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第64話 キマイラの脅威

 辺境伯領が浮遊島になる少し前。


 魔法の絨毯に乗って伯爵領との間にある関所へ向かっていた俺たちは、道中で恐ろしい光景を目撃してしまった。


 領都の魔法障壁が発動し、今にも壊れそうになっていたのだ。


 その原因は夥しい数のキマイラ。


 奴らが炎を吐き、氷を吐き、体当たりを繰り返して障壁を破ろうとしていたのである。


 キマイラは辺境伯領には生息していない。つまり、このキマイラたちがどこから来ているのかは明白だった。


 領都の魔法障壁は、王都のそれと比べるとかなり性能が劣る。このままでは障壁は破られて、街は破壊され、住民たちは食われてしまうだろう。


 とは言えこちらにできることも少なかった。何せオババは大規模上級魔法使用の影響でまだ大した魔法が使えず、俺もサンダーボルト1回分の魔力しか残っていない。


 ガッケノは魔法は使えるがこの場では力不足。


 キマイラたちはまだまだ、途切れることなく伯爵領の方から飛んで来ている。それこそこんな数がどこにいたんだというぐらいの大行列になって。


 夜の暗闇の中でも分かるキマイラの怪しく光る瞳。月明かりの中でぼんやりと浮かび上がるシルエットとあわせると、身の毛がよだつほどに不気味だ。


 最早、この状況は伯爵領を含めた基準地点を探している場合ではなかった。


 そもそも、その基準地点があると思われる関所から辺境伯領の領都へ続く道のりにはキマイラたちが飛び回っていて、探せる状況ではない。


 俺たちは決断に迫られていた。


 伯爵領を見捨てて、辺境伯領のみを浮上させる。


 そうすれば新しい敵の侵入は防げるし、キマイラの対処に人員を回せるようになるだろう。


「ガッケノ、本当にいいんだな?」


「ああ、それ以外にこの状況を打破する方法はない。今は覚悟をもってことを成す時だ」


「分かった。なら辺境伯様の城へ行くぞ。電波塔を立てた辺りがちょうど基準地点だ」


 辺境伯領の住人である俺たちは、防衛のための障壁をすり抜けることができる。


 街中に入ると、そこはいつもの街の雰囲気とは全く別物に変わっていた。兵士たちは忙しく走り回り、唯一外のキマイラへと対抗できる魔法騎士達のサポートを行っている。


 住人たちは急な襲撃に動揺し、一部では怒号が飛び交っていた。兵士たちが統率する暇もなく、住人たちには逃げ場もない。障壁が破れることになれば家族も友人も誰もかれもが死んでしまうのは分かりきっている。怒号が飛び交うのも無理はない。


 そんな中、俺たちは魔法の絨毯で一気に電波塔を目指した。街中に向けて緊急放送が流れていて、城の敷地内だというのに人の姿が見えないあたりがどこか奇妙だった。


 電波塔の下にあるラジオ局の建物の中に入ると、そこには数人の兵士が長距離無線で多方面とやり取りをしていた。


「こちら辺境伯領の領都、キマイラの襲撃はなおも継続中! 魔法障壁は現在耐久値が急激に減少しています! 部隊の応援を要請します!」


 領都に配置されている部隊の人数はかなり抑えられている。これは領都に魔法障壁があったことと、位置的に最も安全な場所とされていたからだ。


 そのため、軍のほとんどは男爵領から来るモンスターたちの対処のために東の砦に配置されていて、領都には最低限しか残されていなかった。


 おまけに周辺の街に配置された兵士達も海からのモンスターの対処のために派遣されたばかりで、領都はほぼ孤立無援状態になっている。


 兵士たちが焦るのも無理はない。


 そんな兵士たちの中に1人、伯爵領の領都と通信を行っている者がいた。俺たちはその通信担当の兵士に近づき伯爵領の状況を聞く。


「忙しいところすまない。伯爵領の状況はどうなっているだろうか?」


「え、あっ! ガッケノ様! はい。現在伯爵領の領都はキマイラからの襲撃を受けており、ほぼ壊滅寸前とのことです。軍は王都の救援に向かっているらしく、残っていた一部の住人は魔導列車によって辺境伯領へ脱出中との連絡がありました」


「残っていた一部の住人? ということは、伯爵領の住民たちはほとんどやられてしまったのか?」


「いえ、伯爵様が事前に住民たちを辺境伯領へと避難させるように指示されていたようでして、既にほとんどの住人たちはこの領都に到着しております」


 伯爵様、さすがの先見の明だな。


 王都の襲撃を察知したのか、それともキマイラたちの不審な動きを見たのかは分からないけど、いち早く事態を察知して魔導列車で伯爵領の領都から辺境伯領へと住民を逃がしたらしい。


 列車の数が8両編成で10組あるとしても、1回で移動できる人数はせいぜい6000人程度。伯爵領の領都の人口が3万人を超していることを考えると、相当早く動いていないと全員を逃がせない。


