第61話 嵐魔法:爆撃雷雨
オババの無茶振りにより、残り半分のモンスターの大群をどうにか減らすことになった。
とは言え、俺の魔法ではオババほど強い魔法を使うことはできないし、この数をどうこうするのに小細工は通用しないだろう。
どうするか……
「この数相手だったら軍でも対処できるんじゃないか?」
「できるだろうが、その後に魔族が控えていることを忘れるんじゃないよ。魔族はモンスターのようにただ突っ込んでくるだけじゃないからね」
「問題はその魔族だよ。どれだけの数がいてどれだけ強いのか、何か少しでも分かればなぁ……」
魔族は今のところ獣人たちしか見ていない。しかもその獣人たちだって魔族の中では弱いほうだというし、そもそも戦闘スタイルが違いすぎるので彼らを見ていても参考にもならない。
かといって全員がオババレベルならもう諦めましょうとしか言えない。
軍に魔族を任せてしまって俺達はノータッチでどうにか出来るんだろうか?
辺境伯軍と伯爵軍を侮っている訳じゃないけど、闇魔法を使う魔族のあの魔法の規模を見たら不安になってくる。
「悩んでるね。まあ当然か。でも今はこの場をどうするかを考えな」
「そうだった。どうすりゃいいんだよこれ。俺の魔法にそんな強力なのないぞ。戦闘機もモンスターを倒すために使うには数が足りないし」
「はぁ……状況をしっかり把握しな。今この場でどうすれば敵の侵攻を食い止められる? 倒すことばかり考えているんじゃ、一生半人前から抜け出せないよ」
そもそも俺は魔法使いとしてやってくつもりないから、一生半人前でもいいんだけどなあ。そんなこと言ってもオババには通じないから言わないけどさ。
しかし、状況を見ろか。
下に広がる景色はこの山頂に到着したときと比べて別世界のように変わってしまっている。緑が生い茂っていた森は今や残骸が残るのみで、燃えカスと焼け残りがあるだけでもう森とは言えない感じだ。
遠くに見える男爵領の領都もオババの魔法で一部の建物が崩壊していて、見るも無残な状況だ。
ちなみに男爵領の住人たちは、貿易都市の横を流れる川を利用して全員辺境伯領の方へと避難させている。貿易都市には軍の部隊がいるらしいが、ここからは遠すぎるのでさっきのオババの攻撃の影響はほぼ無いだろう。魔法障壁もあるしね。
モンスターたちの姿はまだ少し遠いが、あの速度なら30分もすれば山頂に到達するだろう。多少障害物が多いから速度は落ちるだろうけど、それだけで大した遅延にはならない。
ここで俺ができることと言えば、水魔法か雷魔法なんだけど。俺の最強の雷魔法であるサンダーボルトを使ったとしても、せいぜい100匹倒せれば良い方だ。そんなの全体の何分の一だよ。
かといって水魔法なんて雲を作るか雨を降らせるか、ちょっとした鉄砲水を出すぐらいが関の山。サンダーボルトと大差ない被害しか出ないだろうな。
「いや、待てよ今オババがやった事を俺もできればもう少し魔法の威力は上がるか?」
水魔法と雷魔法、これらを組み合わせて何ができる? 大量の水を流して足止めした所を雷で感電させるとかか?
……うん? 足止め? なるほど、そういう事か!
「分かったみたいだね」
「ああ、敵を倒すんじゃなくて山を越えさせなければいいんだ。なら俺でもやれる」
俺は水魔法で雲を作り、雨を降らせることができる。そしてその雲を利用して特大の雷を落とすこともできる。だけど、逆に雷を利用して雲を活性化させたらどうだ?
