第59話 開戦と絨毯
ついにこの日がやって来た。
魔族の国にいるスパイから「敵が動き出した」と連絡が入ったのだ。
時期的には予定したよりも少しだけ早く、こちらとしてはまだ準備したいことが多少残っていた状況だったが、早まることを想定していなかったわけでもない。
F-16も予定の3機完成しパイロット選出も済んでいる。
戦闘用の武器、防具がまだ万全とは言い難いものの、敵の動きを軍が抑えてくれていれば裏で作れるので、順次装備をアップデートしていくように動けばいい。
あとは飛行訓練だけど、こっちももう大体終わっている。
F-16を造っていた頃に飛行訓練を短縮する方法を考える必要があると言っていたが、10日後、俺は見事その解決策を思いついた。
戦闘機、というか飛行機はどきおり雲を引いて飛ぶことがある。飛行機雲ってやつだ。
あの飛行機雲は飛行機の後ろに線状の雲ができていくという、環境条件が整った場合の現象なわけだが、例えば自衛隊の式典などで曲芸飛行を行う戦闘機部隊なんかはスモークを発生させて飛行機雲のような煙で空に絵を描いたりしている。
俺はこの空に絵を描くという行為に対して注目した。
絵を描く=作品を作ること。つまり、アニメを作るときに設計図で絵を描いたのと同じ発想が使えるはずだと思ったのだ。
俺はさっそく既に完成していたF-14にスモーク発生装置を積み込んで、一番早くマニュアルを完成させた兵士に動かしてもらうことにした。
その時の流れは大体こんな感じだ。
「ちょ、ちょっと不安ですね。知識は得ましたが、本当にこれが飛ぶのでしょうか?」
「飛びます。間違いなく飛びます。少なくとも飛び立つことは出来るはずです」
「と、飛ぶだけは……ですか。ち、着陸は……?」
視線を逸らす。だって俺にも分かんねえもん。マニュアル読んでないし。
でも、俺の考えが正しければ問題ないはずなのだ。なにせ設計図の力を使って失敗したことは一度も無いんだから。いや、俺がよく調べなかったから作った物が思っていた物と違っていたということはあったけど、少なくとも設計図が狂ったことはない。
「さあ行きましょう大空へ! 大丈夫です。俺と俺の設計図は貴方の味方ですから!」
「なにも大丈夫じゃないですよね!? どうすれば物を作るスキルがこの状況に繋がるんです!?」
とか何とか言い合いつつも、結局兵士の人は乗った。そして大空に飛び立った。
最初に思った通り、飛び上がるまでは順調だ。けれど、やっぱり飛んでから異常が出てくる。操縦者が計器を信じ切れず、自分の思ったままに飛び始めてしまったからだ。
おかげで彼は背面飛行の状態で操縦を誤り、機首が下を向いたまま上昇しようとして急降下、危うく地面に突っ込みそうになった。
そこで俺の出番だ。設計図を使って空に煙の芸術を作るという風に仕向ければ、たちまち機体が安定した。おそらく操縦している兵士は頭がスッキリして、空にハートマークを描くべく操縦桿を握っていることだろう。
そうして姿勢を立て直したF-14はスモークを出し始め、ハートマークを描くべく上昇を始めた。うん、完璧なハートだ!
