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第37話 伯爵領のキマイラ

 辺境伯領から伯爵領に入ってすぐに伯爵様につかまっている俺たち。


 まるで待ち構えていたようなタイミングだったことからお察しの通り、伯爵様は俺たちが伯爵領に入って来る日時を見越して関所付近に待機していたらしい。


 どうして俺たちがこの時期に伯爵領を通ることが分かったのかというと、なんてことはない、伯爵様も王都に呼ばれていたからだった。


 約1年前から辺境伯領の発展が目覚ましいことは把握していたと話す伯爵様は、どうせならこの機会に辺境伯様に発展の理由を聞きたかったのだそうだ。


「それで、なぜ伯爵様は辺境伯様のリムジンではなく僕のトラックに乗っているのですか?」


「カイララ君ともっと話したいと思ってね。辺境伯様に無理を言ってこちらに乗せてもらう運びとなったのだよ」


「なるほど、ですが伯爵領の発展については王都から帰ってからでもよろしかったのでは? 今この場では具体的な話は出来ませんし」


「いや、具体的な話でなくて良いのだ。ただ、君がこの伯爵領を見てまずどう改善していこうかという素直な考えを聞きたい。私はこう見えてこの歳で領主としてはまだまだ新参者でね。父からの代替わり就任したはいいが、これまで通りの領地経営を続けているのもつまらないと思っていたのだ。そんなとき辺境伯領の発展の噂を聞いて、実際に自分の目で確かめ、辺境伯様にならって私も同じように伯爵領を発展していきたいと思った」


「そして、それを先ほど辺境伯様と話したところ、僕が発展の立役者だとわかったので、はやる気持ちもあってこちらのトラックに乗り込んだ。と?」


「その通りだ。私は君から領地の発展の仕方について学びたい」


 おいおい、30中盤ぐらいのおっさんがこんな10歳の子供から学びたいだって? よくそんなこと真面目な顔で言えるなぁ。


 辺境伯様はできる領主って感じだけど、この伯爵様はやる気満々のイケイケ領主って風だな。だから今みたいなことを恥ずかしげもなく言えるのか?


 しかし、この真剣な眼差し、こりゃ帰って来てから伯爵領に詰めることになりそうな予感がするわ。


「分かりました。まあ、伯爵様には先ほど道の整地をする許可をいただきましたしね」


「ありがとう! ではこれから君のことは師匠と呼ばせてもらうよ!」


「いや、それはご遠慮します」


 それから俺たちは、運転しているバネッサさんを除いた、俺、マリーちゃん、伯爵様で伯爵領の地図を覗き込みながら案を出し合った。


 俺1人がブツブツ言ってるのもつまらないし、他の人の意見もあった方が良いしな。


 伯爵領を地図で見ると、伯爵領の土地は平地より山や渓谷が多い難しい地形だ。今進んでいるこの道も、途中で崖に沿うようになるみたいだし、この土地を治めるのはかなり大変だろう。


 そんな伯爵領の領都は領地の中央より北寄りにある。北の方は比較的平地が多いようだ。


 だから必然的に南の山岳地帯は人が居住している場所が少なく、街は1つもない。あって小さな村が少しといった具合だった。


「なるほど、では我が領地では辺境伯領での電気の確保方法は適していないということかな?」


「そうですね。ここは山や谷が多いですし、ダムを造ればやれない事はないでしょうが、ダムを建設するにはまず人が動ける状態でなくてはなりませんから、膨大な時間がかかります。だったら別の方法を使った方が良いでしょう」


「高速道路はどうだろうか?」


「そちらはまずルートの開拓が要りますね。おそらく造るとなったらまず山々にトンネルを通さなければならないと思われます」


「トンネルか。なかなか難しそうだ……」


「そこは任せて! 私が穴を掘る!」


「マリーちゃんは穴掘りのスペシャリストですから、彼女が居ればかなり早くトンネルは通せると思いますよ」


 辺境伯領とは全然勝手が違う。この山岳地帯、厄介極まりない。


 高速道路1つ通すだけで、辺境伯領の残りの高速道路ぜんぶ造るより時間がかかりそうだ。 


 この伯爵領を発展させるためには、まず何よりも北から南までの移動がスムーズにできることが必須。なにせ南の辺境伯領から伯爵領の領都まで行くのに毎回時間をかけて移動するとなれば、俺が動きづらいからだ。


