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第55話 魔族の事情

 目が覚めたら目の前に死んだオババが立っていた。


 何を言っているのか、何が起きているのか分からないが、頬をつねったら痛かったのでこれが夢じゃないことだけは分かっている。


 ということは、このオババは俺が不甲斐ないばかりに恨みで現世に留まったオババの幽霊?


「オババ、俺への恨みで化けて出たのか! それとも生前の行いのせいで天国を出禁にされたのか?」


「何言ってんだ。アタシの普段行いに悪いところなんて一つも無いだろ。それに誰が幽霊だって? アタシはまだ生きてるよ!」


「はあ? 生きてる? で、でも敵の闇魔法でダンジョンごと消えたんじゃ……?」


「だったらアタシに直接触ってみればいいだろ。それで一発だ」


 俺はまだ夢なんじゃないかと疑いながらも、ベッドから立ち上がってオババに近寄る。近くで見てもとても幽霊には見えない。半透明でもないし、足もちゃんとある。


「……」


「どうした、早く触らんか。腕か、顔か、それともおっぱ〇が良いか? どこでも好きなところに触れ。エロガキ」


 その意地の悪そうな整った顔。尖った耳の片方に長い金髪をかけて見てくるその仕草は、オババそのものだ。


「おっと」


 俺は思いっきりオババに抱き着いた。背が低くて腹に手を回している感じになっているし、頭が胸にあたってるけどそんなのはどうでもいい。


「良かった……オババ生きてた」


「なんだい。調子狂うねぇ」


「だって、死んだと思ったから……」


「死んでないよ。まあ、死んでないだけで無事ではないけどな」


「えっ? 無事じゃないってどういう?」


 どういうことかとオババに聞こうとして、抱きついたまま顔を上げたらおっぱ〇があって邪魔だった。


 俺は渋々オババから離れると、オババの顔をしっかり見て話す体制に移る。が、オババの顔をしっかり見た途端、その表情が心底呆れているのに気が付いた。


「カイララ、あんた本当にアタシのことを心配してたんだねぇ。でもそれにしたって、目の前のアタシの姿がおかしいことに気付かなかったり、ダンペルのことを聞いてこないのはヤバいよ」


「おかしい? ダンペル、あっ、父さん! そうだ、父さんは無事なの!?」


「無事だよ。アタシと一緒にダンジョンに行った連中は全員ね。それどころか余計な連中も無事さ。それと、アタシのおかしいところも流石に気づいただろうね?」


 そう言って、わざとらしく体を揺すって服の袖を揺らすオババ。それを見て、俺はようやく気が付いた。


「お、オババの両腕が無い!? どうしたの!? 何があったの!?」


「まあ、ちょっと無茶しちまったのさ。闇魔法に対処するにはこうするしかなかったんだ」


「そ、そうだ。どうやってダンジョンを消すような闇魔法の中で生き残ったんだよ。聞いた話ではどう考えても脱出不可能だと思ったけど」


「そりゃあ、闇とくればそれを対処するのは光に決まってるだろ。アタシは光魔法で光のエリアを作って闇の浸食を防いだんだよ」


 光魔法だって? 確かオババの適性魔法は火炎と風のはず。他の魔法は使えたとしてもそこまでの力を出せないのに、どうやってあの規模の闇魔法を……?


「あっ! だから腕」


「そうだ。アタシは足りない光魔法の出力を上げるため、両腕を魔力に変換した」


 なんてことだ。肉体の一部を完全に魔力に変換して光魔法を使えるレベルに出力上昇させたのか。そんなこと普通の人間にはとてもできない。理論上できると解っていても、馬鹿みたいな単純な思考でないと無理だ。


