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「登校の時間だ。次期当主様とフィラルディーア様をお待たせすることのないように、馬車付き場へ向かうから、行きますよ」


「あら、お早うございます。お迎えありがとう」


 昨日よりも控えめにドアが叩かれ、昨日の執事が顔を出した。笑顔を向けたルリアーナに、執事はきまり悪そうに言う。


「べ、別に、次期当主様とフィラルディーア様をお待たせさせないためですから。……思ったより、下級メイドの裁縫の腕があったようで、安心しました」


「ご心配いただきありがとう」


 にこりと微笑んだルリアーナに、執事が慌てたように言った。


「次期当主様とフィラルディーア様の間に割っている悪女なんか心配しておりません!」




「いってらっしゃいませ、ルリアーナ様」

「気をつけろよ」


 心配そうに見送るミイアとマットの姿に、ルリアーナは勇気づけられ、馬車付き場に向かった。


 馬車付き場に着いて、しばらく経つと、仲睦まじい様子のシジャールとフィラルディーアが現れた。そんな様子では、ルリアーナの存在意義はないのでは、というルリアーナの心の声が顔に現れないように、頭を下げて朝の挨拶をする。


「お早うございます、ダンテ伯爵令息様。ダンテ伯爵令嬢様」


「きゃあ!」


 そう言って頭を下げたルリアーナの姿に、フィラルディーアは一瞬目を丸くした後、叫び声をあげた。



「どうした!? フィラルディーア!」


「る、ルリアーナ様がわたくしのことを、怖い顔で見ていたのです」


 うるうるとした瞳でシジャールを見上げるフィラルディーアに、ルリアーナは混乱して思わず顔を上げ、声を上げた。


「わ、わたくし、ダンテ伯爵令嬢様をそのような視線で見ておりません」


 心配そうにフィラルディーアを抱きしめていたシジャールが、ルリアーナを睨んで言った。


「煩い、黙れ。私の寵を受けるフィラルディーアに嫉妬したか? それとも、フィラルディーアの愛らしさに、か? お前も口先ではフィラルディーアに仕えると言っていたが、他の女と同様か。……怖がらせてすまない、フィラルディーア。君を守るためなんだ。学園に着くまでの馬車の間だ。我慢してくれるか?」


 その声に、ルリアーナは慌てて再度頭を下げる。


「えぇ、お義兄様がいれば、安心ですもの。……ディーのことを守ってくださいますか?」


「もちろんだ。本当なら、ディーと同じ馬車に乗せたくもないが、初日な上に婚約者として周知させなければならないからな。我慢してくれるか?」


「お義兄様となら、どんな環境でもディーは平気ですわ」


 わたくしって……ゴミを漁る黒光りする虫かなにかだったかしら? という顔を見せないように、頭を下げ続けるルリアーナを無視し、シジャールのエスコートを受けたフィラルディーアが馬車に乗り込む。ルリアーナの横を通るとき、誰にも聞こえないような声で言った。


「可哀そうな人。せいぜい、わたくしの新しいおもちゃとして楽しませて頂戴」


「え?」


 驚いたルリアーナが顔を上げると、フィラルディーアが嘲笑を浮かべた。


「おい、早く乗れ。フィラルディーアを待たせるな」


 シジャールの声を受けて、ルリアーナが慌てて馬車に乗り込む。横にいた執事が、中から見えないようにさりげなく補助した。


 馬車が見えなくなったとき、執事がぼそりとつぶやいた。


「……ルリアーナ様はずっと頭を下げていたのに、睨まれた……? それに、あの嘲笑と言葉……きっと、気のせいですよね?」








「おい」


 気の重い馬車の時間も終わりに近づいたとき、ずっと置物に扮して、いちゃつくシジャールとフィラルディーアの邪魔をしないようにしていたルリアーナに、シジャールが突然声をかけた。


「……なんでございましょうか? ダンテ伯爵令息様」


「人前では、それやめろよ?」


「……?」


 思わず首を傾げるルリアーナに、いらいらした様子をかくすこともなくシジャールが言った。


「その、ダンテ伯爵令息ってやつだ。私のことはシジャール様と、ディーのことは、フィラルディーア様ときちんと呼ぶのだ」


「……承知いたしました」


 そう言うと、興味を無くしたようにフィラルディーアに向き直る様子に、ルリアーナはほっと息を吐き、再び置物に扮するのだった。

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