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第39話 伯爵領を抜けて

 キマイラの群れはバネッサさんの操るガトリングガンによって撃ち落とされた。


 ある個体は崖下に落下し、ある個体は道に落ちて来て騎士達に倒される。近づくことさえできれば、筋力マシマシの精鋭集団が負ける道理はない。


 まず最初にしっぽのヘビと胴体を切り離し、その後は固い皮膚をもろともせず滅多切りにされる。そうして、ほんの数分のうちにキマイラは物言わぬ屍と化した。


「ヒャッハー! こいつがあればあんなバケモンなんぞ敵じゃないよ!」


「バネッサさんテンション高けー。ところで、バネッサさんってお付き合いしている人っていますか?」


「あん? 何か言ったかい? 声が小さくて聞こえないよ! 男なら腹から声だしな!」


「はいッ! すみません!」


 キマイラに囲まれていた危機的状況から脱したこともあって、辺境伯領の騎士や兵士、それと伯爵様の護衛の方々もみんな喜んでいる。


 そのせいで俺の声はバネッサさんに届かなくて、ちょっぴり激を飛ばされてしまった。くっ、かなり勇気を振り絞っての質問だったのに! 


 まあでも、バネッサさんに激を飛ばしてもらえたのは嬉しかったな。ちょっと気持ち良い感じ?


 バネッサさんカッコいいし綺麗だし、俺めっちゃ好きだなぁ。歳は結構離れてるけど、ワンチャンないかな?


 そんな風に思いながらボーっとバネッサさんを眺めていたら、不意に後ろから誰かに腕を掴まれた。


 振り向けばそこに居たのはマリーちゃん。左腕をガッチリ掴んで、万力のように締め付けてくる。


 い、痛い! いつの間にこんなに力が強くなったんだ?


「まっ、マリーちゃんどうしたの? ちょっと腕が痛いんだけど、離してもらえるかな?」


「むう……私も筋肉ある」


「うん? ま、まあそうだね。マリーちゃんも随分逞しくなったよ。カッコいい!」


「むふふ、私カッコいい?」


「す、凄くカッコいいよ! 憧れちゃうなぁ。は、ははは!」


 そう言うと掴まれていた腕の力が弱まった。

 あぶねえ、もう少しで握り潰されるところだったわ。

 マリーちゃんだけは怒らせないようにしよう。


 そうして、なんだかんだありつつお祝いムードの中、辺境伯様が車の窓を開けて一言いい放った。


「追加が来ているぞ! 気を抜くでない!」


 その声で一気に全員が我に返る。そして、その辺境伯様の言葉通り、背後から無数のキマイラがこちらに向かって来ていた。 


 そうか、ガトリングガンの騒音が呼び寄せてしまったんだ。


 しかし、あれはヤバイ。数が多すぎる。

 いくらガトリングガンがあると言っても、あの数は無理だ。


 もうこれは逃げるしかない。


 俺は急いでトラックの運転席に戻ると、伯爵様に問いかける。


「ここからあとどれぐらいで山岳エリアを抜けられますか?」


「中腹は過ぎたが、まだ道は長い。車の速度で行けばあと2時間ほどといったところか。だが空を飛んでいる奴らには絶対に追いつかれるだろう。山道は真っ直ぐではないからな」


「なるほど。ではもし、なるべく真っ直ぐな道があればどうでしょう?」


「それなら30分もかからないだろうが、何か策があるのか?」


「ええありますよ。ですがこれには時間制限があるんです。まあ、30分ならなんとかなるかもしれません」


 実験では30分たつ前に消えてしまっていたけど、この状況ではやるしかない。


 運転席のハンドルの左、普通の車ならラジオなどが積んであるあの位置に置かれた無線を手に取って、発信先を辺境伯様の車にあわせる。


「辺境伯様。あの数のキマイラは相手に出来ませんので逃げます。あれを使用しますので、トラックの後ろを付いて来るように通達お願いします」


『あれか……大丈夫なのだな?』


「はい。あれから多少改良もしましたから、伯爵様に教えていただいた山道を抜ける所要時間ぐらいはもちます」


 ……たぶん。いや、改良したつもりではある。


『よし。では準備にかかってくれ』


「了解!」


 辺境伯様は直後に騎士、兵士たちに向けて迅速な通達を行う。すると、キマイラと戦うために前に出ていた騎士、兵士たちがトラックの後ろに下がって陣形を組み始めた。


 俺はその間にガトリングガンを構えて今にもぶっ放そうとしていたバネッサさんを車の中に戻し、いつでもトラックが発進できるようにトラックの向きを整えてもらう。


「カイララ君、何をしているんだ? こちらは崖の方向だぞ」


「これで良いのです。まあ、見ていてください」


 サイドミラーを見れば、キマイラたちがもうすぐそこまで来ているのが見えた。

 皆、急いで陣形を整えてくれ!


