第44話 ヴァルカン帝国の影
貿易都市『ジャガジャリン』にたどり着いた俺たちは、街の人々から歓迎され、その直後に魔導人形が街を襲い始めた。
この街を取り仕切る商会の代表者に聞けば、どうやら襲撃はこれで5回目にもなるらしく、襲撃のたびに魔導人形の数が増えているのだとか。
この都市には男爵領都からの防衛騎士が500人派遣されていたが、彼らの抵抗もむなしく徐々に追い詰められ、すでに犠牲者が100人以上出ているという話だった。
今回の魔導人形の数は50体、前回が25体だったという話だったので、単純に倍になっている。
ということは、これまでの4回の襲撃は毎回25体以下だったにもかかわらず騎士が合計100人もやられたということ。これは魔導人形が鍛えられた騎士達よりも強いということを示しているのと同義だ。
「こ、これまでは何故か時間が経つと帰って行っていましたが、今回も同じようになるのでしょうか?」
「それは分からんな。だが、我々が合流して数ではこれまでより圧倒的にこちらが上だ。上手く立ち回れば今回は犠牲者を出さずに済むかもしれん」
兵士たちが前に出て盾と槍を構えて壁を造り、その後ろから魔法騎士たちが魔導人形に魔法を撃ちこんでいる。
魔導人形たちは、人間には到底できないような関節の動きで魔法を奇妙に避けていたが、すべてを避けられるわけではなく、すでに数体は倒れていた。
これなら辺境伯様の言う通り一人の犠牲者も出さずに魔導人形の襲撃を切り抜けられるかもしれない。
「お、お気を付けください辺境伯様! 奴らとの戦いは数体倒した後からが本番なのです。奴らはこちらの動きを学びます。今は様子見しているだけです!」
「なに? しかし、あの壁を突破するのは容易ではないぞ。魔導人形ならばこのまま押し切れるはず……」
「関係ありません。奴らは人じゃない、人なら無理だと思われるような足元の隙間からも、まるでクラーケンの体のような柔らかい奇妙な動きで潜り込んできます」
代表者の言う通り、敵が少し減ったタイミングで奴らの動きが変わり始めた。その場で攻撃を避けるのではなく、ぬるりと緩急をつけながら確実に兵士たちに近づいて行く。
そして、1体の魔導人形が隣の魔導人形の腕を掴んだかと思うと、盾を構えている兵士たちに向かって投げた。
突然の暴挙にほんの少しではあるが態勢を崩してしまう兵士達。
そして、盾にぶつけられてバラバラになった魔導人形が、兵士たちの前に下半身のパーツ、後ろに上半身のパーツという形で散らばる。
その隙を逃さず、別の魔導人形が体勢を崩した兵士に素早く近づき攻撃。応戦する兵士達だったが、次々に一点集中で突っ込んで来る魔導人形たちになす術もない。
一方、後方にいた魔法騎士たちは、先ほどバラバラになった魔導人形が上半身だけ合体して、足を五月雨式に切り付けてきたことで混乱していた。
「馬鹿な。あやつらは何をしているのだ!? これまであのように足元を動くモンスターの相手もしてきただろう。何を手間取っている!?」
「辺境伯様、おそらくですが騎士達が対応できていないのは思い込みのせいです。元から小さいモンスターであれば問題なく対処できたでしょうが魔導人形は元が人型、だから人のしない動きをしている奴らに予測が立てられず、対応できないんです」
街の外壁の上から戦いの様子を眺めている俺たちは、魔導人形の動きに翻弄されている兵士、騎士達の姿を見ていることしかできない。
「一度軍を引いて壁の内側で奴らが帰るのを待つのはどうですか?」
「そ、それは駄目です! 前に一度試したら奴らは簡単に壁を登ってきました。落としても死なないため、何とか突き落としても再びよじ登ってきますし、万が一街に入られたら住民の犠牲は免れません! というか、この子は一体何なのですか? なぜこんな場所に子供が?」
「この者は訳あって同行している私の息子の部下だ。名前はカイララという」
「そ、そうなのですね。カイララさん、いま言った通り奴らは放っておくと簡単に壁を登って街に入ろうとしてきます。ですから、街の外で戦うしかないのです」
「なるほど。理解しました」
だけど、放置していてもこの状況は改善しない。既に足首を切りつけられて地面に伏している魔法騎士数名、攻め込まれた箇所の兵士数十名が負傷している。まだ犠牲者は出ていないようだが、時間の問題だろう。
もちろん、辺境伯軍の指揮官も王都軍の指揮官も無能ではない。奴らに対抗しようと必死に軍を動かしている。
だが、敵が生物ではないことと変則的な動きが合わさって、対応が追い付いていない。
何か良い方法はないか。何か……
そう考えこんでいるうちに、事態は更なる動きを見せる。なんと魔導人形たちが魔法を使い始めたのだ。
「ま、魔法なんて、これまでの襲撃では使っていなかったのに!」
「奴らは帰る度にこちらの戦力にあわせてアップデートされているんでしょう。今までは様子見だったのかもしれません」
「だとすると、ここでまた奴らを帰すのは得策ではないな。次はもっと厄介になりそうだ。それにしても、魔導人形か……辺境伯様」
「伯爵様の懸念は分かります。そうであってほしくはないですが……」
辺境伯様と伯爵様の様子がおかしい。なんだ? なにかあるのか?
「お二人とも、どうかされたのですか?」
「うん? ああそうか、カイララは知らなかったな。あの戦争を」
「あの戦争? 何のことです?」
「今から20年前のことだ。我が国『アストラル王国』と隣国である『ヴァルカン帝国』は、とある土地を巡って戦争をしていた」
「そんな戦争があったのですか。まったく知りませんでした。ですがなぜ今その話を……?」
「それはな、あの魔導人形というものが先の戦争の際ヴァルカン帝国が使用していた死なない兵だったからだ」
「なっ!? と、ということは、今回の事に帝国が関与していると?」
俺がそう言うと、辺境伯様は首を横に振る。
「分からん。なにしろ20年前のこと。あの頃の魔導人形とはずいぶん違っているし、魔導人形について研究する時間も十分にあった。帝国以外がこやつらを作り差し向けている可能性は大いにある。だが……」
「それでも帝国が最も怪しいというのは確かだ。そのことについて確かめるためにも、ここであの魔導人形たちを全滅させておきたいですね。辺境伯様」
「その通りですな。伯爵様」
な、何が何やら訳が分からない。
魔族の脅威が現れたと思ったら、今度は王都に行けと言われ、挙句の果てには男爵領まで来て、今度は隣国が関わってるかもしれないって……?
俺のスローライフはどこに行ったんだよ。
ああ、もう最悪だよこれ!




