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第26話 領主城への突撃帰還

 川の上流にあった黒い巨大な壁。それは何者かによって複雑に組まれた巨木の塊だった。


 そして、その塊の向こうにはカルデラいっぱいに溜まった水が、まるで海のように白波を立てていた。


「な、なんだこれは……!?」


「こりゃあどっからどう見ても湖だわ。もし、これをせき止めている塊が崩壊したら、濁流で下の森もろとも村が流されるぞ」


「こんなものが自然に出来る筈がない。一体何者が何の目的でこんなものを造ったというのだ?」


 地球なら、こういう木と泥でダムを造る動物はビーバーだろうが、ここは異世界。流石にビーバーは居ないだろう。


 ウサギや猪だって似たような姿をしていたから俺が勝手にそう言っているだけで、本当は違う性質を持ったまったく別種の動物なのかもしれないしな。(俺は狩に行かないからそこまで詳しく知らない)


「なあ、リクセン。このダムについて何か知らないか?」


「うーむ。我も最近禿山に引っ越してきたからなぁ。この辺りに何か居ただろうか……?」


 リクセンは考え込んでいる。こいつドラゴンだけあって生きてる年月が人間とは桁違いだから、最近と言っても100年単位の可能性がある。だからもしかしたら知っているかと思ったんだけど、ちょっとこの辺りは禿山から遠いからなぁ。やっぱ駄目だったか。


 まあ、誰がこれを造ったにしろ、このカルデラの湖を放置しておくわけにはいかない。あの巨木で造られたダムも川に流れている水量を見る限り水のせき止めが緩くなっていることも考えられるし、何かの衝撃で一気に崩れてしまって森ごと村が流されて消えるなんてことになったら、死人も出るだろうし、今までの苦労が水の泡だ。


 何とかこのダムを補強するなり別の方法を講じて、例え震度7の地震が起こったとしても大丈夫なようにしなくては。


「あっ! 思い出したぞ!」


「うわ! なんだ!? いきなり大声を出すなよ!」


「おっと、すまんなカイララ、つい声が大きくなってしまった。それはそうと、さっき言っていたこの辺りに何か居たかという話なんだが、確かに居たぞ。バカでかい茶色で毛むくじゃらのやつらが!」

 

「バカでかい毛むくじゃらのやつら? やつらと言う事は、それらは複数いたということだろうか?」


「そうだ。その者たちは大体10匹ほどの集団で、どこからかせっせと木を運んでおった。我は見たこともない生き物だったから、あんなのもいるんだなぁ。世界は広いなぁと思ったものだった。特に特徴的だったのは、そのしっぽでな。なんとやつらのしっぽは平べったい板のようになっていたのだ。その板でな、水中をスイーっと泳ぐのだ。それはもう力強くも優雅な泳ぎだったぞ」

 

 おいおいその特徴、まんまビーバーじゃねえか。じゃあこのダムは巨大ビーバーが造ったっての? うーん、やっぱりなんか地球の要素混じってねえかこの世界?


 まあ、とりあえずそれは置いとくとして、そいつらが本当にこのダムを造ったとしても別の疑問が出てくる。


「なんで今はそのデカいビーバーの姿が見えないんだ?」


「うん? なんだカイララはあの者たちの事を知っていたのか。そうか、ビーバーと言うのか」


「それは今はいいってば。それより巨大ビーバーたちはどこに行ったか分からないの?」


「うむ、それなのだが。我はこの辺りにはめったに来ないのでな、あまりやつらを見かけることが無かったのだ。ただ、少し前に上を飛んだ時には数は少なかったが確かに居たぞ。カイララたちと会う直前くらいだ」


「具体的な時期は?」


「まだお前たちの時間の感覚に慣れていないから、わからん」


 それは仕方ないか。でも直前というのはヒントになる。

 リクセンの時間感覚が俺たちの10倍くらい長いと仮定すると、直前は大体1~3ヶ月ほどと考えられる。ということは、その間に巨大ビーバーたちはせっかく造ったダムを捨ててどこかに引っ越して行った訳だ。


「うーん……」


 ビーバーは巣を守るためにダムを造る。だから、この広い湖のどこかに巨大ビーバーの巣があるのかもしれない。だけど、見た感じダムと同じような木が組まれた建造物は見当たらない。


 もしかしたら、巨大ビーバーは地球のビーバーとは生態が違うのかもしれないし、巣の作り方が違うのかもしれない。ただ、やっぱり何か引っかかるんだよなぁ。


 ……最初からこの場所に住む気がなかったとか?


 その時、護衛についていた騎士の1人がポロリとこぼした。


「なにか、ゴブリンキングが消えた時の事を思い出しますね。奴も痕跡は見つかりましたが、我々の必死の捜索でも姿形も見つけられませんでしたし」


「そ、それだ!」


 ずっと何かおかしいと思っていたんだ。ゴブリンの時も今回も、あまりにも不自然な点が多すぎる。まるで誰かが裏で仕組んでいるように、居るはずの元凶のモンスターが居ないんだ。


「カイララも気が付いたか」


「ガッケノもか。俺は巨大ビーバーがモンスターだとしたら、ゴブリンの件もあわせて、奴らの目的さえ見えてきた気がしてるよ」


「私もだ。君が考えているその目的とは、我々の村の真横にあるあの広大な森から人間を遠ざける、もしくは排除するということだろう?」


「ああ。そして、もしこれが合っているとするなら、裏に潜んでいるのは恐らく」

 

 ……魔族。


 


 ◆◇◆




 俺たちはすぐに村に戻って、新しいバスで急ぎ、領都へと向かった。


 そして、領都に着くとガッケノが衛兵に指示を出して、領主城への貴族馬車を手配。領主様側も何か事情を察知していたのか、全ての事がスムーズに進んだ。


 領主城に入ると、俺たちは着替えさせられることもないまま、謁見の間に通された。


 中に入ると、中央奥の椅子に座って待ち構えている領主様と、ガッケノの兄たち、それから母親のらしき人の姿もあった。


「父上、お久しぶりでございます」


「うむ、よくぞ帰って来た。しばらく会わぬうちに大きく成長したようだな」


「はっ、お褒めいただき、ありがとうございます」


「此度の帰省についてだが、おおよその事は騎士長から聞いておる。ゴブリンキングの件だな?」


「はい。その件についてもお話ししたいのですが、今回の帰省はそれ以上の事態が発覚したため、直接お伝えしなければと思い、帰ってまいりました」


「ほう……ゴブリンキング以上の事態か。して、その内容は?」


 ガッケノが一瞬間を取る。まあ、そうだよな。これから話すことはあくまで憶測の域に過ぎない。最悪ガッケノはさらに父親からさらに失望されてしまうかもしれないのだから。


 けど、傍から見てる感じ、領主様がガッケノに対して失望しているような雰囲気は無いんだけどなぁ。


「……失礼しました。お話しします、つい数時間前に我々が目撃したあるものと――それが、魔族の仕業かも知れないという件について」


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