無線で降りて来てもらうように指示し、F-14が旋回して着陸態勢に入る。しかし、高度を下げてくるF-14の機体がどうにも揺れているように見えた。
このままじゃちょっと不安だ。
ということで、俺は再び設計図の能力を発動。この初飛行を一種の芸術作品としてとらえて、着陸までしっかり終えられるように導く。
その結果、F-14は無事に滑走路に着陸。何事もなく初飛行を終えることができた。
とまあ、この後は一度の成功体験があればなんとかなるもので、F-16が完成するまでに他のパイロット候補生にもF-14の操縦訓練をしてもらうことができた。
ついでとばかりに成績を競わせたのも、また上達には良かったのかもしれない。
誰が一番きれいなハートマークを空に書けるかというくだらない競争内容だったが、これが意外とハマったようで、パイロットたちの操縦技術は素人目に見ても付け焼き刃にしては随分向上したと思う。
残りは完成したF-16に乗ることになった人員に、F-14との操縦の違和感をなくしてもらうのと、搭載された武器の使用感を確認してもらうだけだ。
F-16に乗るメンバーは今のところ成績上位6名で。正パイロット3名、予備パイロット3名となっている。
そして残ったF-14にもそれぞれその後に続く成績の良かった10名を正・予備で分けて配置し、残りの4人にはさらにそのパイロットたちの予備として管制塔での指示とレーダー係を担当してもらう。
戦争は始まった。
モンスターと魔族の集団が辺境伯領に入って来るのは予定ではもう間もなくだ。おそらく数日も掛からないうちに来るだろう。
戦闘機部隊は辺境伯様に魔族への攻撃とかく乱を命じられている。
直接攻撃は対地上戦も得意なF-16が担当し、F-14は敵をかき乱す役ということだ。
「さて、敵の規模感はどんなものなのか。場合によってはあれを実行しなくてはならないかも知れないし、しっかり情報は聞いて漏らさないようにしておかないとな」
◆◇◆
男爵領がモンスターの群れの中に沈んだらしい。
最初これを聞いた時は言っていることの意味が分からなかった。だけど、聞いた内容は単なる比喩などという柔いものではなく、ガチだったのだ。
本当に男爵領は山の上から見て地面が見えない程にモンスターに埋め尽くされていた。
偵察班がビデオで撮って来た映像で見たので間違いない。
「まさか、あんな数のモンスターを用意していたなんて……」
「どうやらあちらこちらに隠していたようだね。敵もサルよりは知恵が回るってことさ」
「どう考えてもそれ以上だろ。どうすんのあれ、物量で押しつぶされるよ?」
「まあ、そこは問題ないよ。奴らはただの有象無象だ。アタシが出れば大方削れる。この新しい両腕もあるしねぇ」
そう言ってオババは失ったはずの両腕を見せる。というか、俺が魔導人形の技術から作った特注の義手なんだけどね。おまけに杖としての機能も持たせたし、高級な純度の高い魔石も入れ込んだから、かなり杖としても強くなっている。
でもだからと言って、あの大地を埋め尽くさんばかりのモンスターたちを相手にどうにか出来るとはとても思えない。
戦いは数だとどこかの偉い人が言っていたけど、俺もそれには同意する。
数の前には、どんなに強くても人間の範疇を出ないならなすすべなく飲まれるだけ。濁流の前には巨石も転がる事しか出来ないのだ。
「オババ、無茶すんなよ。腕を繋いだときに感覚まで戻せって言うから、神経繋いだせいでまだ痛みが残ってるだろ? かなりの激痛のはずだぞ」
「はん。そんな程度でこのアタシが戦いをやめるとでも? 痛むならその分を怒りに変えてぶっ放してやるだけだよ!」
「はぁ……」
「なに、そう心配するなカイララ。お前はまだアタシの真の実力を見た事がなかっただろう? いまがその見せ時さね。ちょうどいい、あんたも一緒に来な」
そう言って自信満々に笑みを浮かべるオババ。正直俺はどれだけいるかも分からないモンスターの前になんて姿を現したくはない。けど、もう俺が知らないところでオババが死んだなんて聞くのはごめんだ。
うちの家族はガッケノと安全な城の中にいる。今回は父さんも兄ちゃんも万が一の村の防衛に専念するために、ギリギリまで出てこないからそっちの心配はしなくていい。
「わかった。俺もついていくよ」
「そうこなくちゃな! モンスターどもは山越えして来る。あの映像からして、もう先頭はこっち側に出て来てるかもしれないね。でもまだ数は多くないはずだ。だから、アタシたちは向こう側で詰まってるゴミを消しに行くよ」
「オッケー。でも、どうやって行くつもりなんだよ。車じゃ時間がかかり過ぎるし、戦闘機は3人乗りは無理だぞ。俺もオババも操縦できないし、乗るならパイロットが要る」
「戦闘機なんて使わないよ。とっておきがある。こいつだ」
オババが見せて来たのは何かの筒? いや、広げたらわかった。絨毯だ。
うん? 絨毯? ……まさか!
「カイララ。あんた達が準備を進めてる間、このアタシが何もせず待っていると思ったのかい? こいつは空飛ぶ絨毯。アタシの超自信作だよ」
空飛ぶ絨毯だ!




