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第53話 真なる魔族の力

 ドローンが村の近くで爆撃を開始した。


 オババはアナウンスの『殲滅作戦』が何に対してのものなのか、あの飛んでいたドローンとかいう兵器がどうやって敵を倒そうとしているのか分からなかったが、それでもこの場にある武器や兵器を考えれば敵性目標と呼ばれたものがどうなるかは想像がついた。


 ドローンが村の方に飛んで行ったのは地図を見ていれば明らか。村が攻撃されているとすれば、魔導人形の事も考えると、とても耐えられるものじゃない。


「急いで村に戻りたいところだが……」


「そうも言ってられないね。天井に大穴が開いたせいで奴ら元気になりやがった」


 ドローンが出て行く際に開いた外まで続く天井の穴。その穴から新鮮な空気が流れ込み、地下武器庫の嫌な臭いを消し去っていく。


 そのせいで敵の獣人たちは臭いに苦しむことがなくなり、先ほどまでとはうって変わって獰猛な笑みを見せていた。


「ダンゴ、あんたもその鼻栓を取りな。せっかくここまで来たんだ、あんたが敵側に付かないってんなら戦力として当てにさせてもらうからね」


「え~、私はただ面白そうかなと思ってついて来ただけにゃのに」


「ぐちぐち文句言ってんじゃないよ。おやつ抜きにされたくなきゃ仕事しな!」


「ひ、酷いにゃ! オババは鬼にゃ! 悪魔にゃ!」


「なんとでも言いな! 魔力が高まってる。来るよ!」


 ボタンを持っていた男の獣人、おそらく犬の獣人であろうそいつが腕に紫色で半透明の魔力の爪を出して、ひと蹴りで一気にこちらに飛び込んで来る。


 その脚力は明らかに魔力を使用した肉体の強化によるもの。獣人が得意とする魔法のうちの一つだ。


 だがこちらも、飛び込んで来た獣人に対して騎士長が動く。

 頑丈な鎧と盾を持った騎士長は、敵が攻撃してくる位置を予測して盾を構えた。


 魔力の爪が騎士長の盾に阻まれ、火花を散らす。魔力で出来ているはずなのに、まるで金属同士が打ち合ったかのようだ。


「ほう、今のに反応するのか。じゃあこれはどうかな!」


 そう言って今度は足での連続攻撃を仕掛けてくる犬の男。一撃が重く力強い。騎士長は盾で全ての攻撃を防ごうとするが、次々と襲ってくる衝撃に踏ん張っている足がズルズルと後ろに下がっていく。


 いくら強いと言っても所詮はただの人間。元々筋力が人の1.5倍はある獣人が、魔力で強化した肉体から繰り出される攻撃を受けきれるわけがない。


 そう笑っている犬の男に対して、今度は横から槍が突き出される。


「おい、こっちは仲間がいるって忘れてんじゃねえぞ!」


 小隊長が良い気になっている犬獣人に対して攻撃したのだ。


「おっと。だけど残念、お前ら人間程度の攻撃なんぞ遅すぎて簡単に避けれるんだよ」


「チッ! ちょこまかと動きやがって」


 敵は完全にこちらをなめていた。騎士長は防戦一方で小隊長と小隊副長まで攻撃に加わっても、一撃も与えられていない。


 こちらがいくら優秀でも、種族による力の差はどうしようもない。むしろこのメンバーだからこそ敵の攻撃を何とかしのげていると言った方が良いだろう。


「このままじゃあの男一人にやられるね。ダンゴ、あんたが戦えば勝てそうかい?」


「無理にゃ。私はあんな動きできないにゃ。たぶんあの人は獣人の中でも特に優秀な魔族に違いないにゃ」


「あんたはポンコツだからね。えらい違いだよ」


「にゃ!? 私はポンコツじゃないにゃ!?」


 オババは考える。ここで自分が魔法で支援できれば良かったが、こう接近戦が続くとその隙がない。本来はこういう時に使えるはずの風魔法も、なぜか自分が使うと大雑把な威力の強いものになってしまう。


「魔法が使えないか……なら」


 手に取ってからずっと持っていたこのハンドガン。使い方もカイララが銃を作った時に一緒に見ていたので知っているし、これなら敵の不意を衝いてダメージを与えられるだろう。


 だが、一つだけ問題がある。もしこれを使ってしまえば、敵に銃の使い方が知られてしまうかもしれないということだ。


「……まあ、背に腹は代えられないか」


 相手は魔族、それも自分たちを脅かしている悪い魔族だ。ならば、手心を加えてやる必要は無い。


 後は覚悟を持つだけだ。


「悪いけど、あんた達には殺す気で向かわせてもらうよ」


 オババは目の前の敵に銃を向け、狙いを定めた。


 

 

