お弁当は作ってこないでって言ったでしょ!?
秋晴れの空。丸い雲にまだまだ緑色の木々。
絶好のピクニック日和だ。
彼氏のコータとお弁当を持って出かけようと約束したのは一週間前。晴れて良かった。
料理は苦手だけど、早起きをしてお弁当を作った。コータは料理が趣味で、彼の家に遊びに行くといつもご飯を作ってくれるから、たまには私もと頑張ったのだ。
美味しいご飯を作るコータに、わざわざ手料理を振る舞わなくてもいい気はするし、私が作った見目の悪いお弁当を広げるのはなんだか負けたような気もするけど——それでも作ることにしたのは、意地もあったのかもしれない。
いつも美味しいものを食べさせてくれて感謝してる。でも私だって、コータに食べてもらいたい気持ちはあるの。
形の悪い卵焼きや焦げたウインナーは、恥ずかしさもあるけど、まあ愛嬌ということで。うん。
いそいそとピクニックシートを広げるコータも楽しそうだ。
さて、とお弁当を差し出すと、向かい側に座るコータもお弁当を。え、なんで?
「お弁当は作ってこないでって言ったでしょ⁉︎」
荷物が多いなぁとは思っていたけど案の定だ。人の話を聞かないやつ。自己中というか。
「うん。けど、やっぱりチカには俺の作ったの、食べてほしいなーって」
「せっかく作ってきたのに! 無理してコータまで作らなくても」
「無理なんてしてないさ。俺は、チカが俺の作ったご飯を美味しそうに食べてくれるのが嬉しいわけよ。知ってるでしょ、趣味なの」
知ってるけど、私が作ってくることもコータは知ってたわけで。
「……そんなに私の手料理、食べたくなかった?」
怒りを通り越して虚しくなる。
「まさか! それは俺が食べる。これはチカに。交換しよ」
バカなの? そこまでして?
「……無理しないでよ?」
「してないしてない! こう見えて楽しみにしてたんだよ、お弁当」
渡された綺麗に詰められたお弁当——その奥で。
見目の悪い、ただ詰めただけのお弁当に目を輝かせてる。
嬉しそうに箸を持つコータは、いつもとは少し違って見えて。
私もこんな顔をしてるのかな、とちょっとだけ、自己中なコータを理解できたような気も——
でも、やっぱりバカ。
私はコータと私の分、コータは私の分を作ってきてる。量が多い。
「うぷ」
半分食べ終えたコータの前には、残り大人二人前の量が残ってる。
これもいつか良い思い出になるのかな。
私は、コータお手製のお弁当——大人三人前をぺろりと平らげた。
「うぷ」
「だから作ってこないでって言ったでしょ!」
コータ(名前)が飲料名に見えてくる…
漢字にすればよかったかなあ。
なろラジ参加用1000字短編でした。