しかし、それにしても公爵軍と王国軍の姿が見えませんでしたが、これも国王様の作戦なのですか?」
『ああ、それは違うよ。王国軍は王都にはいない。公爵軍もね。公爵は国を裏切ったんだ、王国軍は公爵に従うように王都から出て行ったんだ』
「なんですと!? こ、公爵が国を裏切った!? あのゴウラム公爵が!?」
『どうやらそうらしい』
その時、ひときわ大きな爆発が市街地で起こった。
『すまないが、話の続きは我が国民が全員そちらに避難してからにしよう』
まさか魔族に加えて、国の内部分裂まで起きるなんて……本当に大変なことになってきたぞ。
いったいこの先どうなって行くんだ、この国――いや、この世界は。




