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第13話 帰ってきた領主の息子

 8歳になった。


 村の復興は順調に進み、今では全く別の村という外観に変わっている。


 丸太をただ差し込んでいた柵は全て抜いて処分し、新しく加工した木材とオババの家の裏にあった岩を切り出して組み合わせ、分厚い石垣の外壁を建設。


 これでゴブリンどころかオークの突進でも耐えられる頑丈な守りが出来上がった。


 村の中の様子も今回の事で大きく変わっている。


 元々あった古い家屋は全て解体し、新しく全ての家を建て直した。

 

 村に残っている兵士たちのおかげで領都から素材を取り寄せることが出来るようになったので、トイレも完成したし、ついでに風呂まで作り上げることが出来た。


 そうそう、兵士といえば彼らの兵舎へいしゃも造った。


 先日、ゴブリンの死体を処理するために用意していた大量の木片チップを保管する倉庫を作ったのだが、広場にまだスペースが有り余っていることと、せっかく守ってくれているのにいつまでもテント生活をさせるのは忍びないということで、倉庫の横に兵舎を造ったのだ。


 兵舎内は小隊長の部屋だけ少し広く、他は全て同じ造りだ。

 普段から村の設備作りに協力してもらっていたこともあって、村人総出で作った結果、張り切りすぎて1人1部屋の大兵舎を作ってしまった。


 その際、足りないスペースは木を切り倒して確保したので、結局もとの広場から1.5倍ぐらいは広くなったのではないだろうか。


 とにかく、1人1部屋かつ各部屋、風呂トイレ完備という、兵舎としては贅沢すぎる空間が出来上がったわけだ。


 もちろん、これには兵士たち皆が喜んでくれた。小隊長のおっちゃんなんか、涙を流してベッドにしがみついてたよ。


 それにしても、風呂もトイレも使う水をどうしようかと思っていたから、水の魔石を軍に頼んで取り寄せてくれた小隊長のおっちゃんには感謝しておかないとな。


 ちなみにお風呂のお湯を作るのは、ゴブリンの火炎属性の魔石が大量にあるから、問題ない。


 トイレの排水管についても、ゴブリンキング捜索の際に見つかった粘土と石灰石を使ってセメントを作り、砂と混ぜ合わせたコンクリートで作り上げたので、水漏れの心配はない。初めての大規模土木工事だったから大変だったけどね。


 あとは下水処理場だが、これは森の奥の村から離れた場所に開けた場所があったので、そこにオババと一緒に魔法で大きな溜池を作っておいた。すると、風呂トイレを使い始めて少ししたらスライムが住み着いていたので、処理に関しては彼らに任せることになった。


