第52話 ドローン爆撃
ダンジョンの中に現れた街、その中心部に聳える赤い鉄塔の下には、地球の武器や兵器がずらりと並んでいた。
ハンドガンにショットガン、戦車に戦闘機、戦闘ヘリ、ミサイル、それからドローンまで。ありとあらゆる武器が誰に使われることもなく綺麗な状態で置かれていたのだ。
オババは以前カイララに武器は作らないのかと聞いた事がある。
その時はちょうど魔族の話が出始めたころで、魔法以外の攻撃手段を持たない貧弱な弟子を心配していた。
その時カイララは、実は武器を作ろうと思えば作れるが、作らないことを決めたのだと話してくれた。
元々、自分がこのスキルに可能性を見たのは強大な力を持つ武器を作ることができるという所にあった。しかし、この比較的平和な辺境伯領でそのような兵器を製造してしまえば、いつかは貴族と敵対してしまうかもしれない。
悪政を強いている訳でもないし、生活が困窮しているわけでもない現状において、わざわざ争いの火種を生むことになりかねない事をすのは馬鹿げている。
だったら自分の生活が少しでも良くなるように皆のためになるものを作った方がずっと良い。
そう言って、カイララは笑っていた。
事態が動いたのはダムが見つかった時だ。流石に敵の影がちらついてくれば、カイララも武器を作らないわけにはいかなくなってくる。領主との繋がりも出来て、反乱の意志が無いことは領主の息子経由で十分伝わっているということもあって、カイララはようやく武器を作り始めた。
カイララが初めて作った武器の名は『拳銃』。
強力な火薬によって鉄の弾を撃ち出し、ゴブリン程度であれば一発で倒してしまえるほどの武器だった。
それから銃は進化を重ね、カイララが王都に向かうまでにガトリングガンという連射式機関銃まで到達していた。
「その機関銃らしきものがこんなに、しかもカイララが作ったものよりも随分と綺麗で均一にできている。とんでもないね、古代人ってやつは」
「カイララが作ったものとは多少形状が違うが、これが同じ銃なら残りの物もすべて兵器と見るべきだろうな」
だとすると、古代人は一体何の目的でこんなに武器を作って隠していたのだろう。
オババは近くにあったハンドガンを一つ手に取る。マガジン装填式の扱いやすい9ミリハンドガンだ。
グリップ上部左側面に安全装置がついているのも同じ。やはりこの銃を作ったのはカイララと同様に『設計図』のスキルを持っていた者なのだろう。
「おい、お前たち。気が緩み過ぎだ。この場所に敵が潜んでいるかもしれないのだぞ」
最早敬語を使おうなどと考えていない騎士長のその声に、オババはハッとする。改めてこの武器だらけの空間を感じ取ろうとして見れば、どうにも微かに独特な魔力を感じる。
「すまん、助かったぞ騎士長。この場所に敵が潜んでいそうだ」
「なに? 気配は感じない……魔力か?」
「ああ、微かに奥の方に魔力の気配がある。こんな魔力の隠し方をするやつだ、それほど魔法は得意じゃないタイプだろう」
「となると接近戦タイプか。ならば私と小隊長が前に出る。魔女様は念のため我々の鎧に魔法バリアを張りながらついて来てくれ」
「わかった。では軍医は私の隣、小隊副長が後ろ、ダンペルが左右を警戒でいいな?」
「ああ。ダンペルさんは狩人だ、カバーできる範囲が広い。それで行こう」
オババたちは騎士長と小隊長を先頭に、慎重に武器の置かれた台や戦車などの合間を縫って奥へと進んで行く。
真っ直ぐ進むこともできるがそれはしない。敵の奇襲に会うかもしれないからだ。
長い武器庫を車両や飛行機に隠れつつ奥へと進むこと15分。ようやく気配が強く感じられるぐらいの場所までやって来ることができた。
ただ、ここからが大変だ。敵の位置は大まかにしか分からない一方、敵は既にこちらの接近に気がついているようなそぶりを見せている。その証拠にある程度近くなってからは敵の魔力の位置がある程度動いていたのがピタリと止まり、複数人が一か所に固まっているのが分かった。
「敵もこちらに気付いたか」
「そのようだな。おそらくこちらが魔力を感知していることも分かっているのだろう。一か所に固まって正確な数を割り出せないようにしているようにも思えるね。流石のアタシでもあれだけ固まっていられると、ここからでは数も分からないよ」
「敵が猫の魔人のように俊敏なタイプだったらこの地形は敵に有利だな。障害物が多いし、上から飛び掛かってくるかもしれん」
どちらも動きづらい状況。
オババの魔法ならここから敵に撃ち込むこともできるだろうが、それはこちらの位置を知らせることにも繋がる。万が一敵に魔法タイプがいたら逆に魔法を撃ち込まれることになる。
この場にある車のようなもの、万が一それらがカイララが作ったものと同じように水の魔石で動いているとすれば、火炎魔法を使用するのは水蒸気爆発が起きる可能性もあって危険だ。
こちらが配慮して風魔法で戦ったとして、向こうが火炎魔法を使わないでいてくれる保証はない。
この場所には同じように動いているだろう車だったり戦車だったりが、かなりの数並べられている。連鎖爆発を起こしてしまったら、頑丈なダンジョンと言えど崩落してしまうかもしれない。
オババがどう立ち回るべきか珍しく真剣に考えていると、不意に後ろから肩を叩かれた。
