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第12話 ゴブリン騒動の終焉と領主の息子

 領軍の精鋭兵士が50人、数時間の距離をあっという間に移動して村までやって来てから、その後の顛末は呆気ないものだった。


 あれだけ苦しんでいたゴブリンの脅威に、兵士たちはあっさり決着をつけてしまったのだ。


 普通のゴブリンは首をひと跳ね。ゴブリンリーダーやゴブリンナイトも、彼らにかかればあっという間に倒されていく。


 俺たちはその光景を物見塔の上から眺めながら、まるでそこで起きていることが夢なのではないかという心地になっていた。


「掃討完了しました」


 兵士の1人がそう報告してきたのは、彼らがゴブリンを倒し始めてから1時間も経たないうちのことだ。


 雑多に切り捨てられた死体を、1か所に集めている兵士たち。

 オババと村長に現状報告をする兵士の声を聞きながら、俺は淡々と作業を繰り返す兵士達の姿を見ていた。


「領軍の兵士ってここまで強いのか……」


「あん? 当たり前だろ、強くなけりゃ領都の軍人なんて務まらん。アタシらの村の討伐体とは訳が違うのさ」


 ま、そりゃそうか。


 俺がボーっとしながらそう納得していると、報告していた兵士が俺を見てオババに質問してきた。


「ところで、こちらの子供は?」


「ああ、この子はカイララと言いまして、兵士の皆さんをあっという間にここに連れて来たのも、この子のスキルのおかげなのです」


「あれがこの子の!? それは素晴らしいスキルですね。坊や、君のおかげで私たちは村を脅威から守ることが出来た。ありがとう!」


「あ、いえ。俺は村を守るために出来ることをしただけなので」 


「その謙虚な姿勢もいいね! どうだろう坊や、将来は領都軍で働いてみないか? 訓練は大変だけど、お給料は良いし、美味しい物も沢山食べられるぞ!」


「え、えーっと……」


 うわ、何だこの人いきなり。さっきまでオババと村長に対して整然とした態度で報告していたのに、俺がスキルで兵士たちを呼び寄せたと知るなりめっちゃキラキラした目で勧誘してきたぞ。


 俺は将来、兵士になるつもりなんて無いんだよ。

 設計図で物を作って村を発展させ、最終的には戦闘機とか、独自の戦力も持った一つの勢力になりたいんだ。軍なんか行ってられるかっての。


 そうやって俺が困っていると、やたらと勧誘してくる兵士のおっちゃんの後ろから、紅い髪をした若い女兵士が近づいて来た。


「小隊長、ゴブリンの死体の集積が完了しました」


「うむ、報告ご苦労」


「それから、いくら有用だと言っても、子供相手に無理な勧誘はお辞めください。その子が困っています」


 そう言って氷の様な眼差しで小隊長と呼ばれた男を見る女性兵士。

 あ、あれは向けられてない俺でもキツイ感じするぞ。


「うっ……わ、わかった。すまなかったね坊や」


「い、いえ、俺は大丈夫です」


 おっちゃんとの話が終わると、オババによって集められたゴブリンの死体が焼かれた。


 濛々《もうもう》と立ち上る煙は、独特の肉が焼ける臭いをまき散らす。だが、その悪臭も俺にはもう慣れたもので、胸の中には唯々この騒動が終わったのだという安堵しかなかった。




 それから数時間後、総勢500名の領軍が村へと到着した。


 中にはゴブリンキングが居るという報告を受けたためか、馬に跨った上位騎士が20人ほどいる。


 馬があるならもっと全力で飛ばして来いよ……なんて思っていたら、到着した一団の中央、兵士と騎士に囲まれたその場所から1台の馬車が現れた。


 多少汚れてはいるが高級感漂う細かい装飾に、そんな高級な物を前世でも見たことが無い俺は少しだけ圧倒される。


 ガチャリ。と扉が開き、初めに執事服を着た老人が出て来た。そして、一通り安全を確認すると扉の奥に声をかけた。


「問題ございません」


「……わかった」


 聞こえて来たのは子供特有の高い声。

 その声の持ち主は執事に手を引かれるようにして、暗い馬車の中から日差しの下へと降り立った。


 貴族の子供……? 


