第46話 男爵領領都への偵察
丸腰の兵士・騎士たちが魔導人形の持つ剣を避けながら、なんとか徒手格闘で闘っている。
俺は動けなかった自分に喝を入れて、穴の上にいる他の騎士達に武器を下ろしてもらうように指示した。
直後、木魔法で生やした木が剣を運んでくる。その際、応援として20人ほどの兵士たちも降りてきているのが見えた。
これだけの数が居ればたった5体の魔導人形程度なら押し切れると言いたいが、元々1000人近い人数で50体を相手に戦っていたのだ、このままでは間違いなく苦戦するだろう。死人も出るかもしれない。
とは言え、この穴の中にこれ以上の人数は入れられない。単純にスペースが足りないからだ。
「剣は行き渡った。俺も何かできればいいんだけど」
俺が今やれるのは水魔法を使う事だけだ。雷魔法は周囲の兵士・騎士達の鎧や剣に引き寄せられてしまうし、何よりあの人形に効く気がしない。
でも水魔法だって奴らに効果は殆ど無さそうに思える。
俺レベルの水魔法なら尚更。
「元々俺は魔法を攻撃に使うのは向いてないんだ。サポートとか、生活に役立つような使い方なら得意なんだけどな……それにしても、魔導人形のやつら、何か上に居た頃より動きが鈍いな」
飛んだり跳ねたりしていた穴の上では、そのトリッキーな動きに兵士たちが翻弄されていた場面が多かった。だがこの穴の中では全く飛び跳ねていない。
なぜだ……そうか! この穴はマリーちゃんに頼んで開けてもらった穴、マリーちゃんは元々『家庭菜園』のスキルを持っていた。今は『穴掘り名人』のスキルに変わっているが、穴を掘ると言えば畑でということが多かった。だから、今回の穴掘りでも無意識に掘った後の地面を耕してしまったんだ。
だから歩くならともかく、飛び跳ねるとなれば難しくなる。ナイスだマリーちゃん!
となると、この辺り一帯に水魔法で水をまけば泥がぬかるんでもっと動きが鈍くなるはず。ただ、その場合兵士・騎士達も条件が同じになってしまう。それは良くない。
局所的に泥沼状態にできればいいが、あの動きの速さだ、そう簡単にはいかないか。
「うーん……ん?」
そもそもの話、あの魔導人形どもを壊す必要あるのか? 完全に動けなくなれば問題ないんじゃないか?
だとしたら、他の兵士・騎士達には悪いけど、あれをやれば一発で終わりだ。
やっていいかな? まずいか? いや、いいだろ。このまま戦っててもみんな消耗するだけだし、地面は踏み固められていくし。
もういいや、やっちまおう。
「皆さーん! 今から俺の魔法で奴らを動けなくしまーす! でも、皆さんも動けなくなると思うんで、鎧着てる人たちはすぐ脱いで捨ててくださーい。じゃないと死にまーす」
よし、警告はした。
やるか! 水魔法で集中豪雨を降らせる。
……クラウドバースト!
この魔法は、低空に一瞬にして雲を生み出し、狙いすました一点に集中的に豪雨を降らせるという魔法。
サンダーボルトを使うには雲が小さいし、雷を発生させられるほど冷えた空気のある上空には送れないけど、この穴を水浸しにする事は出来る。
雨は正に土砂降り、穴にしか降り注がず、槍のような勢いをもって柔らかい地面に突き刺さる。そしてそのうち地面はぬかるみ、泥が膝まで来るような泥沼になっても、まだ勢いは止まらない。
やべえ、やり過ぎた。止まらねえぞこれ。
俺は水位の上がって来た水面に両足で立つ。水魔法使いならこれぐらいは楽勝にできる。
だけど、鎧を脱げてなかった応援の兵士の何人かが溺れ始めた。
しゃーねえ。
……ファウンテン!
この水魔法はまんま噴水。こいつで溺れてる兵士を穴の上の方にぶっ飛ばす!
よし、他の兵士・騎士達も水から出て、穴の上に逃れられたな。
さて、奴らはどうなった?
