プロローグ
大陸の西側、気候は比較的温かく、海にも山にも面した自然豊かな笑顔あふれる穏やかな国、セルバス王国。
私はこの国が大好きだった。
***
縺れる足をなんとか動かし、マデリアは廊下を全速力で走る。
「ユルベール様!!ユルベール様はどちらに?!!」
城の外には飛び交う怒号と金属がぶつかる音。
花で溢れていた城下町は炎に包まれ、民が兵士が血を流して倒れている。
なぜこんな事に。
事の始まりは二日前。
隣国の"イスレード王国"が突然兵を向けてきた。
建国以来、友好国として良い関係を結んできた国だ。
そんな国が何の前触れもなく、突然軍を率いてこのセルバス王国を蹂躙し始めた。
当然、我が国は対抗した。皇太子を旗印に兵を挙げたのだ。だが圧倒的な戦力差で軍は壊滅、皇太子は殺されたと聞いた。そして、とうとう城にまで敵兵がやってきたのだった。
何故??どうして??
そればかりが頭の中を巡る。
「ユルベール様-------!!!」
「マデリア!!」
名前を呼ばれてそちらの方に目を向ければ廊下に置いてある大きな壺がガタガタと揺れていた。慌ててその中を覗くと見慣れた小さな子供が一人。
「ユルベール様!!」
第二王子の娘で、国王の孫娘でもある少女がその壺に入っていて。
慌ててその壺からユルベールを抱き上げ、その震える小さな体を目一杯抱きしめる。
「陛下はどちらに??お父君やお母君は·····??」
「わからないの·······アデルに連れられて逃げてたんだけど。アデルがこの中に入っててって言って·····何処かに···」
王国騎士団の一人、アデルは女性騎士の中で一番腕が立つ。その腕を見込まれて第二王子妃の護衛隊の隊長に抜擢されたほどの腕前だ。
「アデル様なら、きっと大丈夫です。」
自分に言い聞かすようにその言葉を噛み締める。
国王もユルベールの両親もマデリアの家族も、皆きっと無事だ。
無事なはずだ。