誰だ? 今考えているのだから邪魔をするな。そう言おうとして振り返ると、そこには何とこの場所にいないはずの人間の笑顔が浮かんでいた。
「お困りのようだにゃ? オババ」
「なっ、ダンゴ!? なんでお前がここに来てるんだい!?」
器用に小声で驚いて見せるオババに、ニヤリと悪戯が成功したのを喜んで笑みを深めるダンゴ。
「オババたちが何処か行くのが見えたから、こっそりついて来たんだにゃ。話は聞いたにゃ、ここに私の同胞がいるかもしれないんだにゃ?」
「そうだよ。もしかして、あんた記憶が戻ったのかい?」
「ふっ……」
「戻ったんだね」
「戻ってないにゃ」
「戻ってないのか!? 紛らわしいことするんじゃないよ!」
いきなり緊張感をぶち壊すように、ダンゴが登場したことで場の空気が緩む。バカみたいなオババとのやり取りもあって、険しい顔をしていた騎士長も眉が少し下がっていた。
「それより、さっき近くに居るのが私と同じ獣人じゃないかっていってたにゃ? ここ、油でくっせ~から鼻があんまり効かにゃいんだけど、もし鼻で相手の位置を調べてるんだったら、このくっせ~中でどうやって我慢してるのか聞いてみたいにゃ~。私は臭くて鼻がもげそうにゃ」
「ほう、それは良いことを聞いたね。だとしたらもし敵が獣人タイプでも能力をフルに発揮する事はできないよ」
しかし、かと言って正面から行くのはやはり得策ではない。
回り込んで行くか? だが、奴らがこちらの動きを察知しているらしいことは事実。回り込むことに意味があるだろうか。
少し考えて、オババはある作戦を皆に提案することにした。
名付けて『俺たち仲間じゃん』作戦。
元々魔族の仲間であるダンゴを先頭に立たせ、自分たちは後ろから堂々とついて行くというものだ。
この作戦には大きく分けて二つのメリットがある。
一つ目は敵が同じ魔族であるダンゴが先頭に立っていることで、様子見を選択して来る可能性が出てくるということ。
二つ目は万が一ダンゴが敵側に寝返ったとしても、すぐに対処できるということだ。
オババとしてはこの場所で大規模な戦闘などしたくはない。この場所には火薬を詰めた銃弾が無数にある。下手に火炎魔法など使えば、大惨事になるかもしれない。仮に水の魔石が大丈夫だったとしても、もし万が一火炎魔法で火薬に引火すればこの地下空間は灼熱地獄に早変わりしてしまうだろう。
渋るダンゴに、帰ったら好きなだけダンゴを食わせることを約束すると、ダンゴは喜んでこの作戦に賛同してくれた。
そうして、ダンゴを先頭に後ろからさっきの並び、騎士長と小隊長を先頭にした並びで少しずつ敵に近づいて行くと、ある所で向こうから声がかかった。
「止まれ! 貴様どこの魔族だ! 後ろにいる人間共はなんだ!」
若い男の声だ。
「そう警戒しないで欲しいにゃ。私は猫獣人の魔族、後ろの人間たちは私の子分たちにゃ! 私はここで仲間に会えるかもしれないと聞いて、はるばるやって来たんだにゃ」
「なに? 後ろの人間が子分? 馬鹿か貴様、そんな言い分に騙されるわけがないだろ! 大方貴様は敵に捕まって利用されている馬鹿な猫獣人といったところか」
「お前、犬獣人にゃ?」
「な、なぜ」
「ここまで近づけば隠れてても臭いでわかるにゃ。それにしても、お前犬のくせによくこんな臭いところにいられるにゃあ」
「そ、それはお前もだろう! 猫なら臭いに敏感なはずだ」
「私はこのとおり、柔らかい紙を鼻の穴に突っ込んでいるから大丈夫なんだにゃ。人間の子分に貰ったんだけど、いや~これ凄いにゃあ、けっこう臭いのとめられてるにゃ。ところでそっちはみんな獣人なのかにゃ? 何人いるんだにゃ?」
そんな話をしながらも、少しずつ着実に前に進んで行くダンゴ。
「と、止まれ! それ以上近づくな!」
臭いによって苦しんでいたからか、動きの鈍い敵の魔族。
そしてこの反応、オババはここで敵が全員獣人だと確信する。
まさかの楽勝か? だとすれば、あまりにも拍子抜けした結末ということになる。
しかし、その楽観的な考えは、ついに男の姿が見える場所まで来て吹っ飛んだ。
「それ以上近づいたら、これを押すぞ!」
なんと男は何かしらの端末を手に持ち、その端末にある赤いボタンを今にも押そうとしていたのだ。
あの端末は明らかにこの場所にあったもの。そして、これだけの武器や兵器が置かれているこの部屋のことを考えれば、ボタンを押されるのはまずい。
「ダンゴ、ここは少し下がるぞ」
オババが前を歩く二人の間から、先頭のダンゴに話しかける。だがダンゴはその声が聞こえなかったふりをしてそのまま前進した。
次の瞬間。
ボタンが押される。
直後に鳴りだす異様なブーンというプロペラ音。
そこら中のテーブルから飛び上がる無数のドローンたち。
壁の赤いランプが点滅し、天井が開き始める。
開き切った天井の先に見えるのは赤い鉄塔の骨組みと、その隙間から見える天井に映った疑似的な空。
ドローンたちは天井から上へと舞い上がり、鉄塔の隙間を抜けてどこかへと飛んで行く。
白い壁にこのダンジョンがある森一帯の地図が浮かびあがり、その地図には赤い点滅するマーカーがいくつも動いていた。
そして、アナウンスが始まる――
『敵性目標を確認。これより、ドローンによる殲滅作戦を開始します』