 立派な服を着た8歳ぐらいの子供。 すんとしたすまし顔と、将来はイケメンになりそうな整った顔立ち。堂々たる雰囲気は、これが貴族ですと言わんばかりだ。


 なんだって、貴族の子どもなんかがこんな辺鄙な村まで来るのか。

 あの顔と態度からして、ゴブリン退治が見たいと駄々をこねるようなタイプには見えない。


 貴族の子供は、執事と数人の騎士に寄り添われるかたちで、村長とオババの方へと歩いて来る。

 そして、目の前で立ち止まると、執事が村長とオババに話し始めた。


「初めまして。私、ルンバー辺境伯家で執事をしております。ベンザムと申します。突然のご訪問をお許しください」


「え、あ、いえいえ! 私の様な小さな村の村長などに領主様の執事様が頭をおさげになる必要はございません! どうか、頭をお上げください!」


 村長、かなりビビってるなぁ。まあ、普段絶対会わないような上の人間が来たらああなるか。しかも、何故か低姿勢だし。


「それで、辺境伯家の執事殿はどんな用件でこんなちんけな村に来たんだい?」


 オババは逆にふてぶてし過ぎだろ。どう見ても貴族だぞ後ろのやつ。


「はい。本日は私ではなく、さるお方の希望によって、こちらに向かう軍に同行させていただいた次第でございます」


「さるお方、ねえ……」


「ご紹介いたします。こちら、ルンバ―辺境伯家の御子息であられます、ガッケノ・オチ・ルンバ―様でございます」


 そう紹介されたのは、やはり執事の後ろに立っていた少年だった。

 知らない大人2人の前に堂々と出てくる推定8歳の少年。やはり貴族だからか、下々の者に対する際の緊張感などは持ち合わせていないのだろうか。


「ガッケノ・オチ・ルンバーだ。よくぞ我が領軍が到着するまでゴブリンの襲撃を耐えた。辺境とはいえ、領民の住む大事な村だ。村の者たち皆に辺境伯家を代表して感謝を述べたい」


「は、はい。あ、ありがとうございます!」


「感謝はありがたく受け取っておこう。それで、それだけが用事ではないんだろう?」


「貴女はこの村に住んでおられるハーフエルフの魔女様ですね。はい、そうです。私は今回、父の命令でこの村の視察にまいりました」


「ふむ、視察か」


 オババは何やら考え込んでいる。てか、オババあんたハーフエルフだったのかよ。完全に魔法で若作りしてる哀れなババアかと思ってたわ。


 でもオババがハーフとは言えエルフか……なんかエルフのイメージが崩れそう。


 しかし、こんな子供が村を視察か。というか、視察ってある程度仕事できる奴がやる事だろ。うちの村がいくら小さくて木っ端だとしても、子供に視察を任せるか普通?


 確かにこの子は受け答えもしっかりしているし、領主の息子だからそれなりの教育は受けているんだろうけど、このタイミングで来るのも併せてなんか変な感じするよな。


 俺はその後もオババと村長が貴族の子供の相手をしているのを、後方からボケッと見ていた。別に俺が何かしゃしゃり出る意味も無いし、貴族に興味も無い。


 だから俺は、その後の数日間、少年が視察として村を巡って損害を確認したり、近くの森に出向いたりしているのを見ても、気にも留めないで村の復興の手伝いをしていた。


 もちろん、復興には俺のスキルをフルに活用している。次に同じようなことが起こらないとも限らないから、いま使える人員をフルで使ってもっと堅牢な村にしていくつもりだ。


「おーい、小隊長のおっちゃん。今からオババの家の裏手にある広場に倉庫作るから、手伝ってよ」


「うん? またか、カイララ。俺も暇じゃないんだぞ? 今のこの辺りの警戒は俺の隊がやってるんだから」


「そんなこと言ったって、もうゴブリンの1匹も居ないじゃん。フラムねえちゃんが人手が足りないなら小隊長を使っていいって言ってたしさ。いいでしょ? ね?」


「なにぃ!? フラムのやつ、また俺を差し出しやがったな! はぁ……まったく。じゃあちょっとの間だけだぞ。まだゴブリンキングがどこに行ったのかも分かってないんだからな!」


「おっしゃ、やりぃ! じゃあうちの兄ちゃんたちも呼んで来るから、おっちゃんは先に行っててよ。また後でー!」


 小隊長のおっちゃんが言った通り、ゴブリンキングはまだ見つかっていない。

 というか、本当に居たのかどうかという話すら出ているぐらいだ。


 兵士の人たちは村の護衛を残しつつ、毎日調査に出ている。

 だが流石にいつまでもと言う訳にはいかないらしく、数日何も見つからなければ調査は打ち切られるそうだ。


 ただ、村にとって朗報だったのは、一部の兵士が村に常駐することになったこと。


 残ってくれる兵士がいつまで居てくれるのかは分からないが、少なくとも俺が村をもっと頑丈に改造するまでは居てもらいたいものだ。


 数日後、貴族の少年は兵士と騎士、あわせて450名を連れて領都へと帰って行った。


 帰り際、オババが貴族の少年と話しながらこっちをチラチラ見ていたのが気になったが、まあどうせオババが俺の事をクソガキだとか言ってただけだろうし、気にしないでおこうと思う。

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