『カイララ、陣形は整った。発進しろ』


 その領主様の言葉を聞き、俺はハンドルについているいくつかのボタンの内の1つのカバーを開けた。


「了解。魔法障壁型道路生成システム起動。発進します!」


 ボタンを押した瞬間、トラックの足元から進行方向に向かって青白い半透明の魔法障壁が、道路を形成しながら伸び始める。


 そして、バネッサさんがアクセルを踏み込むと、トラックは魔法障壁道路に乗り最高速まで加速、そのまま山に沿って真っ直ぐ移動し始めた。


「こっ、これは!」


「魔法障壁で作った道路です。無属性の魔石を使用してこのトラックの足元に魔法障壁を発生させて、道路に成型するように構成を変えています。ハンドル操作で道の角度は変えられますし、一定時間で消えてしまいますがこの数が移動する間くらいは残っていますので、誰かが遅れてしまうような事さえなければ問題なく進めるはずです」


「す、すごいな。これなら本当に30分で山を抜けてしまえるぞ」


「ですが、この魔法障壁の道路もずっと出していられるわけではありません。なので伯爵様には最短で山を抜けられるよう案内をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「あ、ああ、もちろんだ」


「ありがとうございます」


 伯爵様に案内をお願いして、俺はチラッと後ろのキマイラたちの方を見てみる。


 戦っていた時に見ていて思ったのだが、奴らはドラゴンや鳥ほど飛行が得意なわけではないらしい。飛行速度はそこまで速くはないようで、今このトラックが出している時速100キロメートルならば少しずつではあるが距離を離せるようだ。


 ふう、これでひとまずは安心だな。あとは途中で新しいキマイラが前とか横とかから出てこないことを祈るばかりだ。





 それから1時間後、俺たちは山を越えて伯爵領の領都さえも越え、王室領へと足を踏み入れていた。


 だがなぜここまで急いで王室領へと入る事となったのか……それには大きな理由がある。


 それは、キマイラたちが山を抜けても俺たちを追いかけるのを止めなかったからだ。


 伯爵領は山を抜けるとすぐに伯爵領の領都が見えてくる。普段なら山からあまり離れたところまで出て行かないキマイラが、しかし今回はなぜか山を抜けても追いかけて来たため、領都へ立ち寄る訳にも行かず仕方なくそのまま魔法障壁の道路を作り続けて広大な王室領の方へと移動して来たのである。


「しつこいっての! いい加減山へ帰れよ!?」


「おかしい。こんな事は初めてだ」


「伯爵様、領都の様子はどうですか?」


「領都の方には1匹も向かっていないようだ。防衛障壁に反応が無い。やはりこちらだけを追ってきている」


 なんでだ? やっぱりガトリングガンで仲間をやられたせいか?


 でも、これまでだって人間に仲間をやられたことはあったはずだ。そう考えればこれは過剰反応に見える。


 例えば、誰かが俺たちをキマイラに襲わせたくて何らかの仕込みをしたとか?

 今この隊列には辺境伯様に加えて伯爵様もいるし、その可能性は十分あり得る。


「とはいえ、たとえそうだったとしても、今これを切り抜けないと真相は分からないか」


 王室領に入って、いま移動しているのは平原の上だ。流石にそろそろ魔法障壁の道路は使えなくなるだろうし、仕方ない。気は進まないけどあの魔法を使うしかないか。


「辺境伯様、これから皆さんを平原に降ろします。そうしたら皆さんはそのまま王都の方に進んでください。キマイラは僕たちが引き受けます」


『なに? しかし、あの数だぞ。引き受けたとして、逃げる手立てはあるのか?』


「大丈夫です。僕たちだけなら何とかなります。ただその手段を使うには皆さんに僕らから距離を取ってもらわないといけません。十分に距離を取ったら無線で知らせてもらえますか? そうですね……前方に見えている大きな岩の辺りまで行けば大丈夫です」


『分かった。君のことは信頼している。決して死ぬんじゃないぞ』


「もちろんです。僕はこんな所で死ぬ人間じゃありませんよ。それでは」


 そうして魔法障壁の道路を解除すると、俺たちは皆が向かう方向とは逆のキマイラの群れが向かって来ている方向に走りだした。


 空は雲1つ無い快晴か。これは仕込みが要るな。


 まずはアンテナだ。荷台にあった適当な金属の棒を天に向かって突き立てるように設置する。


 次に水魔法で大量の水蒸気を発生させ、キマイラたちの注意を引く。これで奴らはこっちに釘付けになるだろう。


 そうしたら後は水蒸気を出し続けて、奴らが来るのを待つだけだ。


 十数分後、先頭のキマイラが到着し、俺たちに攻撃を仕掛け始める。俺たちはこれをトラックに仕込んでいた防衛用の円形障壁で防ぎ、出来るだけ奴らが集まって来るまでその場で待機した。


 そうすると、しばらくして空も大地も一面がキマイラで覆われた。


 これで準備は完了。


 上空には、馬鹿みたいに口から炎を吐いたり空を飛び回っている奴らの熱で発生した上昇気流が、水蒸気を空高くまで運んで雲を形成している。


 そして、待ちに待った辺境伯様からの無線通信が来たことによって、俺の最強魔法攻撃が始まった。


 ……バチッ……バチバチバチッ!


 必要なのは、ほんの少しの電気。


 呼び込むのは1億ボルトのいかづち


 …… サンダー・ボルト!


 その瞬間。俺たちは真っ白な光につつまれた。

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