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第6話 作った魔法の杖がバカ性能だった

 オババの手伝いとして薬の作成から、魔法の杖の作成まで忙しく過ごして、早や1ヶ月。


 魔法の杖はわりとすぐに完成した。

 樫の木と緑色の魔石で作った『森林の杖(しんりんのつえ)』だ。


「早かったねえ、適当に作ったんじゃないかい?」


「なわけないだろ。真剣にその辺の木の棒を削って緑の魔石を取り付けたさ」


「なんだい材料が手抜きか。アタシに使わせるならもっと高尚な樹木の枝で作って欲しいもんだ。魔法樹とかね」


「だったらその魔法樹の枝とやらを買って来て俺に渡せや。あの木の枝はあんたが渡してきた素材だろうが」


 俺が作った森林の杖をもてあそびながら勝手なことを言ってくるオババに、俺もいつも通り文句を返す。


 最近はずっと一緒に居るし、このやり取りをしょっちゅうお客さんに見られてるから、いつの間にか俺が薬屋の弟子扱いされてるらしい。たまに聞かれるたびにただのアルバイトだって言い返しているけど、誰も信じないんだよな。


 まあ、そんなことは今はいいか。それよりこの杖の性能が気になって仕方ないんだ。


 俺は杖を作ることはできるけど、作ったものの性能は使ってみなきゃわからないからな。鑑定の魔法なんて便利なもんは無いんだよ。


「オババ、ちょっとその杖で魔法使ってみてよ。どんなもんか見たい」


「いいけど、この杖は素材がクソな割に結構力がありそうだぞ。ここで魔法をぶっ放すのはちょっと危ないねぇ」


 いや、火とか風とかの攻撃魔法使わなきゃいいだけだろ。と突っ込もうと思ったけど時間の無駄だからやめた。


 オババは杖を持ったまま家の裏手に続く細い道を歩いて行く。その先にはオババが育てている小さな薬草畑が広がっている。俺もよく薬草を取りに行かされる場所だ。まさかあそこでぶっ放す気か?


「薬草燃やすの? それとも全部風で飛ばす?」


「そんなことするわけないだろアホガキ。いいから黙ってついて来な」


 ババアに可哀想な物を見る目で罵倒されつつ、さらに奥へと進んで行く。この先に道があるなんて知らなかった。だって薬草畑から見たら森にしか見えなかったし。


 何か知らないけどオババはこの先の道を隠してたらしい。ご丁寧に認識阻害の魔法を使って森にカムフラージュさせてたんだ。


 オババが森のある場所を杖でつつくと、あら不思議。薬草畑まで来た時と同じ様な細い道が現れる。


 そうしてそのままついていけば、ある所でパーッと視界が開けた。

 

 そこは草一本も生えていない広い場所で、中央には謎の石柱が佇んでいた。


「ここならどんな事をしても安全だ。広いし、アタシの結界もあるからね」


「結界なんてあんの? それ俺も使える?」


「アタシと同じぐらい魔力が上がったらね。蟻レベルじゃ無理」


 くっ! このババア、指さして笑いやがった!


「見とけよ、いつかテメェを抜かしてやるわ!」


「言ったね。100年後が楽しみだわな~」


 死ぬまで越せないってか!?


「もういい、さっさと性能テストやってくれ」


「まあそう拗ねるなって、アタシほどの魔法使いを上回るなんて普通は無理なんだ。でも、あんたにはアタシが修行をつけてやるからね、まじめにやってりゃ現時点のアタシぐらいなら120歳にもなれば追いつけるさ」


「拗ねてねぇし! ただ店に客が来るかもしれないから心配してるだけだし!」


「はいはい。それじゃあ軽く試してみようかね。まずは初級火炎魔法の『ファイア』から」


 オババが石柱に向けて杖を構える。そして何かをごにょごにょと小さくつぶやくと最後にファイアと言った途端、杖の先から赤い光が飛び出した。


 ゴウッ! そんな音が聞こえたと同時、石柱が激しい火柱ひばしらに様変わりする。


「すっげー! オババの魔力だったら初級でもこんなふうになるのかよ!」


「……こりゃ驚いたね。威力がアタシの想定より強すぎるよ。アンタどんな杖作ったんだい」


「そうなの? 別にさっき言った通りその辺の木の棒と緑の魔石しか使ってないけど。っていうか俺、普通の杖で魔法使ったの見てないから比べられないわ。俺が貰ったボロイ杖と比べたらどのくらい違うの?」


