第58話 ドラゴンと設計図の罠
失敗した。
俺は今、工場の中でF-14戦闘機を前に頭を抱えている。
というのも、このF-14戦闘機、実は地上戦用の戦闘機ではなく、空母の護衛用として作られた物だったらしいのだ。
事前に図鑑などを設計図で作って調べておけばよかったのだが、F-14を5機も作ってしまった後に操縦マニュアルを見て違和感に気付き、ようやく判明した時にはもう遅かった。
戦闘機に対する知識の無さと、時間が無いという焦りから、どれでも一緒だろうと以前に見ていたこのF-14を安易に選んでしまったのが失敗の原因だったのだ。
「どうする。敵は明らかに地上を移動して来るよな。地上戦闘向きではないこの戦闘機でもある程度は何とかなるだろうが、実際どうなるかやってみるまで分からないんじゃ戦争にはとても使えないぞ」
かといって訓練で人を的にするなんてことはできないし。都合よくモンスターの集団もいやしない。
そもそも、戦闘機を使用するならば戦闘機自体を作る以外にも滑走路やら管制やら他にも造らないといけないものが多々ある。
しかも、戦闘機を操縦する人間の教育の時間も必要だし、今から別の戦闘機を作れたとしても3機ぐらいが限度だ。
ああ、時間足りない。
レーダー装置を造るために伯爵領の鉱山から材料を調達しないといけないし、それでも足りない部分は魔法文字でカバーしたりと、やることが多すぎる。
「せめて材料を運ぶ時間を短縮出来ればなぁ。かと言って戦闘機で物資回収するなんて馬鹿げてるし、線路は伯爵領の方を造る段階までは来ているけど、鉱山に向かうルートは後回しになってるから結局車で行くのと大差ないんだよね」
車で行って帰って来ると採掘の時間もあわせて7日はかかるだろう。それは必要な時間ではあるが、現状でそこまで使える時間的猶予は無い。
せめて工程を4日に短縮出来ればいいんだけど。
そう悩んでいると、隣にいたマリーちゃんから声がかかった。
「カイララ、だったら良い案がある。ドラゴンのリクセンが帰って来たと聞いた、リクセンなら空を飛べるよ。力もあるから荷物を沢山運べるはず」
「なんだって? あいつ帰ってたのか。俺に挨拶に来ないから気が付かなかった」
「たぶん襲撃の時に故郷に帰って村にいなかったから、怒られると思って来なかったんじゃないかな」
「なるほど、あいつならあり得そうだな」
しかし、確かにリクセンならドラゴンだし鉱物をたくさん積んだコンテナでも運べそうだ。あいつらドラゴンは翼よりも魔法で飛んでいると言った方がいい生物だ。だから、もしかしたらコンテナの方にも魔法をかけて重量を軽減するなりなんなりできるかもしれない。
ひとまず、リクセンの所に行ってみるとするか。
リクセンのいる場所は相変わらずテーマパークの横に造られたあいつの家だろう。一時期は禿山のほうの温泉経営のためにそっちに行っていたが、村が襲撃されたことと魔族との戦争の件もあるので、今はこちらに留まっているらしい。
観光客もおらずアトラクションも何一つ動いていないテーマパーク。そこは今、物資置き場として使われている。元々このテーマパークで働いていた人たちが、物資の数を数えて周っているのが見えた。
俺たちは彼らの横を通って、リクセンの家に続く道の方に足を動かした。やがて森の木々によって遮られていた人の住む家なんかよりも何倍も大きい、まるで飛行機が入っている倉庫のような大きさのリクセンの家が見えてくる。
巨大な正面扉は開いている。おそらく中にいるのだろう。
そのまま遠慮することなく、ずかずかと中に入っていけば、どうやら俺が来ることを察知していたらしいリクセンが奥で縮こまっていた。仮にも最強生物なのに、俺みたいな11歳の人間のガキに怯えてどうすんだよ。
「久しぶりだな。リクセン」
「あ、ああ、カイララか。久しいな。わ、我が間に合わなかったことを攻めに来たのか?」
「何でそんなことするんだよ。別に里帰り行ってたやつが大事な場面で間に合わなかったって怒らないって。そもそも、俺たちはむしろ温泉経営を頼んでいる立場だからな。全員無事だったし、気にすんなよ」
そう言ったのに、まだどこか怯えているリクセン。前に会った時はこんな感じじゃなかったと思ったんだけどな。
「そ、そうか? 我に雷魔法撃ち込んだりしない?」
「しないしない」
「ふぅ……なら安心だ」
なるほど、リクセンの弱点は雷魔法だったのか。
「うっ!? い、いま何か悪寒が」
