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第11話 ピンチとレベルアップ

 ゴブリンたちの攻撃は昼夜問わず行われている。


 おかげでこちらは疲労困憊だ。


 交代で休むにしても奴らの叫び声のせいでろくに寝られないし、神経が苛立って眠れたと思ってもすぐに起きてしまう。そんな状況が、もう3日も続いていた。


「領軍はまだなのか……?」


「昼も夜もゴブリンが来て、もう限界よ……」


 あちこちから聞こえてくるそんな声に、仕方ないとは思いつつ危機感を覚える。


 この3日間、結局ゴブリンに突破されることはなかったし、防衛優先とはいえある程度の数は倒せた。


 ほりの下で踏みつけられて死んだゴブリン、登ってこようとして剣で刺されたゴブリン、塩水をぶっかけてのたうち回る実験をした後に、剣士にとどめを刺してもらったゴブリン。


 だが、それらを置いて何よりもゴブリンをこの世から消したのは、俺の火炎魔法だ。


 無限に続くかに思えるゴブリンたちの列が、飢餓状態で狂ったまま火柱に突撃していくので、俺だけ討伐数がえげつないことになってしまった。


 ただ、燃やすにのも1つ問題があって、火炎属性の魔石が尽きると、俺は討伐体の剣士たちと交代して、剣で倒してもらったゴブリンの死体を魔石採取人たちの元に運んでいき、ある程度魔石が溜まったらまた交替するというサイクルを繰り返していたのだが、あれだけの火力でも残る部位は残るもので、いつしかそれらをきちんと片付けなければ剣士の人たちが戦うスペースを確保できなくなってしまったのだ。


 魔法を使いまくったせいで魔力総量が上がったのは良いけど、まさかの肉体労働追加で筋肉痛が酷い。


 そんなわけで、色々あった3日後の現在の状況を説明しようと思う。


 まず、ゴブリンたちの数はかなり減った。

 

 これは俺の火炎魔法も含めて剣士や狩人たちが朝から晩まで頑張ってゴブリンを倒してきた結果だ。


 だが、状況は良い方向よりも、むしろ悪い方向に進んでいる。


 問題点は2つ。


 1つ目は大量のゴブリンの死体が腐って、腐臭がし始めていること。


 そして2つ目は、通常のゴブリンが減った代わりにゴブリンリーダーやゴブリンナイトが増えたこと。


 まず一つ目だが、これに関しては長引けばそうなるかもしれないということで、一応の準備はしてある。


 ただ、それにしても数が多すぎて準備した物で全てを解決できるかは不明だし、まだまだゴブリンが多い今のままでは使えない。


 この襲撃の当初、俺たちが想定していたゴブリンの数は1000匹程度だった。


 キングが居たとしても、群れの規模がその程度であれば上位種は大して多くはない。上を見ればきりがないからと、希望的観測でキングが居る場合の最低の数で考えていたのだが、どうやら間違いだったようだ。


 なにせ、現時点でゴブリンの死体は燃やしたものも含めて、ざっと1000を超えていたからな。


 村の周りの濠は全て死体で埋まっていてその状態でさらにゴブリンが押し寄せ柵に体当たりしている。ゴブリンの上位種たちは後方で慎重にこちらを伺っていて、近づいて来ようともしていない。


「あいつらは飢餓感に襲われてないのか……?」


 うーん、気持ちが悪い。


 雑魚だけを向かわせて自分たちは後ろから見ているだけなんて。同じように飢餓感に襲われているのなら、ゴブリンリーダーだろうがゴブリンナイトだろうが向かって来る筈なのに……。


 それに、この襲撃……いや、ゴブリンの大量発生も、何か変に違和感があるんだよなぁ。


「…………」


 まさか、このゴブリンの大量発生の裏にはゴブリンとは別の何者かが暗躍していて、そのせいでうちの村がこうなってしまった……とか?


「いやいや、アニメじゃあるまいし、考え過ぎか。そんな事より今はこの事態を乗り切ることを考えるべきだな!」


 もし、仮に俺が思ったことが本当だったとしても、こんな小さな村に住む子供に過ぎない自分が考えるべきことではない。


「ふぅ……―――さて、じゃあ今日もゴブリンを燃やしますかね。これだけが最近の唯一の楽しみなんだよなぁ」




 ◆◇◆



 

 村がゴブリン達に囲まれる前の事。領軍が向かうという知らせを受けた俺たちは村の場所を分かりやすくするために、村の入り口から出来るだけの範囲の木を伐採し、見通しを良くした。


 これは万が一にも領軍が到着した際に村の場所が分からないという事を防ぐためだ。


 軍に詳しい人によると、領軍には魔導士と呼ばれる魔法使いが居るらしい。

 彼ら彼女らの魔法によって村が破壊される可能性を考えると、入り口をしっかり見えるようにしておくのは重要になる。


 そして、領軍から見えるという事は、同時に村からも領軍が近づいて来るのが見えるということで、物見塔の1つでは常に領軍が来ているかどうかを見張る役が1人、割り当てられていた。


