第19話 アニメーション制作会社設立
デフォルメされたネコが、コミカルな動きで画面内を縦横無尽に駆け回る、たった1分のアニメーション。
けれど、アニメを知らないこの世界の人間たちには、たったこれだけで大きな衝撃だったようだ。
まだ音もなく、色もついていない。俺からすれば未完成のアニメーションだ。それでこの反応なら上々だろう。
「どうでしょうか皆さん。このアニメーションは辺境伯領で……いや、この国全体で人気になると思いませんか?」
「た、確かにこれは素晴らしいぞ! カイララ、この後はどうなるのだ!? この猫はネズミを捕まえられるのか?」
俺は、身を乗り出してそう聞いて来るガッケノに、少し引きながら答える。
「あ、あー、そこはほら、この猫はちょっと間抜けで何事も上手く行かないところが面白いってのもあるし、どうなるんだろうなぁ。うーん、結局最後まで捕まえられないかもな」
「そうなのか。頑張っていたから捕まえられていると良いのだが……しかし、このアニメーションとやらは凄いな! 私は絶対に国中で人気になると思うぞ!」
「ふーん、なかなか面白いじゃないか。だが、これはどちらかと言えば子供向けの内容だねぇ。もっと大人が楽しめるようなのはないのかい?」
「今のところはこれしか作ってない。だけど、材料さえあれば色々なアニメを作れるから、大人向けのものも作れると思うよ。将来的には、アニメだけでなく、俺たち自身を映像で映すこともできるかもしれないし」
材料はスライムの核を板状に伸ばして作っている。それに炭を溶かした水で絵を描いたものが、いま見ているこの無音アニメのスライドだ。設計図で確認したところ、このスライムの核で造った板は音声の書き込み用としても使えるらしいので、録音機さえ作ってしまえば音はすぐにつけることができる。
流石に現実の映像を複写するカメラの様なものは簡単には造れないので、実写映画はまだ難しい。ただ、精密機器の製造は色々と挑戦中なので、近い内にはプロトタイプのカメラを作れるだろう。
ひとまず実写の方は置いておくとして、まずは音声を録音する録音機を作らなければならない。録音機は真空管を作るのがまだ無理なので、蓄音機のようなアコースティック式を採用した。あれなら割と簡単に作れるからな。音質はかなり悪いだろうが、つなぎとしては十分だろう。
技術の進歩は段階を踏んだ方が感動が大きくなるってものだ。
「それで、このアニメーションとやらを作ることがテーマパークを作ることに何の関係があるのだ?」
「関係大ありだよ。村に作るテーマパークはこのアニメーションで有名になる予定のキャラクターに実際に会える場所になるんだからね」
「会えるだって? そりゃ無理だろ。これは動いていると言っても所詮絵じゃないか。まさか絵が飛び出してくるわけでもあるまいし、まさかカイララ、あんたアタシに魔法で何とかしろって言うんじゃないだろうな?」
「そんなこと言わないよ。それじゃオババがいなきゃテーマパークが成り立たないだろ? そんなんじゃ、オババが干からびた大根みたいになって死んだら、パークも一緒に廃業だよ。老い先短いんだからさぁ」
「誰が干からびた大根だ! あたしは後500年はピチピチギャルのままだよ!?」
「見た目30代なのにピチピチギャルって……ぷっ」
「なっ!? さ、30代はピチピチだろうが!? 村の女たちにお前がそう言っていたと言いふらすぞ!」
「ちょっ! それはやめろよ! 卑怯だぞ!」
母さんももう三十路だ。俺がそんな事を言っていたとばれたら、飯抜きのうえに往復ビンタの刑にされてしまう。それだけは嫌だ!
わ、話題変更だ。露骨でも何でもやるしかねえ!
「ゴホンゴホン! あー、パークで会えるキャラクターというのは、この着ぐるみの事です。着ぐるみというのは資料の3ページに書かれている人が中に入って動かすもので、姿形はアニメとは若干違いますが訓練を積めば本当にキャラクターがそこにいるかのように感じられるというものです」
「あ、おい! 話を逸らすな!」
「オババこそ、話が進まないから黙って聞いてくださいね! はい!」
アニメのキャラクターの着ぐるみをいくつか作り、テーマパーク内を歩かせたり、パレードをしたり、そうやってここにしかない体験をお客さんに味わってもらう。
もちろん、アトラクションも作る予定だ。これに関しては、ジェットコースターなどの危険の伴うものは一旦保留とし、メリーゴーランドや観覧車、ジャングル探検コースなどを作ることとした。
アトラクションではないが、猫がメインキャラクターという事もあって、猫カフェも設置することを考えている。
「このように、アニメでキャラクターを知ってもらい、その知名度を活かしてパークを宣伝し、『キティ―ズ・ランド』にお客さんを呼び込みます」
次はアニメについての詳細な説明をしていく。
「このアニメは1話25分構成で、10分の話を2本、残り5分はオープニング・宣伝広告・エンディングに充てます」
アニメは、前世で馴染んでいたアニメの形式をそのまま採用した。オープニングとエンディングは馴染みが持てるような短い音楽をつける。歌は無しで、音楽だけだ。
話の間には2分程度のCMを挟んで、村のテーマパークと領都内から募集した広告を流す予定だ。募集した広告については、毎月更新にしようと思っている。
エンディングの後にはアニメスタッフ募集の広告も流そうかな。
「ここまでで、テーマパークとアニメーションについての説明を終わります。何か質問はありますか?」
そう聞くと、騎士長さんが手を挙げた。
「1つ質問させてくれ、これらの制作にはどちらもカイララ君のスキルが必要におもうのだが、君のスキルで同時に2つ以上の物の制作は可能なのか?」
「それは問題ありません。1度試してみたところ、リーダーを設定することで俺が居ない場合でも問題なく制作を進められることを確認しました」
「そうか、なら問題ないな」
「他に無ければ、この計画を進めるという方向で動きたいと思います。何かありますか」
……よし、反対はないな。
「では、最後にアニメーションの制作に関して1つ発表させていただきます。俺は今回、このアニメを制作するに当たって、村人や騎士、兵士の皆さんの力を借りることは極力避けたいと考えました。もちろん最初はご協力いただくことになりますが、いずれは村の外部から人を雇い入れる形にしたい。そこで、俺はここにアニメ制作会社の設立を宣言します!」
会社というものがこの世界に存在しているのかどうかは分からない。だが、このアニメーション制作事業は今後ブランド化していきたいと考えている。そのためには、会社という体制は必要だった。
もし、仮に会社という概念が無いならば、これを初出にしてしまえばいい。
それはそれで良い宣伝になる。
「開拓村、初のアニメ制作会社の名前は、『キティーズ・ガッケノ・アニメーション』です。 皆さん、どうぞよろしくお願いします!」




