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第40話 完全魔法都市・王都ファラリス

 1億ボルトのいかづちは、無数のキマイラたちを一瞬にして滅ぼした。


 数珠つなぎに高い位置に居たものから大地に立っていたものまで、そのすべての体に駆け巡った電流は、電撃に弱いキマイラの毛皮を燃やし尽くし、しっぽのヘビは蝋燭のように残り火を灯す。


 車の中に居た俺たちに被害はない。ひとり俺の腕を掴んで震えている者がいるが、それだけで全員無事だ。


「マリーちゃん、終わったからもう離れてもらっても良いよ」


「むり」


「そ、そっか」


 腕が痛いんですが……こりゃあとうぶん離してもらえそうもないな。


 まあ、握りつぶされるほどじゃないし、怖かったなら仕方ないか。


「伯爵様は大丈夫でしたか?」


「あ、ああ、体は何ともない。だが、目がまだ少しくらんでいるな」


「そうですか、それは直に治りますので問題は無さそうですね。それじゃあ、僕はこんな状態なのでバネッサさん、お1人で荷台に出てもらってまだ生きていそうなキマイラが居たらガトリングガンで仕留めてもらえますか?」


「わかった。任せときな!」


 バネッサさん今にも踊りだしそうな感じで出てったな。ガトリングガン、気に入ったのか?


 とりあえず、これで万が一の生き残りは潰せた。


 バネッサさんが外に出て言った直後、無線が呼び出し音を鳴らした。

 無線、雷でダメになってなかったか。良かった。


「こちらトラック、カイララです」


『よかった。無事だったか!』


「ええ、何とか。無線が無事だったのはちょっと驚きでしたけど。辺境伯様の方はいかがですか?」


『こちらも全員無事だ。キマイラはこちらには1匹も来なかったからな』


「そうですか。それならよかったです。今バネッサさんが生き残りが居ないか見てくれているので、それが終わり次第そちらに合流します」


『了解した』


 ふぅ……なるほど、1匹も向こうに行かなかったのか。だとすると、狙われたとしたら必然的に対象の人物はひとりに絞られる。


「伯爵様、辺境伯様の方には被害は無いようです。どうやら全てのキマイラが僕たちのトラックに引き寄せられてくれたみたいですね」


「そうか、それは良かった。しかし、あれだけの数がいたのに1匹も向こうに行かなかったとは、これは奇跡か、それとも君の不思議な力がなせる業なのか」


「ははは、そんな業なんてありませんよ。偶然です」

 

 伯爵様の反応を見るに、伯爵様自身がキマイラたちを引き寄せる何かを仕込んでいたということはなさそうだな。そもそも、そんな事をしても伯爵様にメリットがない。


 やはり伯爵様が誰かにキマイラを差し向けられたと見た方が自然だな。


 でも、ここで伯爵様に狙われる理由とか、心当たりを聞くのは止めておこう。自分だけの問題じゃないんだ。辺境伯様に話してみてからでも伯爵様に問いかけるのは遅くはない。


 そうこうしていると、運転席後ろのドアが開いてバネッサさんが戻って来た。


「生きているキマイラは1匹もいなかった。せっかくまたアレをぶっ放せると思ったのに、残念だ」


「生きてるやつが1匹もいなかった安堵より、ガトリングガンを撃てなかった残念感が勝ってるんですか? よほどガトリングガンを気に入ったんですね、バネッサさん」


「ああ! あれは最高だぞ! カイララもデカくなったら撃ってみるといい!」


「い、いやぁ、僕には無理じゃないかなぁ」


 そこまで筋肉マッチョに鍛えるつもりないし。仮に筋肉がついたとしてもバネッサさんみたいに軽々と扱えるようにはならないだろう。


 でもマリーちゃんならいけそうな気がするな。俺の腕を握りつぶせそうなくらい今でも力強いし。背も俺よりずいぶん高いし。


 バネッサさんの報告を聞いて、俺たちはトラックを動かして移動を始めた。

 道中に落ちているキマイラの死体はマリーちゃんの土魔法で作ったゴーレムにどかしてもらい、少し時間はかかったものの無事に辺境伯様たちと合流することができた。


「遅くなりました」


「来たか。キマイラを退けた方法についてやその他諸々、話したいことは幾らかあるがそれはまた後にしよう。キマイラとの戦闘で兵たちの消耗が激しい、ここまで来たら王都に入ってしまった方が休めると判断した。来て早々すまないが早速出発しようと思う。構わないか?」