「見えた! 領軍が見えたぞ!」


 そう聞こえて来たのは、襲撃が始まってから4日後のお昼過ぎ、『弓士』のスキルを持つベイプさんが監視についている時の事だった。


 弓士というだけあってベイプさんは視力が非常に良い。だから俺たちが見たらまだどこに居るのか分からないぐらいの遠くだったが、見えるという事はもう数時間もすればたどり着く距離にいるのは間違いない。


「だけどこの状況、俺たちの方があと数時間ももつかな……」


 村の現状は悲惨そのものだ。食料はまだ問題ないとしても、村人たちの気力と体力はとっくに限界を超えている。


 かく言う俺もかなりまいってて、昨日までゴブリンを燃やすことで無理やり上げていたテンションも、今日になってからはすっかり上がらなくなってしまっていた。


 相変わらず村の周囲の濠はゴブリンの死体で埋まっていて機能していないし、新調した柵は激しく止めどない体当たりによってボロボロになっており、いつどこから崩れるか分からない。


「おいカイララ。このままじゃ領軍が来る前に村が終わっちまうぞ。何かいい案は無いのか?」


「オババ……なら、オババが中級魔法でゴブリン達を一掃してよ」


「前も言っただろ、それをすれば森がなくなる。そうなれば村が残ったとしても生きて行けない人間が出てくるぞ」


「もう俺にはそれ以外に思いつかないんだ。オババが出来ないんなら一か八か領軍を待つしかないでしょ」


「……また、お前の設計図で打開策を探せばいいじゃないか」


「そんなこと言ったって、指示を出せる人間がもういないんだよ! 監視の人たちは動かせないし、村の人たちは疲れ切ってて無理やり動かせば最悪死んでしまうかもしれないんだ! それでも俺に何か作れって言うのか!?」


 設計図のスキルで動かされる人たちは当たり前だが疲れる。しかも、スキルによって普段使わない体の使い方をさせられることが多いので、人によっては大きな負担になってしまう事もあるのだ。


 健康で元気な状態ならまだしも、ここまで疲れ切っていたら作っている最中に死んでしまう事も十分あり得る。そんな状態で村を救うためとはいえスキルを使うなんて、俺には出来ない。


「ほう、そうか」


「そうだよ。村の人たちはもう動かせない」


「ふむ……じゃあ、村の人間の代わりに領軍の人間を使うってのはどうだい?」


「……はあ?」


 何言ってんだこのババア。領軍にスキルで何かを作らせるとしても、村に来てからじゃないと意味ねぇだろ。そもそも、領軍がここに来てる時点でゴブリン騒動は解決してるだろうが。


「カイララ、お前の設計図のスキルレベルは今どれぐらいだ?」


 スキルレベル。そう言えば忙し過ぎて気にしてなかったな。

 オババに言われて確認してみると、スキルレベルは49になっていた。


「49だ」


「じゃあ試練をこなせばレベル50だな。知っているかい、カイララ。スキルレベル50という節目では、今までの10刻みの時よりも遥かに能力上昇幅が大きいんだ」


「……そこに何か打開策があると?」


「さあな。ただ、やってみる価値はある。それで、レベル50の試練はなんだい?」


「『中規模以上の設備製造を開始すること』らしい」


「なら話は簡単だ。今ここで、この村の防衛設備の製造完了を宣言しろ。それだけでレベルが上がる」


 俺は言われた通りその場ですぐに『村の防衛設備の製造完了』を宣言した。

 同時にスキルレベルが50へと上がり、基礎能力の上昇と新しい力が解放される。


 レベル50で上がった能力と、解放された力は以下の通りだ。

 

 ・作業効率アップ

 ・指示出しできる人数が50人に増加

 ・高速製造


 この内容を見た俺は、すぐに村入り口近くの物見塔の上にあがって、領軍が来ているという道の先を凝視する。


 すると、ほんの米粒程度の大きさだが、確かに領軍の旗らしきものが風に揺れているのが見えた。


「これならスキルが使える」


 ただ、スキルを使うには使用する相手に同意してもらわなくてはならない。


 俺はオババに風の魔法で手紙を届けてもらうように依頼し、返事が来るのを待った。

 すると、しばらくして領軍から「そのようなことが出来るならやってくれ」と返事が来た。


 これで準備は完了だ。


 「では行こう。高速製造、開始!」


 10分後、村に50人の領軍精鋭兵士が到着した。


 ちなみに、いま俺が製造しようとしたのは、まな板1枚だ。

 兵士の中から1人が代表してまな板を作り、その後その代表者は他の兵士たちと同じようにゴブリンの掃討へと向かって行った。

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