 トンネルが通ったおかげで直線距離で移動できるようになった事と、魔法のおかげで車両にパワーがあることで、辺境伯領までは往復1時間で移動できるようになった。


 ただ、人の乗り降りの時間も加味して考えると、避難させるだけで6時間以上はかかっているだろう。


「全員が来ているということは、3万人この領都で受け入れたんですか? デカい街とは言え、よく3万人も受け入れられましたね」


「それは住人たちの協力のおかげです。道を避難民たちに開放してなんとか街の中に全員を入れることができました。ですが当然この状況を長い間続けることは物資の数を考えてもできません。それに障壁もどれだけ持つか……魔法騎士の話では、もう半日も持たないかも知れないと言っていました」


 そう言う兵士の顔は悲壮感が漂っていた。


 かなり精神的に参っているようだな。


「まだキマイラが完全に街を包囲しているわけではないですが、奴らは飛んでいます。たとえ南門から出たとしても、徒歩や馬車での避難は不可能ですし、バスでもスピードがギリギリです。魔導列車についても伯爵領では線路にキマイラ対策を施していたので、車両自体の耐久性だけではキマイラの攻撃を耐えられません。厳しい状況です」


 話を聞いて、相当厳しい状況だったのがよく分かった。


 キマイラから攻撃を受けていることもそうだが、少ない常駐兵士の数で辺境伯領の住民のみならず伯爵領の避難民まで統率しなければならないというのは、結構な負担を強いられていたことだろう。


 しかも、住民たちは街から出られない状況でいつ爆発するか分からない。そのうち避難民を受け入れてくれていた辺境伯領の住民が、キマイラが攻めて来たことを伯爵領の避難民のせいだと言い出すかもしれないのだ。


 そんな中、先頭に立っているはずの辺境伯様もいないとなれば、彼ら兵士の心的負担は計り知れない。


「ここまでよく頑張ってくれた。私もルンバ―辺境伯家の一員。ここからは私が先頭に立とう」


「し、しかし、良いのでしょうか」


「もちろんだ、兄たちは前線に出ている。私だけ何もしないわけにはいかない」


「で、では、よろしくお願いいたします」


 ガッケノはその兵士に連絡業務だけに専念してもらうようにし、自らが領民への呼びかけ放送を開始する。


 俺はその後ろで地面に手をついてスキルを発動する準備に入っていた。


 この場所を基点として辺境伯領全体を浮遊島に造り変える。操縦コンソールの操作権限は辺境伯家と俺、それからオババのみに限定し、初期上昇設定をしたら後はガッケノのGOサインを待つだけだ。


「ガッケノ、いつでも製造スキップ可能だ」


「父への報告は後程行う。製造スキップを開始してくれ」


「了解! ……スキップ!」


 その瞬間、辺境伯領の大地は剥がれ、その地に眠っていた大量の素材を使用したロケットエンジンが一瞬にして作られた。


 一見して変化があったのは目の前の操作パネルと操縦席ぐらいだが、大地が剥がれた際の微弱な振動は辺境伯領の全員が感じ取っただろう。


「よし、これで辺境伯領は浮遊島になった。あとは今こっちに向かっている伯爵領からの最後の魔導列車を待って浮上させるだけだ」


「浮上のための操作はどうやればいい?」


「ガッケノがパネルに手を置くと、最初にマニュアルが表示されるよう設定してある。一応操作は簡単にできるようだから、見なくても直感的にどう操作すればいいかはわかるはずだ」


「そうか、ならカイララと魔女様は魔導列車の先頭車両を走らせて関所に向かってくれ。伯爵領からの最後の魔導列車が辺境伯領に入ったら、車両の無線で連絡してもらえればすぐに浮上を開始する」


「分かった。行くぞオババ!」


「あの数のキマイラにたった2人だけで突入させるとは、まったく酷い城主がいたもんだねぇ。けどまあ、アタシらの村のトップのいうことだ。仕方がない。ここは言うことを聞いてやるとするか」


 こうして、俺とオババは列車を魔法で守りながら関所へと向かうことになった。道中はオババの風魔法と俺の雷魔法をうまく使って、ブレスはオババが弾き返し、体当たりは俺が感電させて、なんとか車両を壊さないまま関所にたどり着くことができた。


 しばらく車両の中でキマイラの攻撃を防いでいると、伯爵領からの最後の魔導列車がキマイラたちに追われながらその姿を現す。


 俺たちは自分たちの乗る車両の守りを解いて、全力でその最後の魔導列車が辺境伯領に入って来れるようにサポートし、その車両が俺たちの横を通過していったのを確認したところでガッケノに連絡を入れた。


 次の瞬間、一瞬巨大な振動が発生したかと思うと大地が空へと浮上し始める。

 そして、浮遊島の機能として備え付けられた大地に眠る大量の魔石による魔法障壁が、浮遊島の中心からモンスターを外に押し出すように展開していく。


 キマイラたちはその障壁に抗うことができず、次々と島の外へと追いやられていった。


 人間以外の全てのモンスター、そして動物もろとも、夜の闇の中に落ちて行ったのである。

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