第41話 摩天楼と3層構造
なぁにこれ?
目の前に広がるのは想像していた魔法都市の景色とは全く違う、むしろ現代日本に近い、いやそれ以上に発展した未来都市だった。
中央に聳える王城は、まるで城というより超高層ビルのようで、まさに天を衝く摩天楼のようだ。
最初にあれが王城だと聞いた時はとても信じられなかった。
そして、王城の周りには高層ビル群が立ち並び、人々は一切の危険無く整備された地面を歩いている。歩いているのは人か猫か犬くらいで、馬車の姿は見当たらない。
代わりに空には車の様な物が全くぶつかる気配もなく、まるでそこに道があるように一列に並んで飛んでいた。
伯爵様によると、あの空飛ぶ車のような物体は、運転席に人が乗っておらず、決まったルートを自動で飛ぶように設定されているらしい。
「それでは、私と伯爵様は王城に行ってくる。カイララとバネッサ、それからマリーくんは王都の観光でもしていてくれ。ただし、これから聞く話次第ではすぐに出発することになるかもしれん。いつでも出れる準備だけはしておいてくれよ」
「わかりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
辺境伯と伯爵様、それから護衛の騎士達を見送って、残った俺たちと少数の兵士は辺境伯様がおっしゃったとおり、いつでも出発できるように全員で行動することになった。
ただ、今までと比べれば人数は少ないと言ってもそれでも10人はいるため、観光として動き回るには向かない。
結局俺たちは空飛ぶ車モドキに乗るのは諦め、徒歩で移動できる範囲の観光に留めることになった。
それにしても、この王都の風景というのはどこか現実離れしていて異様に見える。前世の日本の街と遜色ないというのも勿論だが、何より驚くのは街の上に天井があるということだ。
この天井は一体何なのか、そしてなぜ天井があるにもかかわらず、太陽光がしっかり降り注いでいるのか。気になってバネッサさんや残った兵士に聞いてみても、その答えは得られなかった。
今まで当たり前すぎて気にも留めてなかったそうだ。こんな事なら、伯爵様がいる間に聞いておけばよかった。王都に着く少し前から謁見の準備で忙しそうにしていたから、邪魔しないように話しかけなかったんだ。
ではこの王都の歴史が知れる場所に行って、この街について調べればいい。
そう考えた俺は、皆にお願いして街の図書館に行くことを了承してもらった。
それで、全員図書館の場所を知らないってことで、そこらにある案内板を見て行き方を調べようとしたんだけど、なんとこれがタッチ操作で動かせる地図だった。
これじゃまるで地図アプリだ。しかも、音声に行きたい場所を聞かれて答えると図書館への行き方が表示されて、そのあと同じ音声でその場に待機するように言ってくる。
数秒その場で待っていると、『出発します』という声がしたと思ったら次の瞬間なんと足元の道路が浮き上がって動き出した。動く歩道どころじゃない、これじゃあまるで水平エレベーターだ。
「おいおい、発展しすぎでしょこれ!」
これじゃあ魔法ファンタジーというよりSFの世界だよ。
水平エレベーターに乗ってしばらく進むと、大通りに出てそこからは動く歩道に乗っての移動に変わった。ここからは自由に動けるようになったわけだが、案内はちゃんと続いていて、足元に図書館の方向が矢印で示されている。
そのまま案内に従って進んで行けば、あっという間に王立図書館に到着した。
図書館の中は正に想像通りの図書館と言った感じで、分厚い本がジャンルごとに分けられ背の高い本棚にぎっしりと詰まっていた。
この量から本を探すのは一苦労だが、それも図書館の楽しみの1つ。さっそくこの町の歴史について探そうと歩き出したところで、受付のゴーレムが現れる。
「いらっしゃいませ。どのような本をお探しでしょうか?」
「この王都の歴史を知れる本を探しているんだけど、特に街の天井について詳しく知れるものはあるかな?」
「もちろんございますよ。本を手に取ってお読みになりますか? それともパネルで読まれますか?」
パネル……まあそうだよな。他があんな風なのに、図書館だけ魔法っぽいなんてことはないわ。
パネルで読めるならわざわざ紙で読む気は起きない。本好きなら紙の本が最高だというかもだけど、俺は情報が得られれば良いし。
「パネルでお願いします」
「かしこまりました!」
マリーちゃんが作り出した土のゴーレムとは似ても似つかない、人型の人間と見まごう如きゴーレム。彼女は俺にブレスレットを渡すと、本の読み方を丁寧に教えてくれて、その後所定の位置に戻って行った。
「ブレスレットをつけていれば、空中のパネルを出したい場所に数秒手を置くことでウィンドウパネルが表示される……よし、できた」
なんかちょっと『設計図』スキルのディスプレイ型設計図に似てるな。ボタンのUIとか。
パネルが表示されると、さっきまで読みたいと言っていた関連の本がずらりと現れる。さっきのゴーレム司書によれば、ここからは手を使う必要はなく思考するだけで操作できるのだそうだ。
俺は早速、王都の歴史という本を読もうと思考し、目次から一番知りたかったことに関するページを探し出して開こうと考える。すると、書いてあったその通りのページが開かれた。
前世でも視線でページをめくることができる電子書籍アプリとかあった気がするけど、思考を読んでいる分こっちの方が誤作動がないから良いんじゃないだろうか。
次のページをめくろうと思えば次のページを開いて、戻ろうと思えば前のページに戻る。おかげで知りたかったことをじっくり読んで理解することができた。
「なるほど、あの天井は農業を行うための階層で、その上には畜産用の階層があるのか。太陽光は王都を覆っている魔法障壁に集光と屈折の魔法を重ねて3層すべてに必要な量を届けていると」
この構造、前世のネット記事で見た気がするな。たしか、未来都市はこうなるという予想図がこんな感じになっていたと思う。
なんかもう、本当に前世の未来を見ているようで、胸がいっぱいだ。どうして俺はこの王都に生まれなかった。ここで生まれてたら何の苦労もなくニートでいられたかもしれないのに。
「カイララ、私お腹空いてきた」
「ああ、ごめん。明るかったから分からなかったけど、もうそろそろ夕食の時間だよな。じゃあ皆で近くのご飯屋さんに行こう」
今日は緊急の呼び出しで出発してからこの方、昼は軽食を摂ったぐらいでまともな食事はしてなかったんだよな。
伯爵領は辺境伯領と違って南北に長い形じゃなく東西に長い形だったからすぐに抜けられたけど、王都にたどり着いた頃には流石に遅い時間になっていた。
今の時期は日が高い時間が長いから、たどり着いた頃はまだ夕方という感じじゃなかったものの、いま外を見ると暗くなってきているのが分かる。
おそらく時間の感覚がずれたのは、さっきの本に書いてあった王都を覆う魔法障壁による集光の影響もあるのだろう。
図書館を出ると、俺たちはすぐ近くにあったファミレスのような飲食店に入った。
事前に調べていない飛び入りだからどんなメニューがあるのかは分からないけど、まあ、それも楽しみの1つだよな。
だが、入って早々俺は思わず変な顔をしてしまった。そこにまさかの光景が広がっていたからだ。
「回ってる……」
視界に入ったのは回転寿司のレーンのようなもの。だけど回転しているのは寿司ではなく……カバーに覆われた定食だった。
そう、ここは回転定食屋だったのである。




