28・サクサクからあげ
森の中で助けた兄妹は、兄がジャック君、妹がステラちゃんというらしい。
二人に案内してもらい、ライラ達一行は、無事エルゼンヌへ辿り着いた。
そうして、ジャック君達の家へ行くと――
「ああ、無事だったのね! 目を覚ましたら二人がいなくなってたから、本当に心配したんだから! 大丈夫だった? 怖いことは何もなかったの?」
兄妹の母親は、泣き出さんばかりの勢いで子ども達を抱きしめた。
「森の中でね、怖い鳥さんみたいなのと会ったんだけど、このお姉ちゃんが助けてくれたんだよ」
「お姉ちゃん、とっても優しいんだよ!」
母親はライラ達を見て、泣きそうな顔のまま微笑みを浮かべる。
「まあ……! 旅の御方ですか? うちの子達を助けていただいて、本当にありがとうございます」
「はじめまして、ライラと申します。こっちは仲間のルヴァインとアランズ、それからマレちゃんです」
ライラ達の名前を聞いて、母親は「まあ」と目を丸くする。
「ライラ様というと、もしかして、火の魔王を倒した英雄様……?」
「はい。今、各地の魔を浄化するために旅をしている最中でして。このエルゼンヌにも結界を張るべく、訪れました」
「まああ……! ど、どうしましょう、英雄様に来ていただけるなんて。あのっ、今、お飲み物をお出し……、っあ」
ふらりと、母親の身体がふらつく。兄妹が言っていた通り、体調が悪いようだ。
(この感じは、ただの体調不良というより……)
「すみません、ちょっといいですか?」
ライラはリュミエールを掲げ、そこから光を発する。母親の身体が淡い煌めきに包まれると、彼女の顔色がふっと良くなった。
「あ、あれ……!? 最近ずっと苦しかった身体が、楽になりました……!」
「魔の瘴気の影響で、具合が悪くなっていたみたいですね。この光の剣で浄化したので、もう大丈夫ですよ」
「まああ……! ライラ様、本当にありがとうございます!」
顔色が良くなった母親を見て、ジャック君もステラちゃんも目を輝かせる。
「お母さん、元気になったの?」
「ええ! ライラ様のおかげで、もう大丈夫よ」
「お母さん、よかったね!」
「お姉ちゃん、本当にどうもありがとう!」
「ふふ、どうしたしまして」
子どもの笑顔というものは、見ているだけで癒される。親子のやりとりを見ていて、ライラまで心が温かくなった。
「さて。それじゃあ、お母さんが元気になったお祝いに、ご馳走を食べさせてあげましょう」
ライラの言葉に、母親は「えっ」と目を見開く。
「そういうわけで、キッチンをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「そんな! 浄化していただいただけでも過分なのに、ライラ様に料理をやらせるなんて、とんでもない! 私がやりますので、ライラ様はどうぞ座っていてくださいませ」
「大丈夫ですよ。病み上がりの方に料理を作らせるわけにはいきません。それに……」
ライラは兄妹と目を合わせ、にこりと微笑む。
「おいしいものを食べさせてあげるって、この子達と約束したんです」
◇ ◇ ◇
アランズに解体してもらい、鶏肉状態にしてもらったコカトリスの肉を一口大に切る。ボウルに鶏肉、塩胡椒、酒少々、すりおろした生姜とにんにくを入れて、よく揉み込む。醤油があったら別の味付けもできたけれど、この世界には存在しないため、今回はこの味付けだ。そうしてコカトリスの肉に粉をまぶし、油で揚げれば――からあげの完成だ!
