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第65話 王都上空へ

 辺境伯領は浮遊島となった。


 高度の上昇とともに下がった気温は、島の温度調節魔法でちょうど良い秋口ほどの温度に保たれている。


 雲の下に広がる地上を見下ろす高さになっても空気が薄くなっていないのは、おそらく俺が把握できていない島の機能がまだあるのだろう。


 島の浮上と共に魔法障壁によって弾き出された人以外の生き物たちは、上昇高度がまだ低かったこともあってほとんど無事だったようだ。


 しかし、まさか家畜やペットまで領地外へ出されてしまうとは、時間がなかったために細かい調整ができていなかったせいか。少しだけ責任を感じる。


 だが、獣人やエルフが問題なく領地内に残れたのは不幸中の幸いだったと言って良いだろう。下手したら人間じゃないと判断されてたかもしれないしな。


 というわけで、意図せず人間以外を島の外に弾き出したわけだが、この問題よりも何よりもまずしなければならないことがある。それを対処しないことには他に何もできやしない。


 俺たちは壊れて動かなくなった魔導列車を置いて、魔法の絨毯で一路、領都へと向かう。


 辺境伯領を浮上させるまでは多少の問題はあったものの概ね順調に事が運んだ。ただこれからは王都まで浮遊島を移動させ、王や国民たちを助けに向かわなくてはならない。


 援軍に向かった伯爵様や伯爵軍の兵士たちのことも気になるし、一刻も早く王都へ行き、俺たちも人々を助けなければ。


 道中、魔導列車から降りて歩きで領都へと向かう一団に遭遇した。あのキマイラの集団に襲われて逃げていたのだ、列車が頑丈とは言え限界が来てしまったのだろう。


 話を聞くと、彼らは兵士と伯爵様の城で城勤していた方々がほとんどで、やはりあの伯爵様の領地だけあって、皆さんが責任感のある素晴らしい人々なのだと感じた。


 その後、一団には迎えの魔道列車を向かわせるように手配すると伝えて、俺たちだけで先に領都に帰還する。


 帰還後すぐに駅へと向かい、駅員にガッケノの名前を出すと無事に一団に迎えを送ることができた。


 その際に俺も名乗ったのだが、どうやら俺も結構有名になっていたらしく、またガッケノの部下であることも知れ渡っていたようで、すんなり話が進んだ。


 今まで色々とやってきて良かったと思った瞬間だった。俺自身は現時点で兵士でも何でもないただの国民の1人だ。それでもこうして指示を聞いてくれるのだから、ありがたい話である。


 その後、すぐに電波塔下のラジオ局に戻ると、ガッケノたちは相変わらず各所との連絡に忙しくしていた。


 領民たちへの説明はすでに終わっているらしく、一部のペットを飼っていた住民以外は領都内では目立って騒ぎは起こしていないらしい。


 ただやはりペットを家族としていた住民たちは家族がいなくなったということで騒いでいるのだとか。


 俺自身、その気持ちはよく分かる。何せおそらく村にいたゴブリンニートもドラゴンたちも外に出されてしまっているだろうからな。奴らは俺のペット的な存在だった。とても悲しい。


 しかしだ。それはそれとして、もし辺境伯領を浮遊島にしていなければ、ペット諸共キマイラにやられていたわけで、そのことを考えると文句を書いてやるのはちょっと違う話になってくる。


