第50話 ダンジョンで見たもの
カイララが村に到着する数時間前、ガッケノは次々と攻めてくる魔導人形を相手に何とか守勢を保っていた。
「くっ、数が多すぎる!」
「城主様! これではいくらゴブリンニートの力があってももちません! ドラゴンは! ドラゴンはまだなのですか!?」
「リクセンは里帰りしていて不在だった。あいつが残していった連絡用の鷹は送ったが、まだ返信もなければ姿も見えない。最悪、私たちだけで何とかするしかない」
「そ、そんな。領主様は……領都からの援軍は!」
「そちらも無理だ。父はいま領都にいないし、これだけ大規模な攻撃だからな。領都の方にも敵が来る可能性を考えると、援軍など送れないだろう」
現在この村の周りで起こっている魔導人形による襲撃。それに対処しているのはダンジョン捜索に来ていた1000人の領都軍兵士たちと村の狩人たちだ。
だが、敵の強さと森という地形、何より人間ではない者の動きに翻弄されて、味方の被害は甚大だった。
死者こそ出ていないものの、弓矢が意味をなさないために接近戦を強いられ、常に負傷者が出ている。
村はゴブリンニートの力で守られてはいるが、激しい広範囲攻撃で外壁が破壊されそうな箇所も出てきていて、もう既に村は限界に近かった。
「こんなときカイララがいてくれたら、何か良い方法を思いついたのだろうか……」
ガッケノはそんな事を考えて、すぐに苦笑の息を漏らす。
知らず知らずのうちにガッケノはカイララをある意味自分の上に位置付けて、頼るようになっていたことに気が付いたからだ。
本来なら、この村を任されている自分が自身で解決しなければならない問題。領主の息子として、この村のリーダーとして誰かに頼り切りになるというのは許されない事だ。
「今はカイララはいない。マリーちゃんもだ。そうなるとやれることは限られてくる。今は自分がやれることを最大限発揮して、最善の選択をしていくしかない」
決意を新たにガッケノは村の正門へと向かった。物見塔へと登って何かしらの解決策を見つけるために。
ゴブリンニートの力は段々と弱まってきている。最悪、テーマパークやバスの製造所辺りは切り捨てて、範囲を狭めることで守りを固めるしかないか。
そんな事を考えながら、物見塔に登って下を見下ろす。しかし、そこには予想もしていなかった光景が広がっていた。
「人形兵たちが動きを止めている?」
村を攻めていた魔導人形たちが、ピタリと動きを止めたまま固まっていたのだ。
この奇妙な光景にガッケノはオババへと質問を投げかける。
「魔女様、これは一体どういうことなのでしょうか?」
「ふむ。まあ単純に考えるならこいつ等を操っていた敵が死んだか、もしくはこいつ等を操れない状況にあるかだろうね」
「死んだ? ですが我々は村を守るので精一杯で、人形を操る者を見つけ出すような余裕はありませんでしたが」
「じゃあアタシらと関係ないところで何かがあったんだろうさ。それより、今がチャンスだよ。急いで編成をくみな」
「編成? もしや魔女様はダンジョンへと乗り込むつもりなのですか?」
「それ以外にないだろ。このままここで守っていたところで二の手、三の手があったらこの村は終わりだよ。敵に何があったか知らないが、こちらから乗り込んで攻めに出るべきだ。そこで術者を見つけて殺すかやめさせるかすればこの戦いは終わる」
確かにオババの言っていることは正しい。ただ、この状況で戦力を分散させた場合、襲撃が再開された時に持ちこたえられるかどうかが怪しくなる。
ガッケノは数秒頭の中で色々と考えを巡らせた。
そしてオババの言った事を噛み砕いて飲み込んで、結論を出す。
「分かりました。魔女様の言う通り攻めましょう。ただし、ダンジョンに向かうのは少数精鋭でいきます。具体的には魔女様を含めた6名にしてください。人選は任せます」
「6人か……少ないが、ダンジョン探索はそれぐらいの人数で行うのが一般的だからな。いいだろう」
そうして、オババは10分も立たないうちにメンバーを揃えてガッケノの前にやって来た。
オババが連れて来たのは、騎士長、小隊長のおっちゃん、小隊副長、軍医、それからカイララの父だった。