 とは言えまさかドラゴンのリクセンに乗って移動してくるわけにもいかない。普通ドラゴンは人間の脅威、討伐対象でしかないからな。


 こりゃあ何か別の移動手段が必要になってくるかもな。例えばヘリコプターとか、海から移動するフェリーとか。


 待てよ、でも空を移動するにしても海を移動するにしても、生息してるモンスター次第では難しくないか?


 俺はその辺りの知識が薄い。ちょうど良い機会だしここで伯爵様に聞いておくか。


「伯爵様、トンネルを作るとしても、まずは脅威について知っておかなくてはなりません。この辺りで1番厄介なモンスターを教えていただけないでしょうか」


「そうだな、この辺りならやはりキマイラが最も厄介だろう」


「キマイラ? あの合成獣の?」


「ああ、頭は肉食獣と草食獣、胴体はその2匹が混ざり合ったような姿で、尾にはヘビ。背中にドラゴンの翼を有する化け物だよ」


 ドラゴンの翼。俺が知ってる前世のキマイラより部品が多いな。ってことは空を飛ぶのか?


「そいつは火を吐いたりもするのでしょうか?」


「火も吐くし、氷も吐く。雷が弱点だから雷魔法の使い手がいれば比較的安全に通過できるのだが、いなければ奴らの生息地域を移動するのは非常に困難だ」


「数はどれ程でしょう?」


「正確には分からないが、かなりの数が生息しているのは間違いない。いま進んでいるこの道は奴らの生息地域になるべく重ならないようになっているから、今回は見ないかもしれないがね」


 なるほど、だからこんなに大きく膨らんだ形で道が作られているのか。

 しかしそうなると、電力を得るために考えていた風力発電の案は厳しいかもしれないな。風車を山間に建てるのも難しいだろうし、何より建てた後に壊されることが容易に想像できる。


 それにトンネルを掘って道を通すのも、どうしたって途中外に出る部分が出てくる以上かなりルートが制限されるな。

 

「では、海ならどうでしょう? 海路では厄介なモンスターはいますか?」


「沖の方ならクラーケン、陸地に近いとキマイラが魚を探して飛び回っていると聞くな」


「またキマイラ!? どうなってるんです、この伯爵領は!?」


「そう言われても私に分からんよ。ただ、ここ最近キマイラの数が異常に増えているのだ。何か原因があるのか、調査しようにも危険すぎてあまり進展しなくてな」


 もう最悪だよキマイラ。 


 ……はっ! ま、まさか俺が貸してもらう予定の山にもいるのか?


「伯爵様、僕に採掘をお許しになる予定の山のことですが、まさかその山にもキマイラが……?」


「かなりいるぞ」


「かなりいるんかい!? もしや狙ってキマイラが多い場所を選んだとかではないですよね?」


「それは違う。正確に言えば、どの山を貸したとしても同じなのだ。キマイラの数は多い」


 マジか……そっちでも対策を考えないといけないのか。面倒だなぁ。


 俺がキマイラ対策をしなければならないことにウンザリして落ち込んでいると、これまで順調に走っていたトラックが急ブレーキで止まった。


「どうしたの、バネッサさん」


「どうしたもこうしたもない。前を見てみなバケモンのご登場だよ」


 バネッサさんに言われた通りフロントガラス越しに外を見てみると、そこには『頭は肉食獣と草食獣、胴体はその2匹が混ざり合ったような姿で、尾にはヘビ。背中にドラゴンの翼を有する化け物』が巨体で道を塞いでいた。


 こいつはどっからどう見ても正真正銘のキマイラだ。


 しかも3匹もいる。


 この道は生息域に被らないように作られたんじゃなかったのか?


 っていうか俺思ったんだけどさ。もしかして伯爵領って、滅びかけてね?


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