「ええ、問題ありません。私達はキマイラ討伐にはあまり参加していませんし、先ほどの戦闘でも特に疲れるようなことはしていませんので」


「そうか。ではすぐに出発する。陣形はすでに整っているから、お前たちは後からついて来てくれ」


「承知しました」





 そこからの道のりは順調そのもの。特にトラブルもなく、モンスターと遭遇したり野盗に襲撃されることもなかった。


 王室領に入ってからというもの、何処か雰囲気が辺境伯領や伯爵領よりも穏やかに感じられる。


 道も俺たちが先頭を走って整地する必要もないぐらいにしっかりしたレンガ造りの道になっているし、やはり王室直属の領地というのは格が違うらしい。


 おそらくモンスターや野盗に出会わないのも、定期的なモンスターの間引きと徹底した野盗の討伐が行われているのだろう。


「伯爵様、王都とはどのような場所なのか聞いてもよろしいでしょうか?」


「そうだな。ひと言で言えば、完全魔法都市だ」


「完全魔法都市?」


「完全魔法都市とは、都市における全ての物事を魔法によって成している都市のことだ。例えば、我々は飲み水を確保するのに川から水を引いて来たり井戸を掘ったりするが、王都ファラリスでは違う。全ての水が魔法使いの魔法、もしくは魔石からの供給によって賄われている。その他、移動、照明、温度調節、防衛、攻撃、その他もろもろ、ほとんど全てに魔法が使われているのだ」


 完全魔法都市か、俺たちの村や辺境伯領では魔法よりスキルが重要という感じだったけど、王都では魔法の方が重要視されているんだな。


 しかし、王都と言えば巨大な都市と相場が決まっている。それだけの都市全体を魔法で動かしているとなると、かなりの数の魔石や魔法使いが必要になってくるはず。それって、王都以外の国のすべての地域から魔石を集めてるってことだよな?


「俺たちってもしかして、王都の奴らに搾取されてるのか?」


「ん? カイララ君は何か勘違いをしてしまっているようだな。王都はそれらの魔法を使うために他の地域から過剰に魔石を集めたりなどはしていないぞ」


「えっ? で、でも、王都全体でそれだけ魔法が使われているなら、それ相応の数の各種魔石が必要になるのでは?」


「そんな事をしていれば、10年もすれば需要と供給が追いつかずに国が崩壊する。それら属性魔石を使用するとは別の手段が王都にはあるのだよ」


「それは僕が聞いても良いことでしょうか?」


「構わない、一般にも知れ渡っていることだからな。王都を魔法に浸しているのは「『虹の魔石』という、巨大で様々な色の輝きを宿す魔石だ」


「虹の魔石、ですか」


 なるほど、その巨大な虹の魔石は全属性の魔法を使用することができて、その巨大さから内包する莫大な魔力が王都全体を、まさに完全魔法都市と言えるほどに魔法で満たしているというわけか。


 とりあえず俺たちが搾取されていないということは分かった。だけど、完全魔法都市、一体どんな姿をしているのだろうか。


 やっぱり箒に乗って移動する人たちがいたり、魔法の絨毯が空を飛んでいたりするのかな?


 魔法都市と言われて想像するのは、前世で見たイギリスの魔法学校が舞台の映画。フクロウが飛び回り、ブラシがひとりでに鍋を洗い、暖炉に粉を振りかけてワープする。そんな景色。


 だんだんとワクワクしてきて、早くこの目で見たいとソワソワしていると、やがてバネッサさんが一言こう発した。


「見えたよ。王都だ!」


 俺にはまだ全然見えていないのに、バネッサさんどんだけ目が良いんだよ。


 でも、バネッサさんが見えたというのなら双眼鏡を使えば俺でもよく見えるはず。


 俺は懐から双眼鏡を取り出して、王都を見ようと最大倍率にして覗き込んだ。すると、目に飛び込んできたのは……


 「わぁ! 車みたいなのが空を飛んでるぞ!」


 想像してたのと全然違うんですけど!?


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