第5話 そろそろ武器もいっとく?
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ゴランさんに剪定鋏を作ってもらって、俺のスキルは21レベルに上がった。
最初は俺のお願いに難色を示していたゴランさんだったが、作りたい物について地面に描いて説明すると、興味を持ってくれたのか作ることを了承してくれた。
完成した後に今後もゴランさんが勝手に剪定鋏を作って販売することを了承したから、俺に対する印象も良くなったことだろう。(兄ちゃんと違って職人だからか、ゴランさんは作り方覚えちゃったらしい)
『設計図』のスキルレベル21になって変わったのは、指示出し出来る人数だった。
レベル21現在では3人。20までで製作に協力してもらったのが毎回1人づつだったので、これまでが1人だったのか2人だったのかは分からない。今回は感覚的に3人いけそうだと思ったけど、これまではそんな感覚が働くことなんてなかったし。
けどまあ、これで少し大きめな物でも作りやすくなったのは有難い。
という事で、俺はうちの狩人2人と鍛冶屋のおじさんに手伝ってもらって何か武器を作れないかなと考えている。
実は家庭菜園用の道具を作りすぎて、父さんより母さんのスキルレベルが上になっちゃってるんだよな。だから母さんが自慢するたびに父さんと兄ちゃんからめっちゃ熱い視線が来る。
兄ちゃんのスキルレベルも、俺にすぐ越されそうなぐらいしか差がないし、これ以上は関係が悪くなりかねない。
「うーん、しかし何を作ったものか……」
いま父さんたちが狩りで使ってるのはロープを使った罠と、ナタ、それとナイフ。飛び道具は弓があるけどあんまり使ってないみたいだ。
森は視界が開けてないし、弓は結構技術が必要って言うもんな。
でも飛び道具はあったほうがいい。モンスターに襲われたらまずは接近戦より遠距離戦が鉄則だからね。
「何かないかな」
目の前に浮かぶ設計図の束。項目一覧から探すのも大変だ。
「これ、もっと見やすくならないのかよ」
よくアニメとかで見る空中ディスプレイみたいになってくれれば使いやすいのに。
今は紙の束を目次から探してるんだぜ? やりにくくてしょうがない。
まあ、ちゃんと用途に合わせて分類されてるのは助かってるけど。
「うん? 何だコレ?」
ぶつくさ文句を言いながら良い武器はないかと探していたら、その他分類の所で変に目につく項目があった。
そこには『ディスプレイ式設計図』と、書かれている。
「いや、あるのかよ!? だったら最初からそっちを使わせてくれ!」
なんとたった今ほしがっていたディスプレイ式設計図の設計図が見つかったのだ! 何じゃそりゃ。
「えっとなになに、必要素材は……魔力?」
魔力って何……?
いや、わかるよ。魔力って、あれだよな。魔法を使うときに使うエネルギーみたいなもんだろ? でもさ、そんなの自分に感じたこともないし、魔法使うところ見たこともないから存在すら怪しんでるんですけど。
「考えてても分からん。仕方ない、一回魔法使いのオババのところに行くか」
村は狭いからどの家に行くにもさほど時間はかからない。
オババの家には何回も母さんに連れられて行った事があるから、迷う事なくすぐに辿り着いた。
オババの家は薬売りでもあるから店先にはたくさんの薬草が吊るしてある。
見たところ表には居ないみたいだな。
「おーい、オババいるー?」
奥に向かってオババを呼んでみると、すぐに返事が返ってきた。
「なんだい、うるさいねぇ。ゴブリンの客はお断りだよ!」
「ゴブリンじゃねーよ! カイララだよ。ダンペルの息子の!」
「あぁん? なんだ? ダンペルの息子?」
