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第60話 エアポケット・フレア

 魔法の絨毯に乗って低空飛行で山の頂上を目指す俺たち。


 まさか移動手段に魔法の絨毯が出て来るとは思っていなかった。なんで絨毯を飛ばそうと考えたのかその思考回路が意味不明で、俺は心底驚いてオババに問い詰めた。


 オババが俺と同じ地球出身なら魔法の絨毯が空を飛ぶという発想も理解できる。まさかオババも転生者なのではと思った。


 でも、聞いてみたらどうやら大昔に王都の方で魔法の絨毯が使われていたらしく、その時の技術が部分的に継承されていて、オババが暇を持て余して復活させたということだった。


 その話を聞いて俺はオババが転生者じゃないということに少しだけがっかりした。でも考えてみれば今まで俺が作ってきたものにオババも少なからず驚いていたし、どう考えても転生者なわけがなかったのだ。


 俺は馬鹿です。


 しかし、昔の技術というのならその昔には地球からの転生者がいたのかもしれない。それは分かったのでまあ、別にいい。


 そんなこんなで話をしつつ、魔法の絨毯はグングン登っていく。


 ようやく頂上にたどり着いた時、モンスターたちの足音は地鳴りのように響き、所々で山崩れさえ起きている光景を目にした。


「あいつら自分たちの命が惜しくないのか」


「なわけねーだろ。モンスターだって生きてんだ、死にたくないに決まってる。だけど、それを撥ね退けるぐらいの命令を魔族の連中にされてんのさ。その証拠にどいつもこいつも顔がイッちまってるだろ」

 

 オババの言う通り、モンスターたちの顔は種類がバラバラにもかかわらず、共通してイカレタ表情をしていた。ただ前に進み、暴れるだけという顔だ。


「ヤベーな。死ぬのが怖くない軍団なんて厄介過ぎる」


「そうだな。だからアタシがここに来た。ここから見えてる山の向こうのモンスターどもを消すためにな」


 マジかよ。この数だぞ。数えようなんて気にもならねえぐらいに蠢いてやがるのに、オババ一人で全部消せるってのか?


 確かに俺はオババの本当の実力を知らない。ガッケノが様付けで呼ぶから凄いのかもしれないとは思ってたけど、俺は見たことないし何とも思ってなかった。でもこの数を本当にやれるなら尊敬しないわけにいかない。


 何せ一人でこの国を救ったレベルの話だしな。


「さっきも言ったが、山を越えちまった奴らはもう軍に任せる。アタシは調整して魔法を撃つより思いっきりやった方が強いからね」


「ああ。でも、本当にやれんの?」


「ふっ、まあ見てな」


 そう言うと、オババはさらに絨毯を上昇させる。


 真っ青な雲一つない空、気持ちいい天気なのに下は地獄みたいでギャップがすごい。


「本日は晴天なり、か」


「晴天ねえ。じゃあこっちでいくか。今からちょっと揺れるからね、しっかりつかんどきな」


「どこを?」


 俺の問いへ返事をする事もなく、オババは敵の真上に向かって手を向ける。


「いくよ。上級風魔法……エアポケット」


 魔法は発動した。だけど、使った直後には何も変化は無く、ただ微風が吹いているだけだった。


 だがしばらくすると、少しずつ風が強まっていく。 


 そして30秒後、風は暴風に変わっていた。


「ぐっ……! な、なんだこの風!」


「気をつけな。ここはまだそよ風だよ。少しでも顔を向こう側にせり出せば、首の骨が折れちまうからね」


「これでそよ風!? 台風かと思うぐらいなのに!?」


「台風ってのが何かは分からないが、見てみな。奴らが飛び上がるよ」


 オババの言う通り、翼もないモンスターたちが風で空に舞い上がっていく。暴風で巻き上がる木々がモンスターの体にぶつかり、突き刺さり、時にはモンスター同士が衝突して、地面に落ちた熟れたトマトのように潰れていた。


 エッグい。


 そんなぐちゃぐちゃのグロい光景を見せられながらも、俺は見えている範囲全てに吹き荒れている馬鹿みたいな規模の暴風に驚愕していた。


 まさかここまでオババの魔法の力が強いとは。


「オババって本当に凄かったんだな」


「ふっ、まあね。アタシの魔法は荒っぽいから今までは力を超セーブしてたんだよ。でも、まだまだこんなもんじゃないよ」


「まだ何かやるつもりなのか?」


「当たり前だろ。まだ半分だよ」


 半分? この上級風魔法が半分だって?


