13・結界と、初めての戦闘
盛大なパーティーが行われた翌日、勇者パーティー……ライラ、ルヴァイン、アランズの三人は王都を出て旅を始めることになった。
この国レインズヴェールでは、以前は特別な魔力の満ちたダンジョンの中でしか、魔獣は生息できないものだった。だが火の魔王の出現によって、微量であっても魔王の瘴気が世界に散ってしまった。そのため今後は、ダンジョン以外にも魔獣が出現する可能性がある。だからこそ各地を巡り、光の剣の力によって魔を浄化する。それがライラの、勇者としての役割であり、この旅の目的だ。
「ライラ殿。旅に出る前に、王都に結界を張ってほしい」
「はい」
光の剣リュミエールは、光の力により結界を張ることが可能だ。これは伝説としても語り継がれていることであり、前の持ち主であるフレッグもできたはずだが。そもそも今までは魔獣がいなかったので結界も必要なかったのだ。だからこそ、フレッグは今まで力を使う機会がなく、結界を張ったことも一度もない。
ライラが持ち主になった後も今までは、リュミエールは火の魔王を倒す際に光の力を多く使ってしまったため、普通の戦闘ならともかく、結界を張るための力は戻っていなかったのだが。フレッグよりも余程光の剣の持ち主として相応しいライラと共に行動していたおかげで力も戻ってきて、今であれば王都を包むほど巨大な結界でも、生み出すことができる。
『ライラ。戦闘以外であっても、私の力を使うには、想像の力が肝要だ。この国を守る、というイメージを膨らませるんだ』
ライラの脳内に、リュミエールが語りかける。
(イメージね……それじゃあやっぱり、前世で見たアニメを思い出して……)
王都全体を覆う結界を張るイメージを張る。すると――
「!?」
ライラが持っていた光の剣を中心に、ぶわりと、とてつもない魔力が膨れ上がる。周囲で見守っていたルヴァインやアランズ、王家の人々、騎士団や魔術師団の面々も驚きで目を見開いた。
膨れ上がった魔力は、まるで砂金を撒いたような金色の煌めきを持ち、大空へと飛散する。たちまち、王都全体を包み込むドーム型の結界が完成した。数秒後、結界は無色透明に変化し、人々の目からは見えなくなる。
「視認することはできなくとも、強力な魔力は残っている。正常に結界が張られたようだ」
ルヴァインがそう言い、魔術師団の面々も頷く。魔術師でなくとも、少しでも魔法の心得がある人間は結界を感知することができている。だからこそ、歓声を上げた。
「すごい! これがライラ様のお力……!」
「魔王が復活してから、この国はどうなるのかと思ったが。この結界があるなら、王都は問題ないな」
「ライラ様、本当にありがとうございます!」
人々がライラに尊敬の眼差しを向け、ルヴァインとアランズも顔を綻ばせていた。
「まさかここまでとは驚いた。やはりあなたはすごいな」
「さすがはライラ様です! 俺、尊敬します!」
「いやー、私の力っていうか、リュミエールの力ですし……」
『謙遜することはない、ライラ。私の力も、使用者の想像力によって効果が異なる。君はとても優れた使用者だ。同じことをフレッグが行ったとしても、こうはいかなかっただろう』
(まあ私も、前世で見たアニメの想像をしてるだけなんだけどね)
だが映像で見ていたからこそ、具体的な想像もしやすく、リュミエールもイメージがしやすいのだろう。
ともかく結界を張ったライラは、旅立つことになった。王都は包み込める結界でも、さすがに国一つを一度に包み込むことはできない。そのためこれから各地で、同じように結界を張ってゆくこととなる。
王都の周囲には広大な草原が広がり、更にその先を進むと森が見えてくる。草原も森も、狼などの獣は出現するものの、今まで凶悪な魔獣はおらず、平和そのものだったはずだが――
「gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
