7・王国魔術師団団長
(……剣術について教えてほしかっただけなのに、なんだかおかしなことになってしまった)
修練場の中央に、ライラとアランズが立っている。そしてぐるりと周囲を囲うように、騎士団の面々が様子を見守っていた。――ライラとアランズは、決闘を行うことになってしまったのだ。
騎士団長であるロザートは止めようとしたし、ライラも「さすがにそれは……」と思ったのだが。リュミエールが『戦って負かしてやれ。この男は、そうしなければわからんのだろう』と、ライラに戦うことを勧めたのだ。
困惑するライラに、アランズは剣先を向ける。
「貴殿はこの俺を愚弄した。それに、貴殿の実力を確かめさせてもらわなければ、英雄と認めることはできん。正々堂々、勝負だ」
そこで、審判を務めることになったロザートが、ライラに尋ねる。
「ライラ様、アランズの奴が申し訳ございません。本当に、勝負を行ってよろしいのですか?」
「はい。彼を愚弄したつもりはありませんが、実力がなければ英雄と認めないというのは、納得できる部分はありますから。やれるだけのことはやってみます」
(もともと、英雄っていう称号は、今の私には過分だもんな。負けたときは素直に謝ろう)
ライラは、そんなふうに思っていたのだが――
『心配するな、ライラ。君には私がついている。君の想像力があれば、負けることなど有り得ない』
(想像力、か。こう動きたい、ってイメージすればいいんだよね。ええと……)
ライラがいろいろと過去の記憶を探っているうちに、ロザートが手をかざした。
「では、これより決闘を始める。……開始!」
合図と同時に、アランズはすぐライラの方へと踏み込んだ。貴様なんて一撃で仕留めてやる、というような重い攻撃が繰り出される。だが――
ガキィンッ、という音がして、ライラはアランズの攻撃をリュミエールで受け止めた。
周りで見ていた騎士達が、ザワッと声を上げる。
「す、すげえ! あの『必中の銀狼』と呼ばれるアランズ隊長の剣を受け止めた……!」
「ライラ様、やっぱりさすがだ……!」
『うむ、ライラ。君のイメージはとてもいいぞ、その調子だ』
ちなみにライラがイメージしているのは、前世で観ていた、剣を使ったバトルアニメだ。主人公のチートっぷりが爽快で、ハマっていて何度も見ていたので、戦闘シーンをよく覚えている。
(まさか前世でアニメ観まくってたことが、こんな形で役立つなんて……)
アランズの方も、目を見開いて驚いた顔をしていた。
「……ふん。今のを受け止めるとは、なかなかやるな。だが、勝負はこれからだ」
それからも、アランズによって息を吐く間もなく繰り出される激しい攻撃を、ライラは全て剣で防いでいった。修練場内に剣戟の音が響き渡る。
「すげえ……アランズ様と互角に戦ってる……」
「やっぱり、ライラ様のお力は本物だ」
周囲の騎士達がそんな声を上げるたび、アランズが眉を顰める。彼は熱くなっているようで、剣を振るう腕に更なる力を乗せた。並の相手であれば剣を弾き飛ばされてしまうところだが、光の加護によって能力向上されているライラには、簡単に受け止めることができる。
『ライラ、受け止めるだけではなく、自らも攻撃するイメージをするんだ』
(攻撃するイメージ……うーん)
ライラはやはり、前世のアニメやゲームの記憶を探る。
(私の好きなアニメでは、剣から光の斬撃波を飛ばす必殺技があるんだよなあ。ああいうの、できたらいいのに)
ライラがそんなことを考えながら、剣を振るうと。
(え!?)
リュミエールの刀身に眩い光が宿り――
それはそのまま、鋭い光の斬撃となって、アランズを包み込む。彼の立っていた場所が、ドカーン! と爆破の煙を上げ、床にヒビが入った。
「ええええええ!? 本当にできちゃったんですけど!?」
『私を扱うには、想像が大事だと言っただろう』
「想像すれば、こんなこともできちゃうの……!?」
『ああ。君の想像は素晴らしいな。実行したい技を、映像として動きも音もある状態で思い浮かべられるのだから。おかげで私も補助がしやすい』
(そりゃ、アニメで見た技ですから……動きも音も思い浮かべられるよ)
ライラは自分が放った技に驚いていたが――すぐにはっと我に返り、アランズのもとへ駆け寄る。
「だっ、大丈夫ですか!?」
『心配することはないぞ。私の光は、魔の者は浄化するが、人間を殺すことはない』
リュミエールの言葉通り、アランズは呆然と立ち尽くしていたが、無傷ではある。
周りで見ていた騎士達は、わあっとライラに喝采を送った。
「す、すげえ! なんだ、今の技は!」
「ライラ様、剣技の心得がないなんて嘘だろう!?」
「なんて美しい光だ……さすがは伝説の剣。それを使いこなせるライラ様は、やはり素晴らしい」
(いや、剣技の心得は本当にないんだけど……)
もともと英雄という称号は自分には過分だったけれど、なんだかいっそう過大評価されてしまっている気がする。
どうしよう、とライラが考えていると。彼女の目の前で、アランズがふるふると震え出した。
(まずい。屈辱で怒りが爆発する……!?)
ライラは、身構えていたのだが――
「素晴らしいです!! ライラ様!!」
「……………………はい?」
アランズはライラの前に跪き、キラキラと輝く眼差しでライラを見上げた。
「貴殿の強さは本物です! 先程までの無礼、大変失礼いたしました! これからは貴女様のことを、ライラ様と呼ばせてください!」
「――いや別に、そこまでしてくれなくてもいいんですけど!?」
(この人、あまりにも極端すぎる……!)
ライラが、あわあわと困惑していると。ははは、と涼やかな笑い声が上がった。
(この声は……?)
声の方を振り返ると、そこに立っていたのは――騎士とは違う装いに身を包んだ男性だ。
鴉の濡れ羽のような漆黒の長髪を一つに束ね、魔術師のローブを纏っている。だが何より目を引くのは、その顔立ちだ。
まるで一流絵師の絵画から抜け出してきたのではというほど、恐ろしいまでに美しい。紅玉をはめ込んだような、切れ長の瞳。どんな技量を持つ彫刻師でもここまで整った形は造れないであろうという、通った鼻筋と薄い唇。一つ一つが神から与えられた宝のようなパーツが、形のいい輪郭の中におさまっている。
「いや、すまない。今の戦いは俺も見させてもらっていた。本当にすごいな、あなたは」
「あなたは……」
「失礼、名乗るのが遅れたな。俺はルヴァイン。王国魔術師団団長だ」
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