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第17話 ガッケノ高速道路

 俺は唖然としているガッケノを無視して、計画の内容について話し始めた。


「まず、大前提として、この計画は元々はこの村の発展のために考えていたものを、辺境伯領規模に拡大したものだ」


 俺はこの世界に生まれて、設計図のスキルを授かってから考えていたことがある。


 それは、この世界が不便すぎるということだ。


 トイレも風呂も水道もガスもない。土を掘るスコップすらないような文明レベルでこの先も生きて行くのは拷問に等しい。


 初めて設計図のスキルを使って、戦闘機が作れるとわかって興奮したあの日。俺は確かに、この世界の覇者になれるのではという考えを抱いていた。


 国の端のそのまた端にあるようなこの村なら、誰にも邪魔されずに好き放題できる。


 設計図で戦力を整えて力を示せば、独立国家を作ることも可能かもしれない。そう思っていた。


 だけど、よくよく考えてみれば俺には国を作る大した理由なんてなかった。そんな事をして、新しい国を作れたとしても面倒事が増える未来しか見えない。


 だが、武器を積極的に作らないとしても、生活のレベルが低いこんな世界で生き続けることは、我慢ならない。


 それなら、せめて自分の村だけでも快適になるように改造しよう。そう考えて立てたのが『開拓村大改造計画』だった。


 風呂やトイレはもちろん、掃除、洗濯、食事、そして仕事まで。地面は、アスファルトが無理ならコンクリートにでも変えて、バイクを作り、車を作り、発電所も、工場も、パソコンだって欲しい。


 この村のすべてを、俺の頭の中にある現代日本のレベルにアップグレードしていく。


 そのための材料探しも、人員の確保も、もう少し体が成長したら本格的に始めるつもりだった。


 だが、そんな時にあの騒動が起こった。

 

 ゴブリンの襲撃だ。


 その結果、領都から軍が派遣され、村に常駐することになった

 おまけに領主の三男まで村に住むことになった。


 貴族に俺の力を見せて、無理やり村から連れ出されるのは御免だ。


 「だけど来たのはガッケノ、お前だった。お前と友人になって、一緒に飯を食って、遊んで。短い期間だが、お前の事を少しは知ったつもりだ。お前はたとえ俺に利用価値があったとしても、俺の事を無理に父親に突き出したりはしない。そういうやつだろ?」


「カイララ……ああそうだ。私は君を父の前に連れて行って自分の功績とするつもりは一切ない」


「だよな。お前は時々とんでもないネガティブ野郎になるけど、それでもしっかり自分の力で親父さんに認めてもらおうと頑張っている。だから俺は決めたんだ。元々村を発展させるために考えていた計画を、この辺境伯領全体の改造計画として練り直して、ついでに親友の功績にしてしまおうってな」


 そして、この不器用で寂しがりな坊ちゃんの事を、領主様に認めさせてやるんだ。


「断言する。この計画は、決してこの辺境伯領に不利益にはならない。それどころか、膨大な利益をもたらす」


 俺はしっかりとガッケノの目を見て宣言する。ガッケノも、俺の真剣な目を見返して話を聞いてくれていた。


 やがて、ガッケノは一度息を深く吸って吐き出すと、硬い表情を少しだけ柔らかくして話しだした。


「そこまで言うなら計画の詳細はある程度決まっているのだろうな。私はこの村の城主、村の事はすべて私に一任されている。だが、年齢的には私も君もまだ幼いし、辺境伯領全ての事となると決めきれないものがある。だから、この計画については、大人を交えてしっかり話し合っていく必要があると思う」


「それは同感だ。ただ、メンバーは厳選させてもらいたい」


「もちろんだ。爺と騎士長、それから魔女様と村長でどうだろうか?」


「それでいい。ってかいうか、話進めてるけど、俺の計画にのるってことで良いんだよな?」


「さあ……?」


「おい!」


「まずは計画について内容を聞かなければ判断できない。明日の朝に主要メンバーを集めて会議室で話し合う。その場で計画を進めるかどうかを決めよう」


 まあ、それもそうか。今はただ計画について大まかに語っただけだしな。

 寧ろこれを聞いただけでやると即答しなかったこいつは、リーダーの素質がある。十分領主に向いてるよ。


「わかった。じゃあ明日の朝に会議室に集合で決まりだ。俺は今すぐ帰って簡単な資料を作る」


「紙は予備があるから、それを使っていい」


「いいのか? 結構高いんだろあの紙?」


「私と辺境伯領の今後を左右する重要な計画を書く紙なんだ。それくらいじゃないと務まらないからな」


 俺はガッケノの厚意に甘えて、城に予備として置いてあった紙を半分ほど持って帰った。この程度の枚数では幾つかの計画の概要と今後のチャートをざっくり書くぐらいしか出来ないが、今回はその程度でも構わないだろう。