その後、俺たちはリクセンにこれまでの経緯と、伯爵領から開拓村までの鉱石の輸送をしてもらえないかと頼む。
すると、リクセンはその頼みに快く了承してくれた。
しかも、なんとこっちに遊びに来ているドラゴンがもう2体もいるらしく、そのドラゴンたちにも仕事を頼んでみるとのこと。これには俺もニッコリ笑顔になる。
「来ているのは我の幼馴染のリカちゃんと、友達のタカシという。で、出来ればリカちゃんには荷物を少なめにしてもらえると嬉しいのだが……」
「そりゃもちろん。というか、そいつらに断りもなくお前が仕事をやるって決めて良かったのか?」
「だ、大丈夫のはずだ。あとで色々作って欲しいとか言われるかもしれないが」
「規模にもよるけど、それなら戦争が終わった後ならやるよ。そうそいつらに伝えてそれで構わなければ、ここに連れて戻って来てくれ。その間に俺達は荷物運び用のコンテナを用意しておく」
「わ、わかった。では10分ほどで戻って来る」
飛び去って行くリクセン。10分だとかなり時間が短いが、コンテナ3つと太めの鋼鉄ワイヤーくらいなら何とかなるだろう。
◆◇◆
「カイララ、ここで大丈夫なの? もう少し運んであげても良いのよ?」
「いや、ここで大丈夫だよ。ありがとう、リカちゃん」
ドラゴンたちの力を借りて、伯爵領の鉱山で必要材料を採掘して来る行程は終わった。
その期間、まさかの1日。
当初はリクセンの力を借りられたら4日で戻ってこられるかと考えていたのだが、そんな中、リクセンが呼んで来た2体のドラゴンの内一体が、なんと土属性のドラゴンだったのだ。
名前はフレデリカちゃん。リクセンはリカちゃんと読んでいたこのドラゴンがなんと土属性のグラウンドドラゴンで、希少な鉱石の在処を探知したり、採掘を手伝ってくれたりで、マリーちゃんと合わせてあっという間に鉱石採掘の行程を終わらせてくれた。
おかげでたった1日で必要な物資が集まって、残りの15日ほどはF-16戦闘機製造に時間を使えるようになった。
「ねえ、カイララ。他に私にできることはあるかしら? 私、貴方のためなら何でもやってあげるわよ?」
「え、ああ、まあ、そうだな。出来れば禿山の方でコンクリートの材料を集めてもらえると助かるけど」
「わかったわ! じゃあマリーも連れて行って良いかしら? マリーがいると効作業効率がぐっと上がるのよね」
「マリーちゃんが良いなら構わないよ」
「やった! マリー、一緒に禿山で穴掘りしましょ!」
「うん!」
なんだろう。何でまだ会って1日しか経ってないのに何でもやってくれるという程に懐かれたんだろうか。俺は何もしてないと思うんだけど。
それにマリーちゃんもいつの間にか仲良くなってるし。同性だからか、それとも属性が同じ穴掘り仲間だからなのか。
どっちも分からないけど、一つだけ言いたいことがある。
「リクセン、お前俺を睨むんじゃねえよ」
「だ、だってカイララが我の幼馴染をたぶらかすから」
「たぶらかしてないだろ。俺は何もしてないんだから。むしろこっちが困惑してるわ。なんであの子あんなに俺のこと慕ってるんだ?」
「しらんもん」
「なんだそりゃ。子供かよ」
そんなやり取りをリクセンとしていると、脇にいたもう一体のドラゴンが俺たちに話しかけて来た。
「ふっ、僕にはわかる。あれはきっと、一目惚れってやつだね」
「うわ!? た、タカシ、いたのか!?」
「ビックリした~。タカシ君、気配消さないでくれよ」
「消しとらんわ!? お前たち、僕が空の属性で存在感が薄いからって、酷いぞ!?」
「いや、すまない我は本気だった」
「悪い、俺もガチだわ」
「が、ガチかぁ……」
そんな風にガチで落ち込むタカシ君を余所に、俺は戦闘機開発と滑走路建設の予定を組んでいく。
戦闘機製造用の工場は既にあるし、F-14製造時の知識もあるからかなり時間は短縮できる。
滑走路の方も誘導灯を設置して、滑走路自体はコンクリートで作れば済むので、そこまで時間は掛からないだろう。
F-16戦闘機が完成したら、順次パイロットを決めていきたい。
兵士たちにパイロット適性検査を受けてもらい、その中から予備も含めて20名ほど選出し、選ばれた者たちには設計図の超高速製造でマニュアルを作成させる。
実技訓練に関しては今のところどうやって効率化しようか考えついていないが、まあ、その時になったら何とかなると信じよう。
頼んだぞ、10日後ぐらいの俺。