魔法というのは割と概念的なものに寄る場合が多い。現象として見ているからこうなるだろう、というイメージがその現象を引き起こしたりする。要は俺が大量に雨が降る状況をどう考えるかで魔法は形を変えるということ。
オババは風魔法を使って、その風魔法に乗せる形で火炎魔法を使った。その結果相乗効果であれだけの攻撃になったのだろう。
ならば俺は同時に使う。というか、これを新しい魔法属性として考える。
水魔法でも雷魔法でもない。――嵐魔法。
雷雲を作り出し、凄まじい雨と風をもたらす。
「嵐魔法……爆撃雷雨!」
直後、雲一つなかった青空に突如として灰暗い雷雲が現れた。そしてオババの風が止んでから凪いでいた空気が再び動き始める。
雨がポツポツと降り始めたかと思えば、風に乗って水滴が重なって大粒になり、やがて激しい雨となって降り注いだ。
雷が雲の中で光り、その爆撃のような連続した音は周囲にこの空間が魔法の支配空間になったことを示す。
「やるじゃないか。だけど、魔法の操作が雑だねぇ。アタシらまでびしょ濡れだよ」
「新しく作った魔法だからね。それじゃなくても俺は魔法の使い方が荒いんだよ」
「知ってる」
さて、この魔法はまだまだこんなもんじゃない。ここからが本番だ。
これが俺にとって初めての超広範囲魔法だ。長くは持たない――だから、一気にいくぞ。
まず風と雨を操作して局所的な大雨を降らせる。場所は山の峰沿い。これで地盤を緩くすれば、直に木が一本も生えていない山肌では土砂崩が発生し、大量の水と泥が敵が侵攻できる経路を塞いでいく。
ただ、これだけで全てのモンスターを防げるわけじゃない。
「これじゃあ足止めしただけ。結局最後にはこのモンスターたちを倒さなきゃならないんだけど、オババの魔力はどれぐらいで回復しそうなの?」
「そうだねぇ、だいたい3日ってとこか」
「3日か、それじゃあ間に合わないかな?」
「どうだろうね」
「……というかさ、このモンスターたちって魔族の命令がなかったら襲ってくるのをやめてどっかに行くんじゃない?」
「その可能性はある。これだけの数だ、いくら魔族とはいえ単純な命令しか出来てないだろうし、モンスターの中には本来敵対している者同士が混ざっている。少なくとも真っ直ぐ来る数は減らせるだろう」
となると、こりゃあ今はこれ以上ここにいても仕方ないかもしれないな。
土砂崩れを登って来るとしても山は結構崩れているから簡単には前に進めないはずだ。一部の虫系統のモンスターは除くとして、その他のモンスターは最低1日ぐらいは足止めできるだろう。
「俺の雷なんていくら撃ってもしょうがないし、ここでやれることはもうなさそうだ。オババ、ここは一旦退こう」
「そうだね。ここで知るべきことは知れたしな」
知るべきこと? 何の話だ?
まあいい、今ここで聞くより後から皆と一緒に聞いたほうが手間も省ける。ここは戻ることを優先しよう。
◆◇◆
村の近くに造った飛行場。滑走路には何度も着陸の練習をした跡が残っている。
そんな飛行場に造られた管制塔の中で今、辺境伯様とガッケノと俺はオババの話を聞いていた。
「まさか領主様もいるとはね。戦闘機を見に来たのかい?」
「まあそんなところだ。それより今の話は本当なのか?」
「ああ、男爵領には魔族の連中は高確率でいないだろう。少なくとも私はそう思う」
オババの話は単純だった。
俺たちが見に行ったあの山の向こうの男爵領。あそこには大量のモンスターがいたわけだが、その先に魔族がいないのではと言うのだ。
「何故そう考えた?」
「アタシとカイララは絨毯で山頂まで飛んで行って、そこでありったけの魔法をモンスターどもにぶち込んだんだが、その際に一切の妨害が無かったんだ。これは奴らがモンスターどものことを重視していないということに他ならない」
「そうか、もしこちらに対して攻撃を仕掛けることが目的なら、モンスターをできるだけ生かした状態でこちらにぶつけた方が都合が良いはず。それを黙って見過ごしたから男爵領に魔族がいないのではと考えたのですね?」
「ガッケノの言う通りだ。戦争は数だからな」
ちょっと待てよ。さっきの話だと確か他の砦では魔族どころかモンスターの一匹すら見てないとか言っていたような気がするぞ。だとしたら魔族はどこに行ったんだ?
まだ魔族の国に引っ込んでる? いやいや、それは無いでしょ。確かにスパイの人は魔族が動いていると伝えて来たんだ。それも複数人のスパイが。
「まさか……だが、あり得ん。奴らとてあそこを叩いても無駄だと分かっているはず」
「辺境伯様、心当たりがあるのですか?」
俺がそう聞いたと同時に、管制塔内の長距離無線が鳴った。
近くに居た執事の人が無線を取ると、内容を聞いて慌ててスピーカーモードに切り替える。
それは夜間飛行訓練中の戦闘機パイロットからの連絡だった。
『ほ、報告! 王都が……王都が燃えています!』




