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第29話 猫耳の女の子

 村に帰ってから俺たちは、ガッケノに700人ついて森の探索、俺とオババに500人ついてダムの補修工事というかたちに分かれて、その日からそれぞれの行動を開始した。


 まず森の探索の方だが、こちらは雲をつかむような話なので、そこまで上手く行ってはいない。ただ、ある特定の場所から古代の食器などが見つかったので、現在はその辺りを中心に探索を進めているらしい。


 一方、俺とオババが指揮をとっているダムの補修工事については、ある程度完成に近づいている。


 工事はモンスターが組んだ複雑な木と泥のダムの構造を調べるところから始まったのだが、調査の結果ビーバーが造ったダムにはいくつか意図的に弱くなっている箇所があった。


 これがまた厄介で、下手に補修をしていくと決壊する危険性が高くなる。という事で、最初は半年程度を予定していたところが、結局1年かけてビーバーのダムの方をできるだけ補修しつつ、新しくコンクリート製のダムを建設するはめに。


 まあ、新しく作ったダムにはついでに発電設備をつけることができたから、悪い事ばかりではなかったけどな。


「思ったより時間がかかったねえ。でもようやく完成か。これでアタシもやっと面倒事から解放されるよ」


「オババ、ありがとう。オババの木魔法めっちゃ助かったわ」


「アタシは木魔法はたいして使えないんだけどねぇ。まあ、役に立ったなら良かったよ。ただし、今度こんな事があったら手伝わないからね。これが終わったらあんたは木魔法の修行だよ」


「エ˝ッ。い、いやそれは話が違うんじゃない? ほら、俺の適性って水と雷だしさ、木魔法に適正ある他の人を鍛えた方が良いんじゃないかな?」


「バカ言ってんじゃないよ! 何でもかんでも面倒事に突っ込ん行っているのはあんただろうが。だったらいざという時に備えて大人しく修行しな!」


「そりゃそうだけど、そんな修行ばっかりしてたらいくらあっても時間が足りないよ」


 実際、最近俺、働きすぎなぐらい働いてる。正直前世の仕事よりもかなりスケジュールが詰まっていて、休み無しだしもうブラック企業かってぐらいだ。


 それでも俺は自分のやるべきと思った事をやっているから精神的には何も問題ないんだけど、ここに修行が入ってくると話は別。


 修行、ぶっちゃけ修行という名のオババのお手伝いなんだよなぁ。


 いや、最終的には想像以上にしっかり魔法が使えるようになるんだよ? だけど、その間にやらされることになる店の手伝いとかが結構きつい。


 何がきついって、思ったより何もしない時間があること。この時間を使って新しいものを作ったり施設を建てたり出来る筈なんだけど、まとまった時間でじゃなくて隙間時間だから、やれることが限られてしまうんよ。


 だから、ぶっちゃけて言うとつまらないんだよな。修行。


 魔法の修行だけならいいんだけど。


「それってオババの店の手伝いとかもあんの?」


「そんなの当たり前だ。なんなら今度はカイララ1人で店を回してもおうかね」


「はぁ、やっぱりか……」


 ―― ん? 待てよ。今オババ、店を全部俺一人に任せるって言った?


 じゃあ、何をしても俺の自由ってこと……?


「ふっ……ふふ、フハハハハハ! 良いよ良いよ! 修行やるよ!」


「いきなりなんだい!? ついにイカレちまったのかい!? 医者呼ぶよ!?」


 酷い言いようだなぁオババ。俺は正常だよ。

 でも、そうは言っても俺に修行させるのはやめないんだろう? もう知ってるよ。あんたの性格は。


「じゃ、じゃあ、ダムが出来上がったら翌週から修行だからね。いいかい?」


 ほらね。


「りょうかーい!」


 前々から思ってたんだよ。もっといろいろな器具を導入すれば、薬の種類を増やしたり、作りやすくしたりできるんじゃないかって。


 ダムが完成したら設計図でオババの家を全部いじってやる。


「ふふふふふふ」



 その3日後、ダムは完成した。

 禿山で採掘した銅と、この1年間で集めてもらった絶縁体質のモンスターの素材で電源ケーブルも作ったし、村の近くに変電所も造った。だから、これからは電気が思う存分使える。


