30・操られた人々の浄化
今回からまたライラ達の話に戻ります!
ライラ達は、行方不明になった人々を探すべく、山に訪れていた。
魔の瘴気が強い方へと進み、やってきたのは、山中にあるダンジョンの内部だ。
途中に現れた魔獣を倒しながら、迷路のようなダンジョンの奥深くまでやってきていた。
「……嫌な気配が強くなってきたな。ライラ、気をつけるんだ」
ルヴァインがそう言った、ちょうどそのとき――
「!」
ライラの背後から、刃物による攻撃が繰り出された。光の加護によって気配察知力も敏捷性も上昇しているライラは、とっさに避けるが……
「魔獣……じゃない!?」
ライラに攻撃してきたのは、獣型ではなく、人型の男性だった。
「魔族……ってわけじゃなさそうだな」
魔族とは、魔の力を持つ者の中でも、魔獣と違い人型をしている者の総称である。
魔王の復活前、魔獣は、特殊な魔力の満ちたダンジョンの中でしか生きられなかった。――かつて魔王が封印した際に残存した高位魔族も、最初はダンジョンの奥深くに逃げることでなんとか命を繋いでいたのだが。時間の経過と共に魔力を取り戻し、人間に復讐する機会を伺ってはいた。
だが――今ライラ達の目の前にいるのは、違う。
身体を黒い瘴気に包まれてはいるが、本人に魔力は感じられない。――魔力に支配されているだけの、人間だ。
「この辺りで行方不明になった人間達が、魔の力によって傀儡にされ、利用されているのだろう」
「なんてこと……」
元は家族と平穏に暮らしていたであろう普通の人間達を、こんなふうに戦闘の道具にするなんて――と。ライラの中に、強い憤りが芽生える。
傀儡にされている人々は、火の魔王に乗っ取られていたときのフレッグと違い、本人の意思で喋ることはない。だが、ずっと苦しそうに「うぅ……」と低い呻き声を上げている。まるで、身体が腐っていないだけの死人である。――生きた人間の尊厳を踏みにじる、卑劣な行為だ。
「ライラの光の剣で浄化してもらうしかない。俺達は、彼らの動きを止めることに尽力しよう。だがアランズ、殺すなよ。元は人間なんだ」
「わかってる」
「オレも手伝うぞ!」
ルヴァインは魔法で人々を拘束し、アランズは彼らの持っている武器を剣で弾き飛ばす。マレディクシオも、ライラを攻撃しようとする傀儡達からライラを守るように、彼らを引き付けた。
そうして、ライラがリュミエールを掲げ、その剣先から出る光で人々を浄化してゆく。
「リュミエール、浄化を!」
煌めく光に包まれた人々は、正気を取り戻し――
「あ、ああ……。なんて美しい光だ……俺達、助かったのか……!?」
「ずっと、自分の意志で身体を動かすことができなくて……! このまま死ぬしかないと思っていたんです」
「ライラ様、本当に、ありがとうございます……!」
どうやら人々は、傀儡化されていて自分の意志は封じられていたが、その間の記憶自体はあるようだ。多くの人々が、ライラに感謝を向けるが――
「ゥ……ア……」
「グ、ァア……ァ……!」
今度は傀儡化している人々が、正気に戻った人々を襲い始める。ライラも、ルヴァイン達も対処しているのだが、相手の数があまりにも多い。
浄化しても浄化しても、次々と湧いて出てくるように、ダンジョンの至るところから傀儡達が寄ってくるのだ。もしかしたら、百人以上いるのではないだろうか。エルゼンヌの行方不明者以外にも、各地から戦力になりそうな人間を集めて片っ端から傀儡化したのだろう。
「あははははははははは! 苦戦しているようね、いいザマだわ!」
「……!?」
(嘘、この声は……)
傀儡達が、道を開ける。そこから姿を現したのは、淀んだ青いオーラに包まれたリリアナだ。その後ろにはフレッグの姿もある。
「フレッグ、リリアナ……あなた達、一体どうして……? 魔王を復活させた容疑で、取り調べを受けているはずじゃ……」
「ふん、見ればわかるでしょ。処刑なんて絶対に嫌だったから、水の魔王に身体を貸すことにしたのよ」
水の魔王という強大な力を得たフレッグとリリアナは、御者達の目を盗んで王都へ向かう馬車から脱出したのだ。その際、同行していた魔術師達に水の魔王の魔術をかけ、フレッグとリリアナのことを忘却させたため、ライラ達にそのことが伝えられることもなかったのである。
「な……無理矢理乗っ取られたならともかく、自分から身体を差し出すなんて、有り得ない……! しかも、こんなにたくさんの、罪のない人達を巻き込んで……!」
「うっさいわね、だってどうせ処刑されるんでしょ! だったら魔王側についた方が得じゃない!」
リリアナはそう言うが、ルヴァインはあくまで冷静に指摘する。
「水の魔王と接触する機会があったのであれば、我々か王家にその報告をして、魔王復活の阻止に協力するべきだった。そうすれば、減刑してもらえた可能性があるだろう」
「な……!?」
顔を引きつらせるリリアナを前に、アランズもルヴァインの言葉に頷く。
「他に方法がなかった悲劇のヒロインみたいに振舞ってるけど、ルヴァインの言う通りだ。水の魔王に声をかけられたなら、その情報を活かして国を救えば減刑してもらえただろうに。……というかどうせ結局、ライラ様を見返したいとかいう一時の感情に負けたんだろ」
「まあ、その点に関しては、初対面でライラに決闘を申し込んだ君が言えることではないかもしれないがな、アランズ」
「う、うるさい! 俺は少なくとも、こいつらよりはマシだろう! 今はライラ様に忠実な仲間なんだから!」
ルヴァインとアランズのやりとりを前にして、リリアナは悔しそうに震え――




