34・愛の言葉
その夜――皆が寝静まっている時刻。ライラは魔獣の気配を感じて、自分の魔法天幕から出た。しかし気配の方へ行くと、既にルヴァインが魔獣を仕留めた後だった。
「おや、起こしてしまったか? 魔獣なら仕留めたので、明日になったら浄化をお願いしようと思っていたんだがな」
「お気遣いありがとうございます。今、浄化しちゃいますね」
光の力で、魔獣の瘴気が晴れる。ライラは再び天幕に戻ろうかと思ったが、ふとルヴァインが夜空を見上げた。
「どうしました?」
「いや。今夜は、星が綺麗だと思ってな」
「わあ、本当だ……」
見上げれば、夜空には無数の宝石をばら撒いたかのように、美しい星々が煌めいている。
(日本にいた頃も、フレッグと結婚していた頃も……こんなふうにゆっくりと星を眺めるなんて、しなかったな)
「いつも戦闘ばかりだから、たまにはこうして星を見上げるのもいいですね」
「そうだな。浄化の力はあなたにしか使えないから、毎度大変だろう。いつもありがとう、ライラ」
「いえ。多くの人達の役に立てるのって、嬉しいですから。水の魔王を倒したときも……皆さん、すごく喜んでくれましたし」
「ああ。リリアナを刺したときのあなたは本当に素敵だったな、ライラ」
「ありがとうございます。……でもルヴァインって、やっぱり変わった趣味だと思います」
「ふふ。俺はあなたの毅然とした姿が好きだよ。まあ、それ以外の姿も全て好きだが」
「またルヴァインはそういうことを……」
――だけど。出会った当初は裏があるのではないかと疑ってしまったけれど。共に旅をした中で彼を見てきて、今は、本当に心から言ってくれているのだとわかる。
だからこそ――胸の鼓動が、高鳴ってしまう。
「水の魔王の件では、罪のない人間に死者が出なくて本当によかったな。あの不貞男も、今度こそ無事処刑されたことだし。まあ、許されることなら俺の手で殺したかったな」
にっこりと優美な笑みを浮かべているが、確実に本気だ。
「えーと、あなたの手で殺す云々は、ひとまず置いておいて。ルヴァインも……本当に、無事でよかったです」
「ああ、心配してくれてありがとう」
あのとき彼は、人々を守り、ライラの心を軽くするため、水の魔王の魔力を己の身で引き受けてくれたのだ。その後、ライラが光の力で傷を癒したものの、ルヴァインが血を流していたあの姿は、今思い出しても身体が凍りそうになる。
(あのとき……ルヴァインが死んだら嫌だ、ってはっきり思った。それは、仲間だからというだけじゃなくて――)
「どうした、ライラ。そんなに俺の顔をじっと見つめて。ようやく俺に惚れてくれたか」
ルヴァインは、にっこりと微笑を浮かべてそんなことを言ってくる。冗談なのか本気なのかわからないけれど――多分。冗談のような言葉の中に、本音を込めているのだろう、と。今のライラにはわかる。
わかるからこそ……顔が熱くなって、まともに彼の瞳が見られなくなる。
それでも。ちゃんと伝えたい、と思い、目を逸らさず彼を見つめ続けた。
「そ、その……ルヴァインは、変な人ですし、油断ならない人だと思いますけど」
「ん?」
「……でも、私……あなたのこと……き、嫌いでは……ないです」
ライラの言葉に、ルヴァインは美しい瞳を見開いていた。
長い間共に旅をしてきたが、ライラは、彼のそんな顔を見るのは初めてだった。
「……俺の自惚れでなければ。それは、『好きだ』と言ってくれているのかな」
ぼっと、顔がいっそう熱くなり、ライラはとうとう、彼から顔を背けてしまった。
だけどルヴァインは、そんなライラの顎を持ち上げ、視線を重ねる。
「ライラ。愛している。……この旅が終わり、世界が平和になったら、結婚してくれないか」
「き、気持ちは嬉しいですけど。私の世界ではそういうの、『死亡フラグ』っていうんですよ」
「死亡フラグ?」
「戦いが終わったら結婚する、とかそういう約束をすると、その人は死んでしまいがちっていう、創作物の中のジンクスです」
「俺達には無関係な話だ。あなたと結婚する前に死ぬなんて、そんな勿体ないこと、俺はしないさ。それに……あなたを死なせもしない」
甘く囁かれ、心臓はバクバクと、壊れてしまいそうなほど大きな音を立てる。
「まあでも……確かに、死亡フラグは関係ないかもですね。……あなたが私を死なせないと言ってくれるように。私も、あなたに何かあったら、必ず守りますから」
ライラの言葉に、ルヴァインはまた微かに目を見開いた後、ふっと噴き出す。
「……やっぱり、あなたのそういうところが、愛おしくてたまらないな」
「そ、そうですか」
「それで。結婚してくれるのかい? ライラ」
直球で問われると、どうしていいのかわからない。ライラは何度か口を開閉させた後、声を絞り出すようにして、なんとか答えを返した。
「ふ……不貞したら、刺しますから」
ライラは照れ隠しのようにそう言ったが、それはつまり「あなたと結婚します」と言っているも同然だ。ルヴァインは、とろけそうなほど幸せそうな微笑を浮かべ……間近でそれを見てしまったライラは、まるで全身に甘いお酒が回るように、熱く身体が溶けてしまいそうになった。
「ああ。俺も、万が一君が不貞したら、相手の男を刺した挙句、君のことは鍵のかかった部屋に閉じ込めて死ぬまで逃がさないよ」
「もう。ルヴァインは、またそういうことを――」
「本気だ。そのくらい、君を愛している。……他の誰も目に入らないし、他の誰の目にも触れさせたくないほど」
ルヴァインはライラを抱き寄せ、彼女の身体を包み込む。力は強いのに乱暴じゃない――宝物に触れるような、優しい抱擁だった。
そうしてその後、ライラ達一行は、残りの魔王を全て倒して。
ライラとルヴァインは結婚し、いつまでも、幸せに暮らしたのだった――
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