「これまでは前準備、次が本番。いくよ、上級火炎魔法……フレア」


 次の瞬間、吹き荒れる乱気流の中で爆発音とともに炎が発生した。

 その色は、高温を示す青色。


「完全燃焼させた炎か」


「よく知ってるねぇ。フレアは摂氏1000度を超える完全燃焼の炎を生み出す上級火炎魔法。だけどこれだけじゃあない。アタシの風は炎をさらに強くする」


 至る所で燃え上がった青い炎。それらは風に舞い、モンスターや木を燃やし始める。燃え移った炎はなおも高温の青を保ち、火の粉が風を炎風えんぷうに変えていく。


 そして、俺の見ている景色は一面が青い炎の嵐に埋め尽くされた。もう、モンスターの一匹も見えない。それはまさに火炎地獄だった。


「……」


「言葉も出ないか?」


「なんて言うか……これもうあんた一人でいいんじゃね?」


「戦争がかい? バカ言うんじゃないよ。アタシだけで魔族のクソ野郎どもをどうにかするなんて出来るわけがないだろう」


「こんな魔法が使えてもか?」


「こんな魔法を当たり前のように使ってくるのが魔族なんだよ。まあ、ここまでの規模は上級の奴らしかできないだろうがな」


「はあ? いや、それって……」


 俺たち勝てるのか?


 俺なんかこれまで必死に戦闘機作って、防衛のための準備を進めて来たのが馬鹿みたいに思えて来た。


 それじゃあ何か? モンスターはどうにか出来ても魔族が攻めてきた途端負け確定ってことか?


「そんな死にかけの蝉みたいな顔をしてるんじゃないよ。バカ弟子」


「どんな顔だよそれ。でも、こんな顔するのも仕方ないだろ。こんな魔法を使ってくる奴がどんだけいるかも分かんないんだぞ」


「はん、まあそうか。そりゃあアタシレベルが複数いたんじゃビビるよなぁ。でも考えてみろ、魔法使いってのは皆、物理攻撃に弱いヒョロっちいのしかいないんだぜ?」


「あんたそれ自分のこともけなしてるって分かってる?」


 あ、絶対分かってなかったわ。めっちゃ変な顔してるもん、今。


「ま、まあ、つまりそういうことだ。アタシたち魔法使いには物理攻撃が有効。でもそんじょそこらの剣なんかじゃどうにもならない。障壁を消し飛ばせる威力は必要だ」


「じゃあ戦闘機も無駄じゃなかったんだ。とりあえず良かったと言っておこうかな」


 でも、低い位置から機銃掃射するのはリスクが高そうだな。上級相手はちょっと戦闘スタイルを見直しておくか。


 そうこうしているうちに、青かった炎が、やがて白く変わり、ゆっくりと消えていく。


 これで山向こうのモンスターたちは全滅か。そう思ったのだが、炎と風が消えた後を見てみれば、そこにはまだかなり残っているモンスターたちの姿があった。


 消し飛ばしたのは手前の半分だけで、奥の奴らはピンピンしてやがる。


「お、おいおい! 今ので全滅するんじゃなかったの!?」


「んなわけないだろ。アタシは消すとは言ったが、全部とは言ってないよ」


「はあ!? 屁理屈だ屁理屈! 嘘つきババア!」


「誰がババアだこら!」


「残った奴らは次の魔法で消すんだよな?」


「いや、無理。今ので魔力使い切ったし。あとはあんたがやりな」


「なっ!?」


 こ、このクソババアが! アホ抜かしてんじゃねえぞ!?

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