 しっかりした計画書を書くかどうかは、明日の会議の決定次第だ。

 

 



 ◇◆◇





 翌日。目を覚まして朝食を摂った後、すぐ城に向かったにもかかわらず、会議室にはもう主要メンバーが揃っていた。


「やっと来たのか? アタシは待ちくたびれたよ。カイララ」


「まだ、朝早いじゃん。それで待ちくたびれたとか言ってるってことは、相当早くに起きたんだろうな。老人は早起きだって言うし、やっぱババアはババアだな」


「アタシはオババだ! 老人じゃねえ! お前の目にはこのピチピチの体が見えんのか? お前の方こそ年齢詐称してるジジイだろ。老眼が進んでるぞ」


「こんないたいけな子供を捕まえてジジイとは、てめえの方こそ目が腐ってんじゃねえか! クソババア!」


「なんだとクソガキ!」


 俺とオババがいつものようにやり合っていると、ガッケノが横から割り込んで来る。


「二人とも。今日は大事な会議の場だ。魔女様もカイララもいつものは控えてくれ」


「はーい」


「仕方ない。ここはガッケノ坊ちゃんに免じて引いてやろうかね」


 オババが席に座り、俺はガッケノの横に付く。今日の発表者は計画立案者の俺だ。


 資料を全員の目の前に配ると、ガッケノから既に昨日聞いた内容については周知したと言われた。


 もう一回説明するのは面倒だったから助かったわ。 


「それじゃあ早速計画について話させてもらいます。簡単にガッケノから説明があったと思いますが、この計画の目的は『ガッケノの領地経営者としての実力を領主様に認めさせる』ことと、『辺境伯領の大幅なアップグレード』です」


 騎士長から手が上がる。


「そこなのですが、1つ目は分かるとしても、2つ目の『辺境伯領のアップグレード』とは、必要なのですか?」 


「それはもちろん必要です。むしろ1つ目の目的は2つ目を達成する過程で得られる副産物的なものですから。この計画の本命は2つ目になります」


「具体的には、どのようなことをするのです?」


「そうですね……例えば、この間のゴブリンの襲撃。あの襲撃の際に、村から領軍へと応援を要請しましたが、到着が遅く、危うく村が滅ぶところでした。ですが、今回のアップグレードで建設する予定のものがあれば、少なくとも3日は移動時間を短縮できます」


「ほう。少々聞き捨てなりませんな。我々は全力をもってゴブリン討伐に出向きました。あの時は、あれ以上ないくらいに早かったはずだ」


「そうですか。ベストを尽くされたと。ですが、それで間に合わなければ意味がありませんよね?」


 実際、俺のスキルが無ければあのとき村は全滅していた可能性が高かった。

 ガッケノたちの馬車を護衛しながらだったので多少遅れていたという事は考えられるものの、それが無くともあの距離だ。間に合っていたかどうかは怪しい。


「ぐぅ……」


 ぐぅの音だ! 初めて聞いた!

 待てよ、出たなら反論があるってことか? 

 これ以上反論されるのも面倒だし、さっさと話進めよう。


「勘違いしないでいただきたいのですが、私は何も領軍が遅いと言っているわけではありません。軍はこの開拓村に来るまでに街道を全速力で向かって来ていた。それは疑っていない。ですが、途中の道すがらで立ち止まらざるを得なかった場面があったのではないですか? モンスターが出た、盗賊が出た、歩行者に邪魔された。そんな要因が積み重なった結果の遅延が必ずあったはずです」


「それは、確かにあったが、そう言ったトラブルは当たり前のことだ。それを織り込んだうえで我々は軍を動かしている」


「では、今後はその無駄も省けますね」


「なんだと?」


「手元の資料の5ページをご覧ください」


 全10ページほどの軽い資料がめくられる。

 そして、5ページが開かれると、そこには大きめの文字で書かれた建設物の概要と、簡単な絵が描かれていた。


「こちらの建設物はこの計画の中盤頃に作成する予定のものですが、ちょうど良いのでご紹介しましょう。街道に変わる『馬・馬車専用道路』――その名も『ガッケノ高速道路』です」


 

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