 どうも領都でもスライムを使ってるらしいし、あそこはもうあれで十分だろう


 というか、都会にはトイレ普通にあるんだな。


 とまあ、なんだかんだ忙しく動き回っている間に時は流れ……村が以前の賑わいに戻った頃、それは突然やってきた。


「オババ、あれ領主様のところの馬車だよな?」


「ああ、そうみたいだな」


「オババ何か知ってる?」


「いやぁ、何も知らんよ」


「嘘吐くの下手かよババア、顔がニヤけてんぞ」


「ババアじゃねえ! オババと呼べ!」


「でかい声で誤魔化すなよ。年取ってるくせに子供みたいで格好悪い」


 小隊長のおっちゃんや他の兵士の人たちが整列し、馬車から出てくる人物をお出迎えする。


 護衛の騎士たちに守られた馬車から最初に降りてきたのはあの時の執事。となると次に降りてくるのは当然、あの時の領主の息子だった。


 態々こんな村まで2回も、まだ子供なのにご苦労なことだ。


「久しぶりだな、村長。そして魔女様もお久しぶりで御座います」


 村長が前の時と同じように慌てふためき、オババは不敵に笑い、軽く答えた。


 それを見たあと、俺はどうせ関係ないし別に暇ってわけでもないので、さっさと家に帰ろうと振り返ったのだが……


「そこの君、ちょっと待ってくれないか」


 声を張り上げて誰かに声をかける貴族の少年。その声量は明らかに近くの人間に声をかけたものではない。


 君? 君って誰だ。そこのあいつか? あっちのそいつか? それとも兵士の誰かか? 少なくとも俺じゃないだろう。


「待ってくれと言っているだろう。君だ、君! 少しは止まるそぶりぐらいしてくれ! もしや耳が聞こえていないのか……?」


「いいや、あいつは健康そのものだよ」


「では、なぜ止まらないのです?」


「名前を呼ばれてないから関係ないと、たかを括ってんのさ。だから名前を呼んでやればいいんだ。あいつの名前はカイララだよ」


 げっ、クソババアなに人の名前を勝手に教えてやがるんだ! ていうか、やっぱり俺に話しかけてたのかよ。貴族と話なんて、したくないのに。


「カイララ君、少し待ってくれないか!」


 うわっ。


「……あー、僕ですか?」


「そうだ、君と話がしたい。少しだけ私に時間をくれないだろうか」


「はぁ、少しなら構いませんが……」


 クソが! オババのせいで貴族の坊ちゃんに捕まっちまったよ! どうしてくれんだてめえ!


 そんなふうに視線を送れば、予定調和とばかりにニヤけた顔をしているオババの姿。あいつ、最初から知ってて俺を野次馬に誘いやがったな!?


「そ、それで僕にご用というのは、どんなことでしょうか?」


「うむ、ここでは何だな。村長、すまないが家を借りてもいいか?」


「は、はい! もちろんでございます! ささ、こちらにどうぞ」


 げっ、腰を落ち着けて話すような内容なのかよ。適当なことを言ってさっさと離れる作戦だったのに、これじゃあ簡単には逃げられないじゃないか。


 俺は周りを兵士たちに囲まれた状態で貴族の坊ちゃんの後ろからついて行く。気分はさながら牢屋にぶち込まれる前の囚人のようだ。


 村長の家は俺がこの村で一番最初にリフォームした家だ。外観は以前のボロくて狭い物から一変、村一番の大きさと簡単な装飾による権威の演出によって、今では村長宅にふさわしいものになっている。


「村長のお宅は随分と様変わりしたな」


「はい、それもこれもカイララのおかげでございます。この村の外壁も、他の家も全てカイララがスキルを使って作ってくれました。もちろん私たちもお手伝いはしましたが」


「そうだったのか。君のスキルは凄いスキルなんだな、カイララ君」


「いえいえ、私のスキルなど所詮は辺境村の子供の下級スキルです。何も凄いことなどありませんよ」


「いや、この村と家々を見ればわかる。君のスキルは素晴らしいものだ」


「それは、お褒めいただいて、ありがとうございます」


 村長の家に入り、村の会議に使われる会議室で、俺と貴族の坊ちゃんが円卓の対面に座る。周りには椅子に座らず立ちっぱなしの執事と護衛の騎士達。オババと村長は居るものの、正直、居心地は最悪だ。


「ふう、落ち着けたな。すまないが、座って早々に要件を話させてもらうよ。私はこういった話し合いは少し苦手なのでな」


「構いません」


「ありがとう。では単刀直入に言う。カイララ君、君に私の部下になって欲しい」


「嫌です」


「えっ……?」


「えっ? あっ」


 や、やっちまった!? あまりにもふざけたことを言ってくるから、思わず本音で真っ直ぐ返しちゃったよ!


 貴族の坊ちゃんを見ると、最初は俺の即答に唖然としていたが、すぐになんだか不安そうなしおしお顔になっていく。


 周りからは執事と騎士たちの刺すような視線。村長は白目を剥いていて、唯一の味方になり得るオババは、ひとりで爆笑していた。


「あ、す、すみません! あまりに急で、つい本音が出てしまいました!」


「ほ、本音……うぅ、そうだよな。辺境伯家とはいえ、こんな何の価値もない三男の部下になんてなりたくないよな……」


「ええっ!? ち、違いますよ!? そんな理由じゃないですって!」


「いいんだ、皆まで言うな。最初から分かっていたんだ。私に人を従えることなど出来ないし、仕えてもらうような価値も無いんだってことは……」 


「な、何言っちゃってんですか!? お、おいオババ! 笑ってないで何とかしろよ!?」


 何なんだこの坊ちゃんは!? さっきまで堂々としていたって言うのに、即答で断った瞬間一気にネガティブ全開になりやがったぞ!?


 ま、まずい。このままじゃ俺がなにがしかの罪で打ち首にされちまうよ。

 な、なんとかしないと。


 何かないか……


 あっ! そ、そうだ。あの手で行こう! あれなら何とかなるはずだ!


 俺は騎士たちの様子をうかがいながら、静かに椅子から立ち上がると。円卓の脇を、一歩踏み出した。


 目指すは貴族の坊ちゃんの目の前だ。


 やるしかない、今生最大の大作戦 ―――― 『お友達大作戦』を!

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