第38話 キマイラと機関銃
キマイラが3匹、俺たちの前に立ちふさがっている。
これに騎士達は前に出て来て対応するのだが、炎と氷のブレスと飛行能力に苦戦してしまっていて、状況は良いとは言えない。
騎士たちの中には雷属性の魔法の使い手が少なく、また雷属性の魔法を使えるとしても空を飛ぶ相手に当てるのは至難の業だ。
雷の魔法は他の魔法に比べて環境に影響されやすい。遠距離にある物に対して真っ直ぐ放とうとしても、近くに電気を引き寄せるようなものがあれば引っ張られてしまう。
ここは木が多いので、飛び回るキマイラよりも木の方に寄ってしまって電撃が逸れるばかりだ。
やっぱり雷魔法は直接攻撃が望ましいな。
いま騎士達は風魔法で飛行を乱して落とそうとしたり、弓で撃ち落とそうとしたりしているが、どうにも上手く行っていない。
キマイラの飛行能力は意外と高いようで多少の風にはびくともしない。
そもそも今いる場所が右は壁、左は崖という状態なのでそもそも自然の風が強いのだ。そりゃ風魔法じゃどうにもならないだろうよ。
しかし、俺たちは待機しているように命じられたとはいえ、こう状況が進展しないともどかしいな。
キマイラは攻撃方法がブレス以外にも羊っぽい頭の角で突き刺そうとしたり、ライオンっぽい頭で噛みつこうとしたり、かと思えばしっぽのヘビが巻き付こうとしたりする。
とんでもない連続攻撃だ。
しっぽに毒あったりするのかな? あったらもっと厄介だぞ。
「こりゃあ埒が明かないね。私が出て行っても何も変わらないか」
「ですね。剣や槍では届かないし、接近してきた個体を攻撃しようとしても、別の個体がブレスで援護している。奴ら意外と頭が良いのか?」
「カイララの魔法で何とかなったりしない? たしか雷の魔法使えたよね?」
「本職の騎士の人たちにも雷魔法使える人はいるでしょ。俺の雷魔法はそこまでだし、本職の人たちが対応できてないんだから、俺が出て行ってもどうにもできないよ」
まあ、他にどうにか出来そうな手段はあるんだけど、騎士の人たちのメンツをつぶすのもなんだしな。
それに、辺境伯様ならともかく伯爵様にアレを見せてしまっても良いものか、ちょっと計りかねてるんだよね。
伯爵領の発展ならともかく、アレを知られてこっち系も要求されたらどうすりゃいいのかちょっと分からない。見られたら突っぱねるのも領同士の反発材料になってしまうかもしれないからな。
だけど、騎士達が危なくなったら流石に手を出さないわけにはいかないよなぁ。
「まずいな。戦いの音につられて他のキマイラたちが集まってきたようだ」
「これはもう撤退するしかないでしょうか?」
早くもピンチきた!?