 つまり、何が言いたいかというと、そんなことを言っている連中の話を聞いている暇は今はない、ということだ。


 少しは状況を考えてものを言って欲しいものである。


「辺境伯様たちはこっちに向かってるのか?」


「ああ、父上だけではなく各地に散らばっていた兵士たちもな」


「ここにしか下に降りるエレベーターは無いからな。じゃあ辺境伯様たちが到着する前に島を王都に向けて動かすか?」


「そうしてくれ。それと、人以外も障壁内部に入れるように設定変更も頼む」


「分かった」


 この浮遊島は着陸することはできない。この規模の島が着陸してしまえば、真下にあるものを押し潰してしまうからだ。


 だが人が島から降りる事ができなければ、それはそれで欠陥になる。


 そのため、このラジオ局兼浮遊島の操縦室の真横に、超巨大な1000人乗れるエレベーターが、島を上から下まで貫通するように通っているのだ。


 辺境伯様たちが戻ってくれば、このエレベーターを使って王都への援軍に降りていくことになるだろう。


 ならばその間に島を移動させ、王都の真上につけておきたい。


 ついでに人間以外の生物の許容設定も完了できれば最高だ。


 操縦席に座り、コンソールを表示して裏の設定画面を呼び出す。ずらりと並んだ項目は数えきれないほどで、正直目がチカチカしてうざったい。


 とりあえず操作画面の方で移動場所を王都に設定して移動を開始させ、その後にコンソールに向き合うことにした。


 コンソールの操作方法の説明から見始め、なんとか検索ワードを駆使して魔法障壁の項目を見つけだすと、そこには人間を含めたいくつもの生物のチェックボックスが表示された。おそらくこれにチェックをつけてやれば許可されるようになるのだろう。


「しかし、面倒臭いな。全部終わったらシステム面も全部使いやすいようにアップデートしてやる」


 そう心に決めて操作を続け、ちまちまとチェックをつけているといつの間にか辺境伯様たちがラジオ局まで来ていた。


「ガッケノ、これは今どうなっている? 状況を説明してくれ」


「浮遊島の件なら、カイララに説明してもらった方が早いでしょう。カイララ」


「え? あ、ああ、了解。辺境伯様、現在の進行状況を説明します。こちらの地図にご注目ください」


 俺は操縦席のパネルを操作して広い壁にこのあたり一帯の地図を表示する。これは浮遊島から検知できる範囲をスキャンした地上の地図だ。


 地図上には赤い点滅する点が一つと、移動する黄緑色の矢印が映っていた。


「赤い点が目的地である王都、緑の矢印が我々の浮遊島です。こちらを見て分かる通り、もう間もなく浮遊島は王都の上空へと到着します」


「そうか、では到着前に空から王都の状況を見ておきたい、この島には空から地上を見るためのカメラなどはあるか?」


「ありますが、今は雲の上です。現在、王都の上空には雲が出ていますので、高度を下げなければなりません。敵に気づかれて飛行可能なモンスターを差し向けられる可能性がありますが、高度を下げますか?」


「頼む。どちらにしろ王都に着けば高度を下げることになるのだ。多少敵に纏わりつかれたところで、カイララが造ったこの浮遊島ならばびくともしない。そうだろう?」


「ええ、もちろんです! では浮遊島の下層部分を雲から出して、王都の映像を出力します!」


 辺境伯様にここまで言われたのでは、俺自身がビビってるわけにはいかない。


 俺はすぐにパネルを操作して浮遊島の高度を下げ始めた。


 先ほどついでに設定して魔法による振動制御が入っているので、浮上を開始した時よりもずっと静かだ。まるで動いていないかのようにすら思ってしまう。


 そうして数秒後、地図が映されていたモニターの上にホログラム映像ディスプレイが重ねられた。


 高度はあるが、そこは流石に偵察用高性能カメラ。地上の様子がよく見える。


 そしてお目当ての王都に向かって自動的にズームがかかり、現在の王都の様子が映し出される。


 そこには、まるで予想もしていなかった王都の姿があった。


「上の2階層が無い?」


 前に王都に行った時に見た農地階層と畜産階層がなくなっており、1階層目の居住階層が剥き出しの状態になっていたのである。


 そして、居住階層は当然の如く敵に埋め尽くされており、家は燃やされ道路は穴だらけにされ、至る所で炎が揺らめき、黒煙を上げている。


 そんな中、唯一動いていて、まるで虫のように蠢く魔導人形たち。


 それは希望など1つも無いような光景だった。


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