「できましたよー」
油を切った唐揚げと、付け合わせの野菜をテーブルに運ぶと、ジャック君もステラちゃんも、他の面々も、キラキラと目を輝かせた。
「すっごい、いい匂い……!」
「お姉ちゃん、この料理、何!? 見たことない!」
「これは、唐揚げっていうんです。私の故郷の料理なんですよ。おいしいので、ぜひ食べてみてください」
「わああ……! 本当に食べていいの!?」
「もちろんです。さあ、いただきましょう」
食事の前の挨拶をし、それぞれ唐揚げを口に運ぶ。前世は日本人だったライラにとっては、フォークで唐揚げを食べるというのは少し慣れないが、それでもやはり、久々に食べる唐揚げは美味しかった。ジャック君もステラちゃんも、二人の母親も、すごく喜んでくれている。
「おいしいー! これ、サクサクしてて楽しいね!」
「でも、中のお肉はとっても柔らかいの!」
「すごい……。こんなにおいしいもの、初めて食べました!」
(こんなに喜んでもらえると、作った甲斐があったなあ)
ウィンベルトでのように盛大に歓迎してもらえるのも嬉しいけれど、自分のしたことが誰かの笑顔に繋がるという、こういう時間も幸せだ。喜んでもらえると、自分まで嬉しくなる。
家族達が美味しそうに唐揚げを頬張り、また、ライラの仲間達も非常に喜んでいた。
「以前作ってもらったとんかつも美味かったが、この唐揚げというのも実に美味だな」
「本当に美味しいです! さすがはライラ様です!」
「オレ、こんなの初めて食べる! うめぇ~!!」
(ふふ、嬉しい。食べてくれる人が喜んでくれると、料理って楽しいなあ)
以前の、フレッグや義両親に毎日料理を振舞っても、無言で食べられたり、文句を言われたりしてた日々からすると、夢のようだ。
ジャック君とステラちゃんの母親――エマさんもとても幸せそうだったが、ふと恐縮そうに言う。
「ライラ様、本当にありがとうございます! ですが英雄様にここまでしていただいて、本当にいいのでしょうか」
「もちろんです。だってエマさんは昨日まで、体調が悪い中、家事を頑張っていたのでしょう。いえ、体調が悪くない日だって……毎日家事に追われていたら、疲れちゃうでしょう?」
ライラもフレッグと結婚していた頃は、日々家事に追われていたからこそ、その気持ちはよくわかる。買い物に行って、毎日の献立を決めて、実際に料理をして……。正直面倒だと思う日ばかりだけど、外食はお金がかかるし、手を抜くと文句を言われるしで、疲労が蓄積されていくのだ。
(毎日頑張ってる世のお母さん方には、もっと休んでほしい……!)
英雄は大変だが、日々の暮らしを一生懸命頑張っている人達だって、それだけで偉いのだ。そんな人々の暮らしを守りたいし、自分にできることであれば、やりたいと思う。
「この唐揚げっていうの、本当に美味しい。お父さんにも食べさせてあげたかったねー」
ステラちゃんが唐揚げをもぐもぐしながら、ふとそう言った。
「あの、エマさん。失礼ですが、この子達のお父さんは……?」
ライラがそう尋ねると、彼女は憂いを浮かべる。
「実は……数日前から、行方不明なんです」
「行方不明……? どうして……」
「夫だけではありません。最近エルゼンヌでは、多くの人が行方不明になっています。体調を崩す人も多いし……」
「ふむ……。魔の力の影響かもしれませんね。ですが、安心してください。私達がエルゼンヌに平和を取り戻すため、せいいっぱい尽力しますので」
「ライラ様……!」
ライラの言葉に、エマは歓喜の涙を浮かべていた。
ジャック君は、隣に座っていたルヴァインを見つめ、首を傾げる。
「お父さん、帰ってくる……?」
「ああ、もちろんだ。俺達に任せてくれ」
ルヴァインは、ジャック君の頭を撫でる。ジャック君は、嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
(ルヴァイン、子どもに優しいんだな……)
ライラにとって、子どもに優しい人というのは好感が持てる。フレッグとの間に子はいなかったとはいえ、ライラは、子どもの相手をするのは好きだ。家庭教師として働いていたときだって、ヤーシュに迫られるのは気分が悪かったが、実際に勉強を教えていたリーシュのことは、好ましく思っていた。
(そういえばリーシュ様、今頃どうしているだろう。兄のヤーシュと違って、あの子は頭がいい子だったから、何も問題ないと思うけど――)
読んでくださってありがとうございます!
よろしければ★★★★★をいただけると元気が出ます~!




