表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/34

31・リリアナ、刺される

「ああもう、そういうのが、うるさいっていうのよ! 減刑して生き延びたところで、どうせ冴えない生活を送ることになるんだもの。それなら、魔族の要人として華々しい人生を送った方がずっといいわ!」


 リリアナが手をかざす。すると彼女の周囲に、淀んだ色をした水が、まるで蛇のように細長く宙に浮いた。


「ここにいる人間達は、全員、私の可愛いお人形よ。いくらあんたが光の剣を持ってるからって、これだけ傀儡がいれば浄化しきれないでしょう」


 リリアナが、人々に水を浴びせる。すると、先程ライラの浄化を受け正気を取り戻していた人々も、また瞳から光が消え、理性を失ってしまったようだった。


「あの水を浴びると、傀儡にされてしまうようだな」

「……罪のない人達を、こんなふうに利用するなんて最低です」


 ライラは、リリアナとフレッグに鋭い視線を向ける。


「フレッグ……。あなたも、リリアナを止めようとは思わないんですか?」

「――お前のせいだろう、ライラ」


 フレッグはライラの問いに答えることなく、逆切れする。


「お前と結婚したから、俺の人生は壊れたんだ! だから俺は、こんなことをするしかなくなったんだ。お前が俺から光の剣を奪ったから、俺は光の英雄になれなくなった。だから今度は、魔の英雄になってやるんだ」


(……もうどこから突っ込んでいいのやら)


 ライラは光の剣を奪ったわけではなく、フレッグが火の魔王に身体を乗っ取られたから、街を救うために刺しただけだ。そうでなくたって、心の腐敗したフレッグは、とうにリュミエールに見捨てられていた。


 フレッグが英雄になるなどという道は、ライラと結婚する前から絶たれていたのだ。それなのにどうしても、「英雄」という言葉には縋りつきたいらしい。――どこまでも、未練がましい男だ。


 ライラがため息を吐きたい気持ちになっていると、ルヴァインが前に出て、相手を凍らせるような目でフレッグを睨んだ。


「貴様が彼女の人生を壊した、の間違いだろう。加害者の分際で被害者ぶるな。……貴様はいつだって自分のことばかりだ。彼女を傷つけたことを、謝罪しようとは思わないのか」

「何故俺が謝らなければならない? もういい、リリアナ、やっちまえ!」


 リリアナが手を動かすと、まるでそれに操られる人形のように、さっき浄化した人々がまた傀儡化して襲いかかってくる。


(このままじゃ、どれだけ浄化してもいたちごっこだ。相手は人間だから、殺してしまうわけにもいかないし……)


 光の力は無限ではない。強力な浄化や結界を張れば、水の魔王を消滅させるための力を使い果たしてしまう。リリアナを刺すのが最も手っ取り早いが、大量の傀儡達が邪魔して接近できない。


「ほら、私の人形達! もっと力を出しなさい!」


 リリアナが、魔力によって傀儡達の能力を強化しているようだが――

 急激に魔力を注がれ、加護もないのに無理矢理強化されることに耐えられず、傀儡化した人々の身体から血が流れだす。


「なんてことを……!」


(このままじゃ、皆さんが死んでしまう……)


「ぅ、……っぁ……、く、ない……。まだ……死にたく、ない……」


 そこで、リリアナによる傀儡化に、抗うように。一人の男性が、ぶつぶつと呟いていた。


「ジャック……ステラ……」

「――! この人、行方不明になっていた、ジャック君とステラちゃんのお父さん……!?」


 髪の色と目の色が、二人と同じだ。顔立ちも似ている。

 ライラの脳裏に、親を心配し、辛そうな顔をしていた二人の顔が浮かび――それは元凶であるリリアナへの怒りに変わる。


(子どもにあんな辛そうな顔をさせるなんて、どこまで非道なの……! 絶対に、この人はジャック君とステラちゃん達のもとへ帰さなきゃ)


 しかしリリアナは、そんなライラの想いを嘲笑うように傀儡達に命令を下し、更なる魔力を無理矢理注ぐ。


「何よ、あんたらの知り合いなの!? ならちょうどいいわね! ほら、早くライラを殺しなさい!」

「グ、ァ……!」


 身体を無理矢理操られ、無理な負荷を与えられ、ジャックとステラの父親は、とうとう血を吐き出す。あちこちから血を流しながら――それでもリリアナの支配から逃れることができず、ライラ達に襲いかかってくる。このままでは、器が負荷に耐え切れず、彼は死んでしまうだろう。かといって今ライラがこれ以上浄化の力を使えば、水の魔王を倒すための力が足りなくなってしまう。


「……このままではまずいな。やむをえん」


 するとルヴァインが、何か呪文を唱え――

 次の瞬間、ルヴァインの身体に、ジャックとステラの父親の傷が移ったかのように、彼の身体から血が噴き出す。


「ルヴァイン!?」

「……問題ない。彼の魔力負荷を、俺の身体に集わせただけだ。俺は魔力抵抗が高いから、そう簡単に乗っ取られることもないしな。――これで、彼が死ぬことはない。だからライラ、安心するんだ。あなたの光の力は、水の魔王を消滅させるために使ってくれ」


 こんなときでもルヴァインは、優美な微笑みを浮かべる。ライラの不安を、少しでも溶かすように。


 彼の行動が――ライラの、魔王を討つ英雄としての心に、火を点けた。


「……こんなに多くの人達や、私の仲間達を傷つけるなんて――許さない。絶対に」


 ライラは、リュミエールを強く握りしめる。


 リリアナを刺す。そのイメージが、ライラの中でどこまでも鮮明に描かれ、膨れ上がっていった。明瞭な想像の力は、ライラの力はどこまでも増幅させる。彼女の身体が光に包まれ、ライラの闘志そのもののような強い光がリュミエールに宿る。


 その光が、自分を討つものだと、はっきりわかったリリアナは。肩を震わせ、顔を青ざめさせた。


「な……何する気よ! そ、そんな剣で、私を刺す気なの!? この人殺し!」

「何を言っているんですか? あなたはもう人間じゃなく、魔王でしょう。しかもあなたは、自分の意志で魔王に身を捧げることを選んだ。……同情の余地なんて、微塵もありません」


 ライラはまるで鷹のように俊敏に動き、リリアナに肉薄する。

 近付くごとに、リリアナの恐怖した顔がよく見えた。自慢の美貌も台無しで、情けなく涙と鼻水を垂らしている。これだけの人々の尊厳を軽んじておいて、自分に刃が向けられると怯え、被害者面をする卑劣な女。……反吐が出る。


「死んだ方がマシだと思うほどの苦しみを味わいなさい、リリアナ」


 そうしてライラは水の魔王を宿したリリアナに――光の剣を、ぶっ刺した。


「ひ……ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!」

ブクマ・評価・誤字報告などありがとうございます~!

とても励みになっています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