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第34話 領都に公営ラジオが流れた日

 領主様の許可が出たのは、ガッケノに連絡を取ってもらってから2週間後のことだった。


 俺たちは雇った15人の老若男女と共に見事最新式のマイクとスピーカーを完成させ、さらに余計な1週間を使ってカメラまで作ってしまったころ、ガッケノによって直接そのことを知らされた。


 流れでそのまま領都に向かうことになったので、技術チームと作った物を全て載せて高速道路を使い数時間後には領都に到着。


 魔族であるダンゴが居るせいで大勢の騎士に囲まれての登城となってしまったものの、領主様との面会は無事に行うことができた。


「ガッケノに話は聞いた。なんでも、遠くまで瞬時に情報を発信するラジオなるものを使うために、この領都に塔を建てたいらしいな。それも、我が城よりも高い塔を」


「はい。塔を建てる許可をいただければ、場所はどちらでも構いません。どうかお許しいただけないでしょうか」


「うむ、許可する」


「へ?」


 あ、あっさり。

 もっとこう、駄目だけど条件と制限を付けたうえでなら、城よりちょっと大きいぐらいの電波塔であれば造って良いよ、みたいな感じになると思っていたんだけどな。


 正直、この簡潔な返答、しかも良い返答に困惑している。


 もしかして、ガッケノが何か言ったのか?


「何やら考え込んでいるようだが、勿論ただでと言う訳ではないぞ」


 な、なんだ。やっぱりそうか。


「と言いますと?」


「ラジオ局では送信アンテナと受信機さえあればある程度の範囲であれば瞬時に音や声を届かせることができる。それは間違いないな?」


「はい」


「では、現状においてそのようなものを民間に使わせることは出来ん。ということは、領主の立場を理解している君にもわかっているであろう?」


「はい」


 それについては元から分かっていたことだ。そもそも、魔族にダンジョンにと立て続けに色々と起こっている時点で、情報のやり取りについては慎重になるのが当たり前だしな。


「放送についての権利は領主様にお渡しするつもりです」


「そうか。だがそれでは君たちに利がない。それなのにラジオ局を作る理由はなんだ」


「利はありますよ。ラジオというものをこの領に住む人間が認識するという利がね」


 技術は浸透しきってから初めて次のステップに進めることができる。

 まずは音、次第に白黒映像になって、最後には高精彩なカラー映像が当たり前になるのだ。


 ラジオもテレビもアニメも何もかもエンターテイメントというものは自分が作っているだけじゃつまらないものだ。だから新しい才能が出てきて、この世界でも色々な楽しいものが生まれてきて欲しい。


 人生は長い。娯楽が充実してなくちゃ20年もすれば飽きてしまうよ。

 魔法は興味深いし物作りは楽しいけど、それだっていつかは限界が来る。その時のために、俺はエンタメの発展を心から願っているんだ。


 もちろん、村に人を呼ぶためにラジオで広告を流したいという気持ちもあるけどね。


「君はいつも目を輝かせているな。いや、ギラつかせていると言った方がいいか?」


「ええ、私はラジオの先の先まで考えていますから」


「ふっ、その目、私も俄然楽しみにになってきたよ。君が城に来るたびにこの感情が得られるなら、無茶ぶりも嬉々として受け入れられそうだ」


「それは良かった。これからも領主様をはじめ、皆さんを楽しませるように努力させていただきます」


「期待しておこう。ところで、その猫獣人の娘が魔族なのか? 彼女は一体何をしているんだ?」


 くっ! できればこいつのことは触れてほしくなかった!