「は、伯爵様の護衛の方々が参戦してくださってもあの数は厳しいですか?」
「ああ、厳しいだろう。我々もキマイラの相手は慣れているとはいえ、こう足場が少ないとな。3匹ならまだしも、それ以上となると相手しきれん」
マジかよ。だったら、3匹しかいないうちに伯爵様の護衛の方々にも参加してもらえばよかったじゃないか。
連れて来ていた軍の人数が多かったのと、元々ここは辺境伯領から来た俺たちだけで抜けて行く予定だったのもあって、辺境伯様が辺境伯軍に任せてもらうように言ったのが、そもそも間違いだったんだ。
やっちまったな。俺も何だかんだ辺境伯軍の力を知ってたから何とかなるだろうと高をくくって黙ってた。
……しゃーない。こうなったらもうアレを使うしか、ここを切り抜ける方法が思い浮かばん。
「バネッサさん、すみませんが俺と一緒に後ろの扉から荷台に出てもらえますか?」
「いいけど、何をするつもり?」
「状況がヤバそうなんで秘密兵器を使います。俺の体格では使えないので、バネッサさんに使ってもらいたいんです」
そこで伯爵様が俺に質問して来る。
「その秘密兵器でこの状況を何とかできると?」
「はい。もしかすると倒しきる事は出来ないかも知れませんが、それでも奴らを地面に落とすことはできるはずです」
「そうか……では私とこの子は君たちの邪魔にならないようにここで見物させてもらうとするよ」
「ご配慮ありがとうございます」
俺はバネッサさんに師事して戦闘能力も磨いているというマリーちゃんに伯爵様を任せ、バネッサさんと一緒に荷台へと出て行く。
すると、トラックの中にいた時にはあまり聞こえていなかった兵士たちの怒号と、キマイラの2つの生物の声が混ざり合った気味の悪い鳴き声が嵐のように耳に飛び込んできた。
「さて、カイララ。本当にあのキマイラたちを落とせるんだろうね?」
「もちろんですよ。伯爵様によるとキマイラは魔法を使わない。ということはドラゴンのように飛行に魔法を使用している訳じゃないってことです。なら、あの翼をぶっ飛ばしてしまえば2度と空へ戻って来ることはありません」
「それができればの話だけどね。それで、その秘密兵器とやらはどこにある?」
「この辺りに部品の状態で散らばってますよ」
「はあ!? それじゃあすぐに使えないじゃないか!?」
「大丈夫ですよ。俺とバネッサさんがいればすぐに組み上げられます。その間、もう少しだけ騎士の皆さんと伯爵様の護衛の方々には頑張ってもらいましょう。なに、俺のスキルがあれば、ほんの1分程度で組み上げられますよ。この……機関銃をね」
◆◇◆
俺が作った機関銃は、正確にはドラゴンを倒すことを想定した大型のガトリングガンだ。
ヘリコプターの横についているような大きさのこのガトリングガンは、当たり前だけど人が単身で使うようには出来ていない。
だけど、まれに人間の中にも規格外というのが現れるもので、身近に居るその規格外の代表例がこの身長2メートルで筋肉ムキムキの女兵士、バネッサさんだ。
後から増えたキマイラを伯爵様の護衛の方々が抑えている間、俺は設計図のスキルを全開で使用してガトリングガンを僅か50秒で組み上げた。
後はバネッサさんにぶっ放してもらうだけだ。
バネッサさんはその余裕で100キロ以上ある馬鹿重いガトリングガンを軽々と持ち上げると、キマイラに向かって構える。
俺はそんなバネッサさんの隣に付き、弾丸が絡まないようにベルトを支えて待機していた。
さて、ガトリングガンはキマイラにどれぐらい効くかな。
「このトリガーを引けばいいんだね?」
「はい。それで弾が出ます。ただ、これだけ大きいと反動もかなりのものだと思うので、しっかり踏ん張って照準を逸らさないように頑張ってください。もし逸れて人にあたったら、その人は一発で終わりですよ」
「なるほど、ならまずは慣れないといけないね。じゃあ最初はあそこを飛んでる3匹を撃つよ」
「了解です」
バネッサさんが上空から火を噴いている3匹のキマイラに照準を合わせて、トリガーを引く。すると、直後に連続した激しい轟音とカランカランと薬きょうが荷台の床に落ちる音が鳴りだした。
バラバラバラバラバラバラ。
カランカランカランカランカラン。
トラックは軽い地震が連発しているかのような振動に襲われ、狙われたキマイラたちは、翼を蜂の巣にされて崖下に落ちていった。
「まだまだいくよ! おらおらおらぁっ!」
ヤバイ。耳と体の感覚がおかしくなりそうだ。
急いで自分に『簡易耳栓』の魔法をかける。まだかなりうるさいけど、無いよりはマシだ。
バネッサさんに耳栓の魔法は……いらないな。