雨は既に止んでいる。穴の中は泥沼にする予定だったのだが、水量が多すぎて今や濁った水たまりだ。
「あー、なんかあの辺りでもがいてるな。でも上に上がって来る気配は無い。もしかして、奴ら泳げないのか?」
いや、まだ油断するのは早い。奴らに呼吸はいらないんだ、時間をかけて外に這い出てくるかも。
そうして、それから30分後、奴らは関節全部に泥が詰まった無残な状態で見つかった。
こんな事なら、最初から泥水につけりゃよかったなぁ。
◆◇◆
俺たちが下で魔導人形と戦っている間、壁の上では、辺境伯様と伯爵様が貿易都市の代表者と様々な話をしていたらしい。
例えば、この街には男爵家の人間はいないのかとか、魔導人形が何処から来ているか分かっているのかとか。国民の生活や物資のことも話して、その辺りの支援をする事は決まったとか。
その話の中でも一番重要なのは、この魔導人形たちが何処から来ているのかということ。
まあ、これに関しては辺境伯様たちも予想はついていたらしいが、代表者の話を聞いて間違いなく男爵領領都から来たことを確信したと言っていた。
そこでまずはその確信が本当かどうか、男爵領領都を偵察しようということになり、50人程度の少数精鋭で動くことになった。
これは先の魔導人形たちの襲撃で少なくない負傷者が出たことと、大勢でここを離れた結果、この貿易都市の防衛が間に合わず中に入られるかもしれないということを考慮してのことだ。
で、問題はこの少数精鋭部隊になぜ俺がいるのかという話なんだけど。
「何で俺、一緒に来てるんですかね?」
「仕方がないだろう。カイララ君は一緒に行くようにと辺境伯様が言われたのだから」
「カンナギさん、一応おれ、10歳そこそこの子供っすよ。偵察とか危ないじゃないですか」
「君なら何とかできるという信頼があるんだろう。それと、君がその魔導人形について興味深いことを言ったからだろうね」
「こいつが動いていたのは、人間の魂が中にあったからだって言ったあれですか?」
「そう。昔の戦争では解明できなかった魔導人形がなぜ動くのかという疑問。その答えを君が示してしまったからだよ。君が魔導人形の件を解決できるとふんでいるのさ」
「はあ……何でそうなるんですかねぇ」
あの後、俺は壊れた魔導人形の残骸を回収して、設計図のスキルで作り方を検索しながら色々といじくり回していた。
そして気付いた。この魔導人形は今見ているページの思考をプログラムが担当しているタイプではなく、数ページ先の人間の魂を入れるタイプなのだと。
王都では、プログラム的な仕組みで動いている案内板なんかもあったから、この魔導人形もそうなんだと勝手に思っていたのだが、実際は人の魂を入れて術者が操る魔導人形だったらしい。
それに気が付いた俺は、辺境伯様にこの事を伝えた。そうしたら偵察隊に入れと言われてしまったってわけ。
おかしいだろ絶対。俺は別に偵察について行きたくって報告したんじゃないってのにさぁ。
「まあ、そう文句を垂れても今更どうしようもないだろ。だったら前向きに行こうじゃないか。それで、一つ聞いておきたいのだが──魔導人形に入れられていた魂は、魔導人形が破壊されると元の人間の体に戻るというのは、本当か?」
「本当ですよ。少なくとも俺が調べた魔導人形はそうでした。今頃、男爵領領都のどこかで起き上がって歩いてるんじゃないですかね」
人の魂をぶち込むタイプの魔導人形は、元の魂が入っていた体が生きている状態でなければならないというものだった。体を生かす理由は、魂が体との繋がりを失うと昇天して一定時間で消えてしまうから、らしい。
そして、魂の入れられた魔導人形が破壊されると、宿っていた魂は元の体に戻っていく。
「では、もし万が一、男爵領領都が絶望的な状況になっていたとしても、人々を助けられる余地はあるということだな」
「ええまあ。たぶん。俺が見たのと同じなら」
「それでいい。今はその希望があるだけで十分だ」
「で、肝心の偵察ですけど。まさか正面から領都に入るつもりじゃないんでしょう? どうするんです?」
「ああ、それについては領都のはずれに小高い丘がある。そこから君が開発した双眼鏡で内部を観察する。その後、さらに調べが必要な場合は、私が壁を登って見てくるつもりだ」
「なるほど。じゃあ、最初の偵察で終わると良いですね」
「本当にな」
俺はカンナギさんの操るバイクの後ろで、その後もそんな話をつづけた。そして、第一目標だった小高い丘にたどりつくと、兵士たちに周囲の警戒を任せ、俺達二人は双眼鏡を覗き込んだ。
「どうやらもう壁を登る必要は無さそうだな」
「そうみたいですね」
そこで目にしたのは……領都の広い道に整然と並ぶ魔導人形たちの姿。
それは、男爵領領都が完全に敵の手に堕ちているということを示していた。