そう言って出てきたのはとても100歳には見えない、どう見ても30代ぐらいの女。デカい胸にスタイル抜群の金髪美女だが、魔法で若作りしてるだけで実際はすんげぇババア。
この人が俺がオババと呼んでいる村唯一の魔法使い兼くすり屋だ。
「なんだカイララじゃないか。どうしたんだい? 腕でも千切れたのか?」
「俺の腕が千切れてるように見えるの?」
「いや。じゃあもう一本追加が欲しいのか?」
「なわけねーだろ若作りババア」
「ああん!? オババと呼べオババと!」
相変わらずめんどくせぇ。
オババは初対面からこんな感じで、俺みたいなガキにも敬語使うなとか言ってくる変わったババアなんだけど、ノリがちょっと面倒なんだよな。
このババア、マジで誰に対してもかなり雑な対応しかしなくて、俺ともたまに喧嘩になる。6歳とマジ喧嘩する100歳のババアなんて聞いた事ないわ。
「今日はオババに聞きたい事があって来たんだよ」
「なんだよ、聞きたいことって。アタシの初体験についてなら話さねぇぞ」
「相手の年齢考えてからもの言えよ。そんなんじゃなくて魔力について聞きたいんだよ俺は!」
「魔力だぁ?」
「なあオババ、俺にも魔力があるか分かる?」
オババは店先の椅子に座っていつのまにか茶を捌いてる。いつの間にお茶なんか持ってきたんだよ。
「あるぞ、魔力」
「マジで!?」
「あるに決まってんだろ。人間は生きてりゃ誰でも多少は魔力を持ってるもんなんだよ」
あ、そう言う系なのね。
「で、俺の魔力ってどんなもんなの?」
「そうだなぁ。アタシの魔力がこの家ぐらいだとしたら、オメェの魔力は……お、あそこを見ろ」
オババが指差した先を見ると、そこには小さな生き物が一列になって動いていた。
蟻だ。
「オメェの魔力はその蟻くらい小せえカスみたいな量だな」
「嘘でしょ酷すぎる!? せめてもう少しオブラートに包んで話せよババア!」
「ババアじゃねぇ! オババと呼べ! ちっ、なんでテメェいきなり魔力なんて言い出したんだよ」
「それは、俺のスキルで魔力を使うのがあったから……」
オババはまたしてもいつの間にか串に刺さった団子を持っていて食いだす。
芋団子だ。美味そう……じゅる。
「ほぉ〜、オメェのスキルにねぇ。確かライカカのスキルは『設計図』だったな。ふーん……なら、オメェ杖は作れるか? 魔法使い用の杖だ」
「見てみないと分からんけど、たぶん」
「お、なら交換条件でこのオババが魔力を上げる修行をつけてやるぞ。アタシは修行をつけて、オメェは魔法の杖と薬草作りを手伝う。どうだ?」
「うん? なんかそっちの条件多くね?」
「当たり前だろ、魔法使いが修行つけてやるってんだぞ。これでも破格だろうが」
「俺はそんなに暇じゃないんだよ!」
「7歳のガキが暇じゃねー訳ねえだろ。今ここにいるんだしよぉ」
「ぐっ、こ、このクソババア」
「オババだったってんだろこのスカタン!」
「あ痛っ!?」
ゲンコツくらった、両親にも殴られたことないのにッ!
チクショウ、仕方ねぇ。背に腹は変えられないか。このババアしか魔法を教えられる人間がいないしな。
「わ、わかった。オババの手伝いと杖作りするよ」
「よーし、分かればいいんだ。なーに私に習えば蟻からカナブンぐらいにはすぐなれる。安心しな!」
カナブンかよ、大して変わんねぇじゃん。
オババやる気ねぇだろそれ。
そっちがそんな感じなら、俺も何か条件付け足してやる。
「ただし、これじゃあ割りに合わねぇ!」
「……なんだと?」
「芋団子串3本とお茶一杯もつけて!」
「よし、契約成立だ!」
こうして俺は魔女に弟子入りし、父さんと兄ちゃんに熱い視線を受けながら、魔法の杖作りと薬屋の仕事に励むのだった。
今後ともよろしくお願いします。