 バン。




 ◆◇◆




 一方その頃、ドローンの爆撃によって村は常に衝撃と爆発音に苛まれていた。


「なんなんだこの爆発は。村には被害は無いが、こうひっきりなしでは適わないぞ!」


「城主様、もしやドラゴンが救援に来たということはないでしょうか?」


「あの巨体だ。それなら私たちが姿を見ていないわけがない。この爆発を起こしているのは別の何かだろう」


 ガッケノの脳裏に過るのはカイララの顔。カイララなら万が一に備えて敵を爆破する罠を作っていたとしてもおかしくはない。


「いや、それはないか。カイララなら私に報告するはずだからな」


 だとしたら一体何者がこの爆発を起こしているのだろうか。


 何にしろ、もう30分以上もずっと休むことなく爆発が起きていて、ガッケノは耳がおかしくなりそうだった。


 爆撃が始まる前、何者かによる呼びかけがあったおかげで死傷者は全く出ていないのは幸いだったが、この状態がこの先も続くようなら精神的にやられてしまう。

 

「爆発の煙で敵がどうなっているかも不明だし、爆発音に混ざって聞こえるこの虫の羽音のようなものも気になる。一体何がどうなっているのだ」


「とにかく今は重傷者をなるべく音が聞こえない場所に移動させて安静にさせましょう。このままでは治るものも治りません」


「そうだな。マルス、すまないが奥様方に怪我人を城へ移すように話をしてきてもらえるか?」


「承知しました」


 ガッケノは去っていくカイララの兄、マルスを見送ってこの先どうなるのかと一人思考する。


 しかし、爆発音と虫の羽音の騒音によって考えが纏まることはなかった。





 爆発が始まってから一時間程がたった頃、爆発は急に止まった。


 あれだけうるさかった騒音が一気に静寂に変わり、安心感もあるが違和感もそれなりに感じる。


 そんな中、様子を見るために城の天守閣に登ったガッケノは、村の周囲の変わり果てた光景に愕然とした。


「森が無い」


 そこにあったのは燃え盛る倒木、そして立ち尽くしたまま蝋燭のように頭を燃やしている魔導人形たちの姿。


 あれだけ手強かった魔導人形が全滅している。体は真っ黒になっており、炭化しているかのようだ。


「助かった……と言って良いのだろうか」


 焼けた森はかなりの広範囲にわたっている。村の狩人たちは仕事がかなり減ってしまうだろう。こんなに焼けてしまって、森が戻るのがいつになるかもわからない。


 これからどうしたものか。


 そうガッケノが考えていた時のことだった。


 『ほう、これがあのダンジョンの宝の力か』


 突如聞こえて来た不気味な男のしゃがれ声。ガッケノは咄嗟に近くにこの声の主がいるかどうかを探す。


 しかし、この聞いた事もない様な不気味な声の主の姿はどこにもない。


 それどころか、下に見える村人たちも全員、誰かを探しているようなそぶりをしているのが見える。


「誰だ! どこにいる!」


『俺は魔族、名前はどうでもいいだろう』


「魔族だと!?」


『そうだ。しかし、獣人族どもはやはり失敗したな。前に送り込んだ女といい、使えないやつらだ』


 前に送り込んだ女とはダンゴのことだろう。だとすればオババたちが向かったダンジョンには獣人族がいたということになる。


 ガッケノはこの件に魔族が絡んでいたという事実を知り、そしてなぜこの声の主が自分たちにわざわざ話しかけてくるのかという疑問を持った。


「私たちを殺して村を破壊するつもりか?」


『なぜ俺がそんな面倒な事をする必要がある。そんなのは闇の主たるこの俺のする仕事ではない。今回は使えない獣人族どもがまた失敗するのではないかと思って来てみただけだ。貴様ら人間に話しかけているのはただの気まぐれにすぎない』


「お前の口ぶりからして、お仲間は失敗したのだろう? だったらお仲間を連れてさっさと帰ったらどうだ」


『ふっ、強気だな。ガキのくせになかなか威勢がいい。そういうやつは嫌いじゃない。お前の言う通り獣人族どもは任務に失敗した。だが、俺は奴らを連れ帰るつもりはない』


「なに?」


『お前たちは俺たち魔族がダンジョンを探しているのには気づいていただろうが、何のために探していたかは分かっていなかったらしいな』


「ダンジョンの宝が、武器が欲しかったんじゃないのか?」


『違う。俺たちはダンジョンの宝が人間に使われないように、ダンジョンを消すために探していたのさ。しかし、お前たちが懸命にダンジョンを探してくれたおかげで位置が特定しやすくなって助かった。お礼と言っては何だが、君たちに素晴らしいショーをご覧に入れよう』


「ま、待て! 何をする気だ!」


『さっきも言っただろう? ダンジョンを消すのさ。私の素晴らしい ―― 究極の闇魔法でね』


 ……ダーク・エリア。


 その瞬間、突如として空気が揺れ、空間が引き裂かれたかのように、巨大な黒い半球が森に出現した。


 それは、ダンジョンを中心に地下空間まですっぽりと入る程に大きく、そして球の内部に存在するすべてを闇に飲み込んだ。


 闇の球が消え去った後。そこには何も無かった。


 ただ巨大な穴が開いているのみとなっていた。

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