「軽く1.5倍ってところかね。本来ならアタシの魔力でも『ファイア』じゃゴブリン1匹丸焼けにするぐらいの威力しか出ないんだが、これじゃあオークも丸焼けだよ。あっという間にブタの丸焼きの完成だ」


「おおぅ……そりゃ」


 ゴブリンとかオークとか見たこともないモンスターで例えられてもいまいちピンとこないが、前世の異世界知識から考えてゴブリンとオークだと一回りか二回りぐらい強さに差がある気がする。大きさもオークはゴブリンの2倍はあるイメージだ。


 そのオークが丸焼きになるんなら、まあまあ強い杖が作れたってことで良いんだろうか。


「じゃあ次、他の魔法いってみよう。中級火炎魔法とか」


「バカ言うな。そんなもんぶっ放したら目の前の森が焼け野原になっちまうよ。初級と違って中級は規模が違うんだ」


「えー、じゃあ風の中級とかは?」


「それも駄目だ。木が根こそぎ持ってかれて嵐のあとみたいに丸ハゲになるよ。やるなら、せいぜい初級の風魔法を使うぐらいかね」


「もう、それでいいや」


「はぁ、あんたには厳しく魔法の使い方を教えてやる必要がありそうだね。じゃないといつかとんでもない事をしでかしちまいそうだよ。それじゃあ風の初級魔法『ウインド』を撃つよ」


 …………ウインド!


 その瞬間、ものすごい轟音と共に暴風が吹き荒れた。

 杖先から起こったその風は石柱を地面から引き抜いたと思うと押し倒したうえで、数メートルも引きずっていった。そして風は納まりきらない勢いのまま石柱の背後にあった森の木々をドミノの様に倒していく。


 杖からの風が消えた時、俺たちの目の前に広がっていたのは100メートルにもわたって開けた空間と、散乱した木々。それから木々の背後にあった衝撃で砕けた巨岩の姿だった。


「……ライカカ、お前これ木の魔石を使って作ったとか言ってたよな?」


「うん、ちゃんと緑っぽい魔石使ったよ」


「アホ! よく見ろ、こりゃあ風の魔石だ! 色も緑じゃねえ、青緑じゃねえか!?」


 ちなみにこの時、風の魔石を使っていたからか想定の3倍の威力が出てたらしい。結界、ぶち破ったんやね。


 

 

 とまあ、そんなことがあったからオババの魔力アップ修行がスパルタになってマジでキツい。


 修行は体づくりと称したランニングから始まり、古い魔法の杖を使った素振り、風の魔法で荒らした場所の片付けときて、最後に魔力を無理やり体に流されて魔力線を拡張する。


 1ヶ月間ほぼ休みなく毎日これをこなした上で、合間に薬作りの手伝いをさせるのは子供にやらせていい作業量じゃないよ。俺じゃなきゃ3日で逃げ出してたね絶対。


 オババによると魔力を魔法として使うためには体に張り巡らされている魔力線を、魔力が潤沢に流せる範囲まで拡張する必要があるらしくて、その拡張処理を耐える体力をつけるためにランニング、素振りは魔力線の拡張範囲を広くするのに腕の筋肉をつけるためらしい。


 荒らした森の片づけは、まあ仕方ない。あれは俺が悪かった。


 修行に関して、理屈は分かるし納得もできる。だけどこのクソキツイ修行を1ヶ月も耐えたのに、蟻からカナブンどころか蟻からてんとう虫ぐらいにしかなってないってのはどう言うことだ!?


 オババにこの事を訴えたら「ライカカ、お前才能ないねぇ」と半笑いで言われた。あのクソババアッ!


 だが、俺のてんとう虫程度の魔力量ではまだディスプレイ型設計図を使用できない。

 手から火を出せなかったとしても、せめてこれだけは使えるようにならないと俺も修行を辞められないんだよ。だってディスプレイ型設計図を使えないまま辞めたんじゃ何のためにこの1ヶ月苦行を耐えたのかわからないじゃないか!


「あと1ヶ月で絶対ディスプレイ型設計図を使えるようになってやる」


 そして、いつも仕事を押し付けてきて自分はダラダラしてやがるオババに全部押し付け返してとんずらしてやるんだ!


 新たな決意を胸に、俺は自室のベッドの上で拳を握る。窓から射す光はすでに日が高い事を示していて、その光量から昼が近いことが伺えた。


「……ふっ、こんな決意をしておいて」


 寝坊したぜ。


 日差しが眩しーっ!

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