「騎士長に小隊長、小隊副長に軍医もですか。ダンペルさんは狩人たちのまとめ役ですし、このメンバーを連れていかれるのは流石に痛いですね」
「だが、これぐらいでなければ万が一敵が魔族だった場合に対処できない。魔導人形を使っているあたり数は少ないだろうが、それでも敵は魔族。戦闘においてはアタシらよりも優れているからな」
「それは確かにそうですが……」
「それに、村にはガッケノがいる。リーダーとしてその能力を遺憾なく発揮すれば、このメンバーが抜けたとしても問題はない。アタシはそれほどにあんたを買っている」
「そこまで言われたら認めないわけには行きませんね。わかりました、ダンジョンの方よろしくお願いします」
「任せときな」
オババたちが準備をしてダンジョンへ向かうのを見送ると、ガッケノは出来るだけ今の状態で数を減らそうと、無線マイクとスピーカーで村の外で戦っている者たちへと呼びかけて、魔導人形の解体を始める。
「さて、本当に魔族はダンジョンに来ているのか。もし魔族がいなかった時のことも考えておかないといけないな」
◆◇◆
ダンジョンへと向かったオババたちは、途中魔物に襲われながらも余裕をもってダンジョンの入口へと到着していた。
「流石に強いなお前たちは」
「そりゃあそうでしょ。伊達に集団の長なんてやってませんから」
「小隊長と騎士長はともかく、軍医も中々強いじゃないか。医者なのに」
「ただの医者じゃなくて軍医ですからね。私もいつでも戦えるようにはしていますよ」
「まあ、それはそうか」
ダンジョンの中に入れば、そこには敵が待ち構えているかもしれない。それでもこうやって雑談しているのは、こちらの緊張を敵に悟らせないためだ。
何となく散歩に来たような雰囲気で先頭をカイララの父ダンペルが歩き、罠などがないか確認しながら何故か不気味に明るい洞窟内を進んで行く。
ダンジョンには色々な種類があるが、大抵の場合一階層目は同じような洞窟になっていることが多い。狭い通路のため、もし罠が仕掛けられているとしたらこの一階層になる。
全員が自然に警戒しながら普通に歩く速度でズンズン奥に入っていく。もし一般の兵士だったらこうはいかない。
初めは順調に進んでいた急造の小隊だったが、一階層から降りる階段を見つけた所で急に先頭のダンペルが立ち止まった。
「ほう……」
「どうした、何かあったかダンペル」
「いや、ここに罠が……無い」
「無いんかい!?」
ナイスツッコミ!
「無いから問題なんだ。本当に魔族がここにいるのか?」
「分からん。だが、ここに黒装束の人形連中が一体もいないというのも変だ」
「確かに。このダンジョンの入り口は黒装束が出入りしていたから見つけられたと聞いている。それがこの階層では一体も見ていないのは奇妙だ」
とは言え、下に降りないわけにはいかない。まだ一階層だから敵がいないだけで、下の階に行けば数えきれない程に蠢いているなんてこともあり得る。
オババは慎重に下へと続く階段に足をかけた。罠が無いことが分かっているなら、魔法攻撃が飛んできた場合に備えて自分が魔力シールドを貼っていた方が良いという判断から先頭を行くことにした。
ダンジョンは通常、最終階層が二階層から五階層となっている。稀にそれ以上の階層があるダンジョンもあるが、大体はその枠組みに入るので、今回のダンジョンもそれぐらいだと思われた。
だから次の二階層が最終階層の可能性も当然ある。
「二階層ダンジョンはやめて欲しいね。迷宮は面倒なんだ」
二階層しかないダンジョンは、大抵の場合二階層目が広大な迷宮になっている。逆に五階層が最終階層なら、各階層はそこまで広くはないことが多い。
「最終階層は壁が白塗りになります。なので階段を降りている途中で変化が分かるはずですが……どうやらこのダンジョンは二階層ダンジョンのようですね」
小隊副長のフラムの言葉に、オババの顔が歪む。
「一番面倒なダンジョンを引いたか」
心の中で悪態をつきながらもそれでも歩みを止めず階段を降りきり、来るべき迷宮の壁が見えるのを覚悟していたオババ。
しかし、そこでオババの目に飛び込んできたのは、思いもよらない光景だった。
「な、何だこれは……街?」
そこにあったのは、中央に赤い巨大な鉄塔が建つ巨大な街だったのである。




