第4話 いたずら?
「何だ? これ」
リクが抱えているものが理解できず、玉城は妙に甲高い声を出した。
「いや、僕に聞かれても・・・。ここに来たらドアの前にあったんだ」
リクは玉城の反応が面白かったのか楽しそうに笑うと、そっとベビーカーを下に置いた。
人間の赤ちゃんが乗ると潰れてしまいそうな、小さな小さなベビーカーだった。
「くだらないイタズラだな。誰だよ」
玉城は呆れたように卵を覗き込む。「卵は本物かな。ウズラの卵みたいだ」
「ウズラの女の子に知り合いは?」
後ろから覗き込むように多恵が割り込んできた。
「アホか。どこの世界にウズラと付き合う人間がいるんだよ」
「だって、鳥の取材してるくらいだし」
「わーっ!!」
慌てて玉城が大声を出して多恵の言葉をかき消した。
屈託無く、さっきのジョーダンを持ち出してきた多恵のタイミングの悪さを呪った。
まあ、リクの事を言ったなんて多恵は知らないのだから仕方ない。
ちらりとリクを見たが、何も気が付いていない様子だった。ホッとする。
まだ取材は終了した訳ではない。変に気を損なわれては面倒だった。
「でも、これって何かに似てるわね」
多恵がいつの間にか玉城のサンダルを勝手に履き、リクの横に来てしゃがみ込んでいる。
「ほら、鳥がさ、自分の卵を育てるのが面倒で、他の鳥の巣に卵産み付けて育てて貰うヤツ」
多恵はワザと屈託のない表情を作ってリクを見上げた。
何の紹介もしていないのに、この馴れ馴れしさは何なんだ、と玉城は呆れ、
同時にその積極性が少し羨ましくもなった。
けれど多恵が吸い付けられるのも仕方がない。男の玉城から見てもリクの容姿は魅力的だった。
自称面食いの多恵が躊躇するはずもない。
「ああ、托卵?」
リクは多恵を見て言った。
「そう! それ。托卵」
「似てるかな。カッコウはこっそり産んで逃げていくんだ。お願いしますなんて言わないよ」
「そっか。どこまでも酷い奴なのね? カッコウは。自己中過ぎるわよ」
「そうだね」
リクはクスリと笑う。
少し頬を赤らめて多恵もその取り留めもない話を続けた。
「人に押しつけて自分は楽しようなんて、鳥の風上にも置けないわよ」
リクが話に乗ってくれたのが嬉しいのか、妙に得意げな多恵。
「そうとも言えないよ」
「え?」
多恵はリクを再び見上げる。
「カッコウは他の鳥よりも体温が低いんだ。卵が自分の力で育たない確率が高い。
だから体温の高い鳥に自分の卵を温めて孵してもらう・・・っていう説もある」
「へえーー! そうなの? そうかあ、それなら仕方ないのかもね。なんだか同情しちゃう」
自分はどっから会話に混ざろうか。
玉城には、ほんの少し出遅れた感が否めなかった。
それにしても今日のリクは饒舌だ。こんなに素直に会話をする奴だっただろうか。
玉城はいぶかしげにリクをじっと見た。
「ところで、本当に誰の仕業かしらね」
多恵が小さなベビーカーを両手で持ち、立ち上がった。
「これってきっと、子供の人形用のベビーカーよね。子供のいる家があるのかしら」
「小さな子供がいるのはこの階では左端の佐々木さんとこだけだ」
玉城が何とか会話に滑り込む。
「でも、佐々木さんは人んちの前にオモチャを置き去りにする人じゃないんだけどな。きっちりした人だから」
「私が来たときには何も無かったわよ?」
「そりゃ朝の5時だもん。真っ暗だし暴風だし。卵も産み辛いよ」
「しつこいなあ、先輩」
多恵はプッと子供のように唇を突き出す。
「ああ、風か」
ふいにリクが小さく呟いた。
そして通路の天井を見上げたまま、ゆっくり佐々木さんの部屋の方へ歩き出した。
「え?なになに?」
弾んだ声を出して多恵があとを追う。
多恵の気色ばんだ恋する女子高生のような表情に苦笑しながら、
玉城もサンダルを引っかけて二人のあとに続いた。