「オババは単純馬鹿?」


「こらクソガキ! いきなりアタシの悪口言ってるんじゃねえぞ!?」


「だって、いくらピンチだからって咄嗟に腕を魔力に変換するなんて、馬鹿じゃないとできないって!」


「馬鹿はお前だアホ弟子が! アタシは天才なんだよ! 馬鹿じゃなくて天才! わかったか!?」


 ああ、なるほどね。馬鹿と天才は紙一重って言うもんな。


 でもおれ、やっぱりオババは単純馬鹿だと思うわ。そっちの方がしっくりくるもん。普段の感じからして。


「でも、そうか。オババが腕を犠牲にして皆を守ってくれたんだな。ありがとう」


「ああ。まあ、アタシのためだからな。アタシはこの村が気に入ってるんだ。そのためにやるだけやっただけさ。エルフの森には帰りたくないからね」


「エルフの森、そんなに嫌なの?」


「退屈なんだよあそこは。アタシみたいなハーフにはのんびりしすぎなのさ」




 ◆◇◆




 俺たちはその後、父さんも含めた5人で朝ごはんを食べて、全員で城へ向かった。


 ちなみにオババには俺が食べさせて、父さんには母さんが食べさせてた。


 父さんはそんなに怪我してなかったみたいだけど、母さんは言い聞かせるようにして、無理やり食べさせてた。気持ちはわかるよ。死んだと思ってた父さんが帰って来たんだからね。


 城の会議室にはガッケノを始め、ダンジョンに向かっていた人たちが揃っていた。騎士長、小隊長のおっちゃん、小隊副長、軍医のおっちゃん、そして敵だった獣人たち。それから何故か残獣人のダンゴもいた。


「なんでお前がいるんだよ。ダンゴ」


「決まってるにゃ。私も一緒にダンジョンに行ってたからだにゃ! この村のために!」


「嘘ついてんじゃないよ。あんたはアタシたちがどこに行くか気になったからついて来たと言ってただろ。ただ面白そうだから来てたんじゃないのかい?」


「なんのことにゃ? 私わからないにゃ」


 まあ、ダンゴがどんなやつかはわかりきってる。どうせオババの言った通りだろ。


 敵だった獣人たちは大人しいもので、全く意気消沈したといった様子だ。その獣人たちを囲うように兵士が立っているが、あの様子だと監視の必要もなさそうに見える。


 俺は母さんと父さんを椅子に座らせて、兄ちゃんと一緒に二人の脇に立つ。


 そして椅子に座るべき人たちが全員着席したところで、ガッケノが話しを始めた。


「さて、早速だが改めてあの時何があったのか聞かせてもらおう。騎士長、報告を頼む」


「はい。我々はダンジョンに向かい、地下一階を踏破、その後地下二階へと進むと、そこには街がありました。その街は王都のように発展していて、そして王都とは真逆。魔法の気配が一切ない。まるでカイララのスキルで作られた街かのようでした」


「それはつまり、カイララの前の『設計図』スキルの持ち主が造ったということか。それで、そこには何があったのだ?」


 設計図スキル、俺以外にも持っていた奴が居たのか。まさか俺と同じ転生者? だとしたらもし武器があったとすると銃か爆弾か……


「街の中央に巨大な赤い鉄塔があり、その下に更に地下に降りる階段がありました。その地下空間にはカイララが作ったものと似たような銃と、おそらく同種の武器と思われるもの。武器、兵器、車に巨大な銃を取り付けたような乗り物などが、戦争ができそうなほどに並んでいました」


 やっぱりか。それにしても、銃や爆弾だけじゃなく、戦車もあったらしい。この分だと戦闘機もあったんだろう。


 騎士長の報告を聞き、今度は捕まっている獣人たちの方に質問するガッケノ。


「それで、君たちはその武器を使って人間と戦争しようとした……訳ではないんだよね?」


「えっ? な、なぜ」


「君たちの目的は、あのダンジョンごと中にある物を消し去る事だった。そう、闇魔法を使う魔族から聞いた」

 

「あ、ああ……そうか、そうだったのか。俺たちは、捨て駒にされたのか」


 獣人たちは消沈していた姿から、さらに肩を落として膝をつく。


 仲間に見捨てられたどころか殺されそうになってんだ。そりゃそうなるわ。

 

「なあ、何でお前らは人間と戦おうとしてるんだ? 俺は分からないんだ。お前らは自分の国がある。土地がある。人間と生活圏も住み分けされている。それなのに何で人間を攻撃しようとなんてしているんだ?」


 俺は前から疑問だった。魔族が人間と敵対しているというのは、分からなくはない。だけど、調べた限りではしっかり住み分けが出来ているし、互いに無理に戦争を起こそうなんてしたことはなかった。


 おかしいんだ。こうして魔族が人間側に関わって来ようとしているのが。その動きが。


「俺たちは……俺たちの国は……滅びかけている」


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