第20話 大ブーム!
城での会議から2カ月後の領都。
その日、街の中央広場の一角で、建物の壁にある広告が張られた。
『キティーズ・ガッケノ・アニメーション』制作、キティーズ・キャット・ファイトの公開と場所についての案内広告だ。
まったく新しい体験を保証すると書かれたその広告は、初めは誰も気にも留めなかったのだが、ある1人の高貴な人物がアニメーションを絶賛したという噂が流れたのを皮切りに、連日の大盛況を記録することとなる。
アニメーション第1話の視聴は無料で、どんなにお金が無くても見れるし、しかもコミカルな猫たちの動きは面白く、退屈していた市民たちにとって素晴らしい娯楽となった。
1か月間の来場者数は、建物の収容人数を大きく超え、予想の数倍に跳ね上がった。一部では「上映会場を広くしろ」「数を増やせ」といったご意見も寄せられたという。
上映中、前半の15日間はお話の間に広告募集の映像と、会社の宣伝を挟んでいたが、後半の15日はとある小規模商会の宣伝広告を流した。
結果、商会の評判は良くなり、商品の売り上げにも大きな効果があったらしい。
この商会がアニメーションに広告を出したことはすぐに他の商会にも広がったらしく、そこからさまざまなジャンルの広告動画作成依頼が舞い込んだ。
そして2カ月目、第2話の公開は上映会場を3か所に増やし、入場料金を取り始める。
第1話を無料にしていたために多少のトラブルはあったものの、値段は驚きのワンコイン。日本円でいえば100円程度だったので、反発はすぐに収まった。
この値段は来場者に子供が多かった事を考えての値段だ。
ただ、この値段ではいくら来場者が来たとしても入場料だけで場所代を賄う事すらできない。そこで、キティーズの主役である『マックス君』のグッズを売ることにした。
スライムの核を加工して作った、マックス君指人形に、マックス君キーホルダー、飛び出す絵本『マックス君、危機一髪』などだ。
売れ行きは上々、場所代を払っても多少余りが出るぐらいには売れた。
ここまでは上々だった。だが、第2話の上映の際に1つだけ大きな問題が発生した。
会場の外で浮浪者やストリートチルドレンたちが、せめて音だけでも聞こうと会場の外に溜まり始めてしまったのだ。
年齢層は老人から3歳児まで様々。集まる数は日に日に多くなっていく。そして、入り口にまで群がるようになってくると、流石に営業に支障が出てきた。
数えれば50人は居るだろうか。
彼らに何度「邪魔にならない場所に移動してくれ」と言っても聞いてくれない。そしてなにより風呂に入っていないから臭い。これじゃあすぐにお客さんが寄り付かなくなってしまうだろう。
というか、そもそも浮浪者やストリートチルドレンのような生活が苦しい人たちが、娯楽でしかないアニメを見に来る余裕があるのが不思議だ。なぜ彼らはアニメの上映会場に集まって来るのだろうか?
「うーん、どうにかならないもんかねぇ」
「それなら、こいつらを村で雇ったらどうだ? そしたらアニメも見れるし飯も食える、仕事だってカイララのスキルがあればすぐ覚えるだろ?」
「いやいや、小隊長のおっちゃん。そりゃ無理だよ。ここだけで50人、他もあわせたら100人以上は居るんだよ?」
「だが、村にはそれくらいどうにか出来る余裕はあるじゃないか」
「それはそう。だけど問題はそこじゃないでしょ。どうやってこれだけの人数を村まで運ぶのさ。乗合馬車を使ったって1台で移動できるのはせいぜい10人、しかも何日もかかるから食料もそれだけ必要だし、寝る場所も用意しなきゃいけない。現実的じゃないよ。小さい子と老人には気を使って移動しないといけないしさぁ」
「なんだお前、あの人たちが村まで行ければ面倒見る気はあるんだな」
「まあ、ちょうど人手が欲しかったとこだしね」
別に村で働く人間はどんな身分だっていい。問題は数が足りない事だから、むしろこの100人はぜひ来てほしいぐらいだ。小さい子はそれはそれで遊園地の試遊をしてもらって感想を聞いたりできるし。
しかし、この人たちを移動させる手段ねぇ。まさか騎士や兵士と一緒に移動させるわけにもいかないし、乗合馬車を使うのも無理。将来的に乗合馬車を運営しているところにビジネスを持ち掛けたいと思ってるから、印象を悪くしたくないんだよ。
となると、徒歩か、もしくは俺が乗り物を作るか。
「徒歩は無理だよな。途中で死人が出る」
「だろうな。カイララのスキルで何か作れたりしないのか?」
「それも考えてみてるんだけど、造るのは結構大変なんだよ。鉄もそのほかに必要な素材も、職人も足りない」
「なるほど、素材と職人か……あっ! なら、あそこに行けば何とかなるかもしれないぞ!」
「あそこ……?」
俺は小隊長のおっちゃんに案内されて、足を踏み入れたのは領都の中心街。
この辺りには貴族の別邸や大商会の本部がある。小隊長のおっちゃんが連れて行きたかったのは、その大商会の本部だったらしい。
「ここなら素材も職人も全部揃うぞ! たぶん!」
「でも、俺たちには何の伝手もないよ。それでこんな大商会が相手してくれるの?」
「心配すんな。俺のダチがここで働いてんだ。結構偉いみたいだから、話ぐらいは聞いてくれるだろ」
話ぐらいしか聞いてもらえないんじゃ駄目じゃん。
まあ、しょうがない。おっちゃん自信満々みたいだし、ダメもとで付き合ってやるか。
「……えっ!? きょ、協力してくれるんですか!?」
「ええ、勿論ですよ。あのアニメーションを作った『キティーズ・ガッケノ・アニメーション』なら、喜んでご協力します。それにマスドラの頼みでもありますしね」
「マスドラ?」
「俺の名前だよ」
「えっ、小隊長のおっちゃん名前とかあったんだ」
「あるに決まってんだろ! アホかお前!?」
「冗談だよ冗談。あっ、すみません。いつものノリで話しちゃって。ご協力感謝します」
「いえ、こいつが上手く仕事出来ているようで安心しました。ただ、協力に際して1つだけ条件を付けさせてください。作成する物について、技術はわたくし共にも使用する許可をいただきたいのです」
あー、まあそう来るよな。
ここでバスを造ろうと思ってたんだけど、技術の使用を許可しちゃったら、この人達すぐ真似できるようになっちゃうかな?
うーん……さて、どうしたものか。