森の中にて。日が暮れてきたところで、巨大な豚に角を二本生やしたような魔獣が、周囲の草木を薙ぎ倒しながら突進してきた。身体を黒い瘴気で包まれていることから、間違いなく魔獣だ。
「あれが、魔獣……初めて見ました」
ライラはそもそも子爵令嬢であり、ダンジョンに行ったことなどない。フレッグを刺したことも、アランズと決闘したこともあるが、魔獣との戦闘は初めてだ。
(こうして実際に魔獣と対峙すると、やっぱりすごい迫力だなあ)
「あなたにはまだ、俺の魔法を見せたことがなかったな。ここは俺にやらせてくれ」
そう言って、ルヴァインがライラの前に出た。彼は魔術師らしく、何が呪文を唱える。
「氷よ。刃となりて、魔を貫け」
刹那、宙に無数の氷の刃が出現し、魔獣を貫く。魔獣は一瞬にしてその場に倒れ、動かなくなった。
(すごい……。さすが、王国魔術師団団長)
「ライラ、後は浄化を頼む。浄化はあなたにしかできないからな」
「あ、はいっ」
ダンジョンの魔力によって生きているダンジョン魔獣ならともかく、地上で生きられるような強力な魔獣は、生死にかかわらず存在するだけで周囲に瘴気を撒き散らす。だからこそ、ただ倒すだけではなく、光の剣によって浄化することが大切なのだ。ライラは動かなくなった魔獣に剣先を向け、浄化のイメージをしてリュミエールに念じる。
「光の剣リュミエール。この魔獣を、浄化してください」
先程のルヴァインが魔法を唱えるところがかっこよかったので、つられて呪文のようなことを口にする(別に口にしなくとも浄化はできる)。するとリュミエールから眩い光が発せられ、魔獣の身体を覆っていた黒い瘴気が消えた。ただし、魔獣の亡骸そのものはその場に残っている。
「見事に浄化できたようだな。ありがとう、これで安心だ」
「さすがはライラ様です!」
「無事に浄化できてよかったです。それにしても、この魔獣の亡骸はどうしたらいいんでしょう?」
ライラが首を傾げると、アランズが挙手をして前に出た。
「俺に任せてください、ライラ様! 解体の技能は持っています。全て素材にしてみせますよ」
そう言って目を輝かせるアランズは、ライラの役に立ちたいという気持ちに満ち溢れていて、やはり大型犬っぽい。犬耳と尻尾が見えるかのようだ。
「それは助かります。じゃあ、お願いします」
「はい! スキルレベルは高いので、すぐ終わりますから」
アランズは魔法鞄から解体道具を取り出す。
今、ライラ達が使っている魔法鞄は、ルヴァインが魔力を込めたものだ。そのため、街で売られている魔法鞄と比べ性能が桁違いで、どんな大きな物でも余裕で収納できる。そのうえ、この魔法鞄の中では時間が止まるので、温かい物を入れておけば温かいまま、冷たい物を入れておけば冷たいまま保たれるのである。市販の魔法鞄ではありえないことだ。
アランズは、瞬く間に魔獣の解体を終わらせてくれた。魔獣だったものが、今では、パック詰されてスーパーに並んでいてもおかしくない「お肉」になっている。
他に、角や骨などは、武器や魔道具の素材として使えるし、ギルドに売ればお金になるらしい。
(素材もいいけど……まずは、今日の晩御飯だよね)
食料は魔法鞄の中に十分な量を持ってきているけれど、せっかく獲れたての新鮮なお肉があるのなら、これを使うのもいいかもしれない。
「あの。今晩は、これを使って私が料理を作ってもいいですか?」
子爵令嬢といえども、領地は狭く、鉱山などもないため裕福な家ではなかったので使用人はおらず、実家でも普通に家事はやっていた。フレッグとの結婚生活では、仕事や義両親の世話をやりながら家事をするのがキツかっただけで、料理自体は嫌いではない。何より――
(今の私には、前世の知識があるし。――この国では食べられなかった料理も作れる!)