 見ればダンゴは領主様の目の前だというのに、床に寝そべって手足をバタバタさせて2つの単語だけを繰り返し発している。


「だんご、ごはん、だんご、ごはん、だんご、ごはん」


 もうだめだ、これじゃあだんごとごはんのことしか頭にない壊れた人形だよ。


 大体、記憶が無いとはいえ体は15歳ぐらいの女の子なんだぞ? それ相応の態度ってもんがあるでしょうが。


 せめて「お腹空いたから何か食べさせてください」ぐらい言えよ。


「す、すみません。こいつが魔族で間違いないんですが、記憶をなくしていて見ての通り小さい子供の様な行動をするようになってまして」


「ガッケノからは君が率先してこの娘の面倒をみると言ったと聞いたが、君は随分と優しいのだな」


「いえ、ただ単に猫を飼育してみたいと思ったものですから、半分は人の形をしていますし、これなら飼いやすいかなと。あっ、もちろんこいつを贅沢漬けにして飼いならしてしまおうというのも本当ですよ!」


「そ、そうか。凄いな君も」


 む? 何かちょっと領主様の顔が引きつっているような……?


 その後、領主様は軽食を持ってくるようにメイドに指示を出して、持って来られた軽食というには豪華で量もあるそれをガツガツと貪る音をBGMにしながら、電波塔の話を進めた。


 一緒に来ていた技術チームと新しい機材とミニミニ電波塔でデモンストレーションを行い、ラジオの仕組みを簡単に説明した後、俺たちはやっと正式にラジオ局の開設と電波塔の建設を許可される運びとなった。


 しかも、領主様は電波塔を広大な城の庭に建てるならば、人員を可能な限り貸してやるとおっしゃってくださって、おかげで電波塔とラジオ局、あわせて3ヶ月と少しで完成させることができた。


 完成した電波塔は高さ120メートル。平地から30メートルの高台に建っているので、合計150メートルの立派なものになった。

 

 城の庭に造ったことで景観も崩れていないし、俺のスキル『設計図』もレベル90へと到達したし、良いこと尽くしだ。



 後はラジオの普及だが、これにはまずラジオというものについて多少なりとも知ってもらわなければ、そもそも販売するどころの話ではない。


 そこで、初回は貼り紙とビラ配りそれから商会への広告提示依頼を行い、入念に準備を重ねてから電波塔に設置された全方向対応の4本の巨大スピーカーを使って領主様に話をしてもらうことになった。


 領主様が話した内容は以下の4つ。


 ・領主城から全領都に向けた公開ラジオであるということ。

 ・今後、緊急性の高いお知らせについてはこのラジオで知らせるということ。

 ・定期的なラジオ放送が行われ、音楽や街の人物を招いてのトーク番組を流すということ。

 ・緊急時のみ今のようにラジオを流し、普段は販売予定の小型ラジオで聞くことができるということ。


 正直これだけではラジオに対して領民が食いついて来るかどうかは少々不安だったが、大手の商会や乗合馬車協会が積極的に導入したことで、じわじわと領民にも広まっていった。


 これはラジオ放送に広告を入れられるということを知った各商会が、自分たちの商品を宣伝するためにラジオを早く普及させようとしたことが大きかったようだ。


 うちの村から卸したラジオ受信機を、かなり価格を抑えて販売していたのである。

 

 特にこの動きが顕著だったのは大商会で、やはり資金力があるだけに豪快に超格安で売り出し、領都全体へのラジオ受信機の普及に大きく貢献した。


 ただ、この件で受信機を動かす用の雷の魔石の需要が高まってしまい、魔術師の人たちから抗議が来たのは予想外だったけど。


 ラジオは領都に広まりきると、次第に領都の外へも拡大し、今ではうちの村や西の港町にも普及し始めている。中継の電波塔設置も軍の方で行われているし、ダムからの電気の供給もガッケノが順調に進めていて、そのうちこの国は辺境伯領だけ夜も明るいパラダイスみてぇな場所になるだろう。


 俺は村で、ラジオから流れてくるおっさんパーソナリティのやたらと良い声を聞きながら、手元で基盤をいじっては時々笑いを溢していた。


 さあ、次は映像革命だ。


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