 待ってろよババア。今俺が、あんたの家をあんたが使いこなせないようなハイテクの家に変えてやるぞ。


 

 ◆◇◆


 

 村の各家と城、それからテーマパークにも電気が供給されるようになり、電球によって夜も魔法を使わず明るさを確保できるようになった。


 それからしばらく。オババの家を少しずつ分からないように改造し、試作品の冷蔵庫や電子レンジを作っては巧妙に隠してを繰り返した結果、オババの家はもはや俺の秘密基地と化していた。

 

 ババアは見た目だけは若いが、やっぱりババア。俺がやっていることに気付きもしないで、今日も友達のメルおばさんの所に遊びに行った。自分の家がどうなっているかも知らないで呑気なことだな。くふふ。


 設計図で300人に指示出しできるようになり、おまけにリーダーを設定することでグループに分けてものづくりが行えるようになったので、村の発展は急速に行われ続けている。


 ダムも順調に稼働しているようだし、テーマパークは完成したし、鍛冶屋のゴランさんとドワーフのゴスペルさんはバスの改良からトラックや乗用車の制作にシフトした。


 村の産業はどんどん活性化して、禿山での採掘とドラゴンのリクセンによる温泉施設開業も目前に来ている。今のこの国でこれほどまでに発展して行っている場所はないだろう。


 あとは宿泊施設を充実させ、乗合馬車組合とピランティス商会と連携してツアーを組めば、うちの村は国一番の観光地になること間違いなしだ。


 ただ1つ懸念があるとすれば、それはダンジョンの捜索が難航しているという点だろうか。


 あちらはダム建設に当てていた人員も動員して、1200人で捜索にあたっているのだが、古代人が暮していた痕跡は見つかるものの、ダンジョンらしきものは影も形もないらしい。


 ただ、見つかった壁画には、古代人が描いたダンジョンの姿がしっかり残されていたようで、確かにあると確信したガッケノはまだ捜索を続けていくと言っていた。


 早く見つかると良いんだけど。そして、とっとと軍が封鎖してくれ。


 そんなことを考えながら、店先の壁を開いてポーション・コーラを取り出す。

 こいつは俺が開発した新型ポーションで、従来のぬるくて無味だったポーションを改良し、より飲みやすく、おいしさを追求した逸品だ。


 しかも、安い材料で作れるから、普段飲みしても全然問題ないときてる。


 ゴクゴクゴク―― かーッ! 美味い!


 サボりのクソババアには絶対に飲ませてやらねえぞ。


 一本飲み終わって瓶を水魔法で洗うと、冷蔵庫に戻しておく。

 証拠隠滅。目撃証言があってもどこにあるかは分からない。オババに問い詰められても俺は知らんふりさ。


「それにしても、今日も暇だなぁ」


 なんて言っていたのがフラグだったらしい。


「カイララ君! ポーションは残っているかい!」


「ん? あれ、軍医の先生じゃん。どうしたのそんなに慌てて?」


「ダムから急患が運ばれてきたんだが、どうも回復魔法の効きが悪いんだ。だからポーションを貰いに来た! それで、ポーションは?」


「あるよ。だけどどれぐらい必要なの?」


「あるだけ全部だ!」


「わかった。じゃあ俺も暇だし一緒に持って行くよ」


「ありがとう! それじゃあ、兵舎の救護室に!」


「了解!」


 俺は軍医さんと一緒にありったけのポーションを持って兵舎に向かう。

 あの後、1200人も人が増えたから、建て替えて鉄筋コンクリート製の集合住宅型にしたんだよね。もうオババの家の裏は森じゃなくて完全に住宅地だよ。


 そして、兵舎1階の救護室にポーション・コーラを抱えて入っていくと、軍医さんが駆け寄った先に居たのは思いもよらなかった姿の15歳ぐらいの女の子だった。


 なんと、彼女の頭には猫耳がついていたのである。 


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