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マデリアはイスレード王国のアルタロッサ公爵の長女として生まれた。
母は早くに亡くなっており、父親はあまり帰って来なかった為、マデリアの四歳上の兄は使用人に育てられたといっても過言ではない。
ある日、めったに帰ってこない父親が珍しく家に帰ってきたと思えば、イスレード王国の王太子とマデリアの婚約話を勝手に結んでいて。
マデリアが六歳の時だ。
それからマデリアの王妃教育が始まった。が、それも十年ほどで終わることになる。
王太子が婚約者であるマデリアそっちのけで伯爵令嬢と恋に落ちたらしく。
かなりお粗末で、それでいて醜悪な冤罪を吹っ掛けられて。
冤罪はすぐに解けたが、その頃にはすっかりと王太子には愛想を尽かし、望み通りに婚約破棄をした。
意外にも王太子との婚約を繫いだ父は、大賛成だった。
曰く、"お前には他の使い道がある"らしく。
王太子の愚行にも、"伯爵令嬢の方が殿下の好みなのだから仕方ないだろう"と、実の娘が酷い仕打ちをされたにも関わらず王子の方を持った。
そんな父親に不信感を持ち始めていた時、王太子の義母である王妃に、"家出しない??"とまるで明日の天気を話すように軽く誘いを受けた。
このままアスタロッサ公爵家にいても、どうせ父の道具に使われるだけだし、婚約破棄の件でマデリアには醜聞がついてしまった。
どうせこれからも後ろ指さされて生きていくしかない。ならば、さっさとこんなとこから去ったほうが良い。
と、それが王妃の言い分だった。
そして王妃が"家出先に"と、紹介してくれたのがセルバス王国であった。
『あそこの国王とは"お友達"なのよ。元気でね』
王妃はそう言って、マデリアを密かにセルバス王国に逃がしてくれた。そういった経緯で、マデリアはセルバス王国へやってきてのだ。