第4話 鉄製品を作りたい!
マリーちゃんのスキルレベル10の試練は野菜の種、もしくは苗を入手して植える事だった。
ちょうど今日の作業行程でトマトの苗を植えたので、マリーちゃんの『家庭菜園』スキルはレベル11に上がった。
そしてなぜか俺の『設計図』のスキルレベルも3に。これはたぶん自分の作ったスコップで作業したからかな?
『家庭菜園』のスキルは、レベルが上がるごとに作物や土壌に影響を与える。レベルが高くなれば時期に関わらず野菜を育てることが出来るようになるというのだからちょっと驚きだ。これでもまだ下級スキルだなんて信じられない。
ああ、言い忘れていたけどスキルには下級、中級、上級がある。
例えば『家庭菜園』で言うと、順当にスキル進化すれば中級で『農家』、上級で『大農家』となる。
ただスキル進化は複数ルートに分岐する事もあるらしいので、全く関係のないスキルに変わってしまう事もあるらしい。
そもそもスキル進化にかなりの年月がかかる事もあって、進化キャンセルする人も多いんだとか。
そりゃそうだよな。50歳になってからこれまでの生活を一変させなきゃならない可能性なんて、普通の人は追いたくないだろうし。
あ、ちなみに上級スキル『大農家』は、母さんのご先祖様が持っていたから知ってるだけでその他にどんなスキルがあるのかは知らない。
いやー、しかしスコップだけであれだけのレベルアップ効果があるなら他の農具を作ったらどうなるんだろう?
「なんか楽しくなってきた!」
ただ悲しいかな、俺はまだ6歳だから刃物は使えないし、この村には使える鉄がほぼ無い。あったとしてもこんな子供には使わせてもらえないだろう。
「それに鉄を加工するなら専用の施設がいるしなぁ……」
一応村には一軒だけ鍛冶屋がある。けど火事が起こることを警戒してか村の外れに建物があって、今の俺だと行きづらい。
「仕方ない、木の鍬とか木のスコップ(大)でひとまずは我慢するか。来年になればもう少し自由に動けるようになるだろうし」
そうして俺は次の日から兄ちゃんの助けを借りて農具を作ったり、母さんや兄ちゃんのお手伝いをしたりを続け、そんなこんなであっという間に一年が過ぎていった。
7歳になった。兄ちゃんは小さい獲物は一人で獲れるようになったし、俺もちょっとは成長した。筋肉はないけど。
ひとまず最初にあれからどうなったかを話そう。
あのあと農具を作っては母さんとマリーちゃんに使ってもらい、その度に作業効率が上がって2人のスキルレベルも上がっていった。
結果、母さんの『家庭菜園』はレベル61。
マリーちゃんの『家庭菜園』はレベル43にまで上がっている。
中盤に差し掛かってレベルの上がりが悪くなっている母さんのスキルレベルが10以上も上がった事にも驚きだが、マリーちゃんの上がり方はもっとおかしい。
やっぱり若い方が上がりやすいとかあるのだろうか?
母さんのレベル50の試練で菜園も少し広げて野菜も玉ねぎが新しく植えられるようになったからご飯のメニューが増えた。やったぜ。
で、肝心の俺だけど、『設計図』のスキルレベルはいま20まで来ている。ただ20から先は上げる事が出来なかった。
何故ならレベル20の試練が鉄製品の製造だったからだ。
鉄製品は、6歳の間は解禁されることはなかった。しかし、7歳になった今、その枷は撤廃される。
俺は村の中ならどこでも自由にいける権利を得たのだ!
7歳の誕生日の翌日。俺は満を持して村外れの鍛冶屋に向かう。
「こんちわー」
「いらっしゃい! ってなんだ、ダンペルのところの次男じゃねーか」
「カイララです。よろしくお願いします!」
「おう! 俺はゴランだ。よろしくな! で、今日はどうしたんだ? 親父やお袋さんはどうした?」
「今日で7歳になったから村の中を見て回ってるんです!」
「ほぉ、もうそんな歳か。前に見た時はまだこーんなに小さかったのになぁ」
鍛冶屋のおじさん、「こーんなに」って言う時のジェスチャー、指の隙間が全然空いてないじゃん。昔の俺はミジンコかなんかだったのかよ。
「7歳ってこたぁ、スキルももう分かったのか?」
「はい! 『設計図』ってスキルでした!」
「設計図? 狩人じゃなかったのか。そりゃあ珍しいな。爺さんも狩人で親父も狩人だったってのに。しかし設計図か、聞いたことねぇスキルだなぁ」
ゴランさんはよっぽど暇なのか、俺みたいな子供の話にも付き合ってくれる。
この村で鉄製品なんて殆ど買うことないからな。そんなにすぐダメになるものでもないし。
この人、なんでこんな村で鍛冶屋やってんだろ?
まあいいか。そんなことより目的の物を貰えるかどうかが重要だ。
「あのー、ゴランさん。もしかして鉄屑とか貰えたりしませんか? 俺のスキルで試したいのがあって、少しだけで良いんですけど」
「ああ? そりゃダメだ。この村じゃ鉄は貴重だからな。どんな小さな鉄屑でも溶かして再利用しなきゃならねぇ。それにオメェ、鉄屑やった所で加工なんか出来るのか?」
「う、そ、それは……分かんないです」
「だろうなぁ。鉄を加工するには重てぇハンマーでぶっ叩くか、普通の火よりも熱い炎が必要不可欠だ。オメェにはまだ無理だろうよ。どっちもな」
至極もっともな意見だ。鉄屑と言えど加工するための道具や施設がなければ意味がない。
ではどうするか。自分で出来ないなら、人を使うまでだ。
この一年間で俺はスキルを使いまくった。農具はもちろん、子供達の鍛錬用の木剣や遊び道具の木のお人形、ブーメランなんかも作ってみた。その過程でスキルに対しての理解が深まり、ある事実が浮かび上がったのだ。
それは、設計図を持つ俺が指示して誰かに道具を作らせるという方法。
これによって浮かび上がったスキルの仕様は3つ。
1.俺が指示して誰かに物を作らせる場合、対象の人物はあたかも作り方を知っているかのように動き、対象物を作り上げる事ができる。(これについては前に兄ちゃんが言ってたね)
2.制作の工程で自分が一切手出しをしなくとも、スキルの効果は発揮される。
3.誰かに製造をやらせて監督するだけでもスキルレベルは上がる。(たぶん試練もクリアとみなされる)
7歳になったと言ってもまだ子供。自由に素材を使えないのは分かりきってる。出来れば最初の鉄製品制作は自分でやってみたかったけど、この際仕方がない。
「ゴランさん、ちょっと作りたいものがあって。手伝ってもらえませんか?」
よーし、職人の創作意欲に火をつけるぞーッ!