1「覚醒」
「由紀さん、もう直ぐ産まれますよ。呼吸を忘れずにね」
「ヒッ・ヒッ・フー・・痛い!!」
「フーフーって長めに息を吐いて」
「フーフー・・ヒッ・ヒッ・フー」
「もう赤ちゃんの頭が出て来てるからもう少しだけ頑張って」
「ヒッ・ヒッ・フー・・あぁ・・」
「オギャーオギャー」
「由紀さん、元気な男の子ですよ」
「由紀、よく頑張ったね有難う」
「貴方・・産まれたのね・・。香織さん、有難う、貴女のおかげよ・・ウッ・・わぁー」
「泣いてたら駄目よ。もうお母さんなんだから強くならないと」
「はい、産まれて来てくれた赤ちゃんに感謝して夫と二人で大切に育てます」
「斉藤さん、男の子の名前は決まっているの?」
「拓也です、妻と二人で決めました」
由紀は拓也を大事そうに抱き締め、幸せ一杯な表情を浮かべた。
「んっ・・ここは何処だ!?」
今回の一件について、娘の美幸には包み隠さずに全てを話した。
美幸のドナー情報が病院関係者の間で共有されてしまっており、今後も臓器移植目当ての輩に命を狙われる危険が続く事も伝えた。
「今後どうするべきか考えてみる、お休みなさい」と言って美幸は自分の部屋に向かった。
嘸かし不安だろうと心配していたのだが、翌朝、スッキリとした娘の表情から自分なりに結論を出したのだろうと判断した